表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
217/291

青の国の王様Ⅱ

 パリッとした皮の中身は、ふっくらとした白身。味付けはシンプルに塩のみ。咀嚼し飲み込んだ男は、満足そうに息を吐く。


「静寂に響く焚き火の音を聞きながら、美味いものを食べる……。これぞ至福の極み……」


 恍惚と呟く男を横目に見て、シプレは「そりゃ良かったッスね」と嫌味ったらしく言った。


「それで、そろそろこっちの話を聞いて欲しいんスけど?」

「なんだシプレ、まだいたのか」

「はたきますよ」


 2人の会話を聞きながらノゾムは口元を引き攣らせる。


 ラルドの開拓地の隣で、ソロキャンプを満喫していた男。その姿はたびたび見かけていたが、それが隣国の王だなんて誰が思うだろう。


 以前は確か、1人でバーベキューをしていたはずだ。闇夜の中で焚き火を見つめて癒やされていた姿も見た記憶がある。


 この人が『スポーツの国』ブルーの王、サフィール。ノゾムが会おうとしていた相手。


「彼がブルーの城を訪ねたら、門前払いされたらしいんスけど?」


 どういうことッスかね、とシプレは眉を寄せる。サフィールは蒼い目を瞬いて、ちらりとノゾムを見て、ぱくりと焼き魚を口に入れた。


「むぐむぐ……」

「食べるのをやめてくれませんか?」

「断る。作りたてが美味いんだ」

「…………」


 シプレは頭を抱えた。サフィールはどうやら、とてもマイペースな人らしい。


 魚が骨だけになるまで待つ。ごくんと飲み込んで、サフィールはようやく口を開いた。


「門前払いは当然だ。俺は城にいないことが多いからな。そうしてもらうように、部下には言っている」

「隣国に行っていると正直に言えばいいのに」

「王が自国を放置して、ほぼ毎日隣国に行ってるとか、普通におかしいだろ」

「その自覚はあるんスか」

「せっかくの至福の時間を邪魔されるのもイヤだ」

「そっちが本音ッスよね」


 なるほどなるほど、と頷いて、シプレはコメカミに人差し指を当てる。額には薄っすらと青筋が浮いていた。


「変な王様だな」


 ハンスが正直な感想を言った。


「このゲームの王様は、だいたいこんな感じだよ」


 ノゾムはキッパリと答えた。

 今まで会った王様の中で、まともなのはシプレだけだ。


 サフィールは「失礼なやつだな」と言うが、言われても仕方がないことをしているという自覚を持って欲しい。


「俺に何か用だったのか?」

「彼はみずきちの息子なんスよ。ゲームの中で父親を捜している最中なんです」

「ふーん? そうなのか、わかった。お前の父親は」

「ちょっと、ちょーっと待った! なに教えようとしてるんスか!?」

「は? 教えてもらいたくて来たんじゃないのか?」


 小首をかしげるサフィールに、シプレは切々と訴える。主に、ノゾムの父親の気持ちについて。彼は息子に自力で見つけ出して欲しいと考えていることを。


 話を聞いたサフィールは「めんどくさ」と返した。その点だけはノゾムも同意見である。


「それじゃあ俺に何をしろと言うんだ」

「自分がみずきちでないことだけ伝えてくれたらいいッスよ」

「オレハミズキチジャナイヨ。……これでいいか?」

「はいお疲れさまでしたー」

「何なんだ、いったい」


 そんなくだらないことで邪魔をするなと、サフィールは顔をしかめる。うん、確かにくだらないことだ。この場で父親の居場所を教えてもらえるほうが、ノゾムとしては大いに助かる。


 しかしシプレはどうしても、ノゾムに自力で見つけ出してもらいたいらしい。「それじゃああとはアンディゴだけッスね」と言って笑顔でノゾムを振り返った。


「は? アンディゴだけ?」


 サフィールが訝しげに言う。


「他の王たちは」

「もう会いましたけど」

「それでなんで光一にふがふが」


 シプレがサフィールの口を塞いだ。

 

 ――え、なに?


 ノゾムは目を瞬く。サフィールはシプレの額をベチッと叩いて、口を解放した。


「何をする」

「だって、余計なことを言いそうだったから」

「わかった、俺はもう喋らん。とっとと出ていけ」


 サフィールはシッシッと片手を振ると、再び焚き火に向き直った。今度は大きなマシュマロを取り出して、細長い串に刺す。それを炎で炙り始めた。


「それ知ってる! キャンプでお馴染みのやつだ!」


 ハンスの目がキラキラと輝いた。

 シプレは叩かれた箇所を撫で撫でしながら、ノゾムを振り返る。


「まったくこの人は……。ノゾムくん、ここまでついて来てくれたのにすみません。とりあえずコイツは、みずきちと何も関係がないって思ってくださいッス」

「わ、わかりました」

「それじゃあ街に戻りましょう~」

「あ、俺しばらくここに残りたい」


 ハンスがいきなりそんなことを言い出した。マシュマロ焼きが気になるんだね。シプレはビックリした顔でハンスを見て、サフィールは眉間に深いしわを刻んだ。


「俺の邪魔をするな」

「邪魔はしない。見てるだけ。焚き火の音って癒やされるよな〜」

「ほう。この良さが分かるか」


 焚き火の横にしゃがみ込むハンス。心地よさそうに薪が弾ける音に耳を傾けるハンスを見て、サフィールは無言のままマシュマロの数を増やした。


「あのサフィールの懐に、一瞬で飛び込むなんて……」


 シプレは感心したように呟く。

 ノゾムは苦笑するしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ