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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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白の宮殿

 光は天へ吸い込まれていった。キラキラと輝く空から、ゆっくりと階段が下りてくる。ガラスのような階段だ。イエティが両手を上げて飛び跳ねた。


「……まじで、天界への道が拓かれた?」


 ラルドが呆然と呟く。うん、拓かれちゃったみたい。イエティが階段を駆け上がっていく。駆け上がるとは言っても、イエティは動きが遅いから、たいしたスピードは出ていないけど。


「俺たちも行こうぜ!」


 ジャックが目をキラキラさせて言う。


 階段は、ガラスのように透明だけれど、ガラスほど硬い素材ではないようだ。高所恐怖症のオスカーがブルブル震えている。


「……オスカーさん、ここで待ってます?」

「だ、大丈夫だ。問題ない」


 ブルブルしながら挑戦しようとするオスカーは本当に勇敢だ。震えながら階段を上って落ちてしまうとマズいので、ノゾムとラルドが片方ずつ手を繋いで上ることにした。


 階段は思っていたよりもずっと長い。このままでは宇宙まで行ってしまうのではないかと不安を感じ始めた頃に、ようやく一番上に辿り着いた。


 天井も床も真っ白な場所だ。広くて、あちこちに柱が立っていて、天井が高くて、まるで宮殿の中のようだ。


 壁に飾られた絵画やツボなんかもみんな白い。そんな真っ白な空間に、その人は立っていた。


 波打つ金色の髪。空の色をそのまま映したような瞳。陶器のような白い肌。そして、背中に生やした純白の翼。


「ようこそ『白の宮殿』へ」


 男なのか女なのか、判断できない声で言うその内容には、なんだか既視感がある。


「天使さん……?」


 このゲーム、『アルカンシエル』を始めた時に案内役を務めてくれた人だ。いや、人ではなくAIだったか。


 天使は慈愛に満ちた笑みを浮かべて、静かに頷いた。


「キミたちにまた会えて嬉しいです。そして、我が主(・・・)を助けていただき、心から感謝します」


 ――我が主?


 それはどういうことかと問い返すよりも前に、先に到着していたイエティの身体がモコモコと膨らんだ。


 全身を覆うモジャモジャの白い毛が消えていく。背中に白い翼が生えた。厳つい顔は柔和なものへと変貌し、顎に生えたモフモフの髭が唯一の名残りとなる。小さくつぶらな瞳は涙で濡れていた。


「戻れたんじゃもーん!!」


 でっかいイエティが、さらにでっかい謎の爺さんになった。


 涙をこぼしながら喜ぶ爺さんを前に、ノゾムたちはただ呆然とするしかなかった。


 その瞬間、眼前に文字が浮かぶ。




《【神依】に転職できるようになりました》




 ……【神依】ってたしか、ジャックたちが手に入れようとしていた職業だ。神様に会う、が転職条件だったはず。


 ノゾムたちはギョッとした顔を爺さんに向けた。


「コイツが神様なのか!?」


 爺さんを指差して叫ぶジャック。とてつもなく失礼な態度であるが、気持ちは分からなくもない。


 爺さんはさして気にした様子もなく、朗らかに答えた。


「そうじゃもん」

「じゃもん……」

「なんでイエティに!?」

「それには深い事情があるのじゃもん……。ここで話すのもなんじゃから、どこかに座って落ち着いて話すんじゃもん。わしのためにMPを使い果たしてしもうたから、回復が必要じゃもん?」


 それは、たしかに……。


 戸惑いつつも頷くノゾムたちに朗らかに笑って、爺さん……天空神は、天使にお茶の準備を頼んだ。




 ***




 真っ白な花が咲き誇る庭園の中で、天使が用意した紅茶とお菓子をご馳走になった。クッキーに、マカロンに、チョコタルト。フィナンシェやマドレーヌもある。


 このお菓子にはMPだけでなくHPも回復する効果もあるらしく、雪山で減った体力は全回復した。


 神様もチョコタルトを頬張りながら、満足そうだ。美味しそうに食べる顔が、どことなくイエティの面影を残している。


「うまい、うまい。相変わらず天使のお菓子は絶品じゃもん」

「ありがとうございます」

「しかし歯応えが……もっと岩のように硬くてもいいんじゃもん?」

「それでは彼らの歯が欠けてしまいます」

「むむ……それは困るんじゃもん。我慢するんじゃもん」


 どうしよう……ヒゲモジャのお爺さんが、小さな子供に見えてきた。天使はまるで保護者である。


「それで神様、なんでイエティになってたんだ?」


 サクサククッキーを頬張りながらジャックが尋ねる。

 神様は答えた。


「魔王の呪いじゃもん」

「ほう」

「わしはあの山の頂上に降りて、世界を見渡すのが好きでのう……いやあ、ほんの一瞬の隙を突かれて、あのザマじゃもん」


 空を飛ぶための翼を奪われて、天界へ帰ることが出来なくなった神様が頼ったのが、あの遺跡だったのだそうだ。


 あの遺跡は大昔に、人間と神様が交流するために使われていたものらしい。


「魔法力を蓄積させれば天界への階段が現れるはずじゃったんじゃが……なんでかぜんぜん蓄えられなかったんじゃもん。おかげで戻ってくるのに10年かかったんじゃもん」

「10年!?」


 そんなにかかっていたの!?

 というか、『なんでかぜんぜん』って……あの遺跡の魔法力を蓄積させる機能が壊れていたことに、気付いていなかった?


 ハンスとラルドがコソコソしゃべる。


「この神様って、バカなのかな」

「語尾が『じゃもん』だからな……」

「それこそ、そういうふうに設定されてんだろ。憐れんでやれよ」


 ジャックが呆れた顔で口を挟む。神様は「聞こえてるんじゃもん」と返した。


 「でも気にしないんじゃもん」と朗らかに笑う神様は、とても心が広いと思う。


「ていうか『魔王の呪い』って……。魔王は神様が封印したんじゃなかったのか?」


 ラルドが首をかしげて問いかける。そうだ、たしかそういう話だったはずだ。


 神様を見上げると、神様は大きく頷いた。


「そのとおりじゃもん」

「だったら」

「でも、魔王はたまに復活してくるんじゃもん」

「たまに復活してくる」


 どうやら神様の封印というのは、完全なものではないらしい。ちなみにその『たまに』がどのくらいの頻度かといえば、半年に1回くらいなのだそうだ。頻度高くない? 


 え、もしかして『魔王復活イベント』も、半年に1回くらいの頻度でやるのかな?

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