神の目
「そんなに頻繁に復活して、大丈夫なんですか?」
「……ふむぅ。もともと魔王は、わしが子供のときに生み出した『黒』なんじゃもん。ずっと閉じ込めておくのは、可哀想なんじゃもん?」
神様が言うところによると。ほったらかしにしておくと、その『黒』は世界を覆い尽くしてしまう。だから封印しないわけにはいかなかった。
けれども望んで生まれてきたわけでもないのに、ずっと封印しておくのは可哀想だ。だからこそ、あえて半年に1回くらいは出てこれるようにしているらしい。
魔王の立場に立てば……確かに可哀想ではある。だけど、
「甘いというか、なんというか。それでお前、イエティにされてんじゃねぇか」
「ふぉっふぉっふぉ。まあ、こうして元に戻れたことじゃし、気にしないんじゃもん」
「少しは気にしろよ……」
おおらかというか、大雑把というか。
神様は意外と適当らしい。
美味しいお菓子をたくさん食べて、ゆっくりおしゃべりをして。それからノゾムたちは天空の遺跡へと戻った。
「また遊びに来るんじゃもん!」
ヒゲモジャの大きな神様は、大きな手をぶんぶん振って、ノゾムたちを見送った。
その姿を見て、ノゾムはポツリと言う。
「イエティ、仲間にしたかったな……」
「ノゾム、まだ言うか!?」
意外と物好きだな、とラルドは呆れた顔をした。ノゾムは仏頂面をする。だってイエティ、可愛いじゃん。
「たぶん、あの神様、そのうちまたイエティになるだろうぜ」
ジャックが言った。ハンスが首をひねる。
「なんでそう思うんだ?」
「だって、おそらく『イエティを助ける』のが神様に会う条件だろうからな」
ノゾムたちが天空の遺跡に足をつけると、天界へ続く階段は消えてなくなってしまった。再び階段を出現させるには、この遺跡にまた魔力を充填しなければならない。
そして、イエティがいなければ、初見でこの遺跡に魔力を込めようなどと考えるプレイヤーはいないだろう。
雪山と遺跡を往復するイエティの行動は、『神様に会う』という条件を満たすのに必要不可欠だということだ。
「可哀想なイエティ……」
「ああああああああああっ!!?」
「ど、どうしたの、ラルド?」
突然叫びだしたラルドにノゾムたちはビックリする。ラルドは涙目で言った。
「ミスリルのこと忘れてた……!」
「あ」
そうだった。そもそもノゾムたちがこの山に登ったのは、ミスリルを手に入れるためだった。
「……でも、イエティいなくなっちゃったし。ミスリルを見つける手段が……」
「そんなぁ!?」
ラルドはガックリと肩を落とす。そんなラルドを見て、ジャックは目をしばたいた。
「それならたぶん大丈夫だぜ」
「え……?」
「いったん街に戻って、【神依】に転職してみ」
どういう意味だろう。ノゾムは首をかしげた。ラルドは難しい顔をして、ジャックを見る。
「神依……。神を身に纏って、爆発的に力を発揮する的な……?」
「何言ってんのかよく分かんねぇけど。カムイじゃなくてカミヨリな。『神依木』に意味的には近いかな」
「カミヨリキって何……」
神依木とは、神社の境内や神域などにある『御神木』の別名のひとつらしい。神が宿る聖なる樹木のことだ。
このゲームにおいて【神依】という職業は、神の加護を得た、神に近しい力を持つもののことを言う。
「神の加護、ねぇ?」
「獲得経験値が倍になるスキルとか、職業の熟練度が早く上がるスキルとかを覚えるぜ」
「何それ欲しい!」
「もう手に入れただろ」
そう、意図せずにノゾムたちはそのレアな職業を手に入れた。
「まあ、それらはセカンドとサードのスキルなんだけど……。【神依】のファーストスキルは『神の目』っていう、探し物を見つけるスキルなんだ」
「ほう!」
探し物を見つけるスキル。なるほど、それを使えばミスリルも見つけ出せるということか。
イエティになった神様が雪の中からあんなに簡単にミスリルを見つけ出せたのも、そのスキルを使っていたからなのか……。いや、イエティは鼻をすんすんさせてたな……。
ノゾムたちはいったんブルーの首都ウートルメールに戻って、役所で【神依】に転職した。転職を一度でもすればファーストは習得できるので、これで『神の目』はゲットだ。
ラルドの『節約』で消費MPを半分に抑えた『テレポーテーション』を使って、再びセレスト山の山頂へ。『神の目』を発動する。
どういう仕組みなのかは分からないけれど、頭の中で「ミスリルを見つけたい」と強く思うだけで、ミスリルが埋まっているであろう地面が淡く光を放った。
「ミスリルゲットだぜ!!」
ようやく、本当にようやく、ラルドは念願のミスリルを手に入れることができたのだった。