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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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天空の遺跡Ⅱ

「あれがミスリルか?」


 イエティが掘り出した鉱物を見て、ジャックが尋ねる。ラルドは頷いた。


「たぶんな!」

「たぶんかよ」

「魔法が宿っているものは淡く光る、だろ?」


 胡乱げな顔をするジャックにオスカーはそう返した。イエティが口に入れ、バリボリと咀嚼するペリドットに似た薄緑色の鉱物は、たしかに淡く光っていた。


 ジャックは苦く笑う。


「なるほど、魔法の力を有した鉱物には違いないわけか。てことは、イエティがあの遺跡に充填していた『何か』ってのは……」

「魔法力、かもな」


 ミスリルを食べることでイエティは体内に魔法力を蓄積させ、それを遺跡の柱に充填したのではなかろうか。

 イエティが魔法らしきものを使えたのも、それが理由ではなかろうか。


 オスカーはそう推測した。


「根拠はないけど、筋は通ってるな〜」


 お前、頭いいんだな〜と、感心したように言うハンス。そうだろう。この兄弟は頭がいいのだ。


 そうしてしばらく、ノゾムたちはイエティの行動を見守った。イエティがミスリルを頬張るたびにラルドが「ふぐっ」とか「ああっ」とか悲鳴を上げていたけど、一同は無視した。


 イエティは穴を掘ってはミスリルを食べて、という行動を5回ほど繰り返しては、あの遺跡へ足を運び、例の体操? 踊り? をして、柱を3本ほど光らせる。


 柱の光はイエティが再びミスリルを採りに行っている間に徐々に消えていって、イエティが戻って来たときには完全に消えている。


 イエティは、何度も何度も、雪山と遺跡を行ったり来たりして――。


 ノゾムはだんだん、イエティのことが可哀想になってきた。


 だってそうだろう。永遠に終わらないことを、あのイエティは繰り返しているのだ。イエティがなんであんなことを繰り返しているのか理由は分からないけれど、今すぐに駆け寄って、もういいよ、もうやめなよ、と言いたくなる。


「どうしたらいいと思う、ハンス?」

「俺に聞くなよシスコン兄ちゃん。俺はなんだか、あいつが憐れになってきたよ……」

「ああいう行動を取るようにプログラムされてんだろ」

「……俺、シスコン兄ちゃんがテイマーになれない理由が分かった気がする」

「なにっ!?」


 理由ってなんだよ、と問い詰めるジャックをハンスは華麗にスルーした。ハンスの目は、イエティの健気な行動を見つめて潤んでいる。


 ノゾムはオスカーに目を向けた。何か妙案はないか、とばかりに。オスカーは口元に手を当てて考え込んでいる。


「柱3本分……。毎回、柱3本分なんだよな。イエティが一度に蓄えられる魔法力は、それが限度なのかもしれない。それに補給にも時間がかかり過ぎてる。毎回、土を掘り返しているからな……」

「あらかじめ大量のミスリルをあの遺跡に積んでおけば、柱が消える前に補給できるのかもしれないけど……」

「……現状、そのミスリルを見つけ出せるのが、あのイエティだけだからなぁ」


 ミスリルを大量に積んでおく作戦は、残念ながら実現不可である。


「何か、代替え出来るものがあれば……」

「代替え、ですか?」

「そう。ミスリルの代わりに、魔法力を有した、俺たちにも用意出来るものがあれば、それを食わせて補給させられる」

「なるほどな!」


 ラルドがパッと表情を明るくさせた。


「それなら、MP(魔法力)を回復させるアイテムっつったらコレだろ!!」


 そう言って、ラルドが取り出したのはMP回復用のチョコレートである。ラルドはそれをイエティのもとへ持っていった。


 口元に差し出されたそれを、イエティは目を丸めて見つめる。「まあ食え!」と言うラルドの言葉が伝わったのかどうかは分からないけれど、ふんふんと鼻を鳴らして、イエティはチョコレートの匂いを嗅いだ。


 ぷいっとそっぽを向く。チョコレートの匂いは、イエティには好ましくなかったらしい。


「なんでだよ!?」

「やっぱりミスリルのほうがいいんじゃない? あんなに美味しそうに食べてたし……」


 ミスリルがどんな味なのかは分からないが、イエティにとっては最高のご飯なのだろう。


「イエティの味覚は分からないが……。そうだな、同じ『鉱物』で試してみたらどうだ?」

「鉱物?」

「『魔法力を有した鉱物』」


 持っているだろ、とオスカーはノゾムに問う。ノゾムは一瞬、何を言われているのか分からなかったが、すぐにハッと思い出した。


 ヴェールの採集地にある古びた鉱山。そこに夜の間にだけ現れるモンスター、『ジュエル・タランチュラ』。奴らがドロップする『魔石』のことだ。


 アイテムボックスから魔石を取り出してイエティのもとへ持っていく。イエティは再び、差し出されたそれをふんふんと嗅いだ。つぶらな瞳が輝く。大きな口を開け、イエティは魔石をバリボリと頬張った。


「食べた!」

「ノゾムくん、その石はまだたくさんあるのか?」

「はい、まあ、一度にドロップできる量が多いですからね」


 ノゾムのアイテムボックスには入り切らないので、『収納』のスキルを持つナナミに代わりに持ってもらっている。


 ジャックの目がナナミに向いた。ナナミは苦渋に満ちた顔をしていた。


「この『魔石』で作りたいものがたくさんあるのに……」

「採りに行くの手伝うから!!」


 とにかくこれで、イエティが無意味に往復する必要がなくなるかもしれない。


 ノゾムたちはイエティの前に大量の『魔石』を積んだ。目をキラキラさせたイエティは、「いいの?」と言わんばかりの目をノゾムたちに向ける。ノゾムが頷くと、満面の笑顔で『魔石』を頬張りだした。


「うまくいけばいいんだが……」


 『魔石』をある程度まで食べたイエティは、広場の真ん中で、またあの踊りを踊った。柱が3本分、光り輝く。これで『魔石』がミスリルの代わりになることが証明された。


 イエティは再び『魔石』を食べ始める。光る柱が残る1つになってしまったところで、蓄え終えたイエティが広場で踊る。これで柱は、計4本が光った。


 柱の数は全部で10本だ。次の踊りで、5本目の柱が光る。次は6本。順調だ。しかし最後の1本を前にしたところで問題が起きてしまった。


 イエティは一度に食べる量が半端ない。

 あんなに大量にあった『魔石』が、なくなってしまったのだ。


 ノゾムたちは崩折れた。ナナミは「私の魔石……」と涙をちょちょ切らせた。イエティは、最後の柱を見上げている。イエティのその横顔が、なんだかすごく悲しそうに見えた。


 何かしてあげたいと思った。


 ノゾムは広場の真ん中、イエティが踊っていた場所に立つ。


 どんな動きをしたらいいのかは、何度も見ていたから分かる。両手を上げたり下げたりするノゾムを見て、ラルドたちはポカンとした。


 そんな中、オスカーが「あ」と呟く。


「もしかして、『魔法力』はイエティのものである必要がない……?」


 ラルドとジャックがハッとして、ノゾムの横に並び立った。ハンスも続いた。ナナミはまだショックから立ち直れないでいる。


 空に向かって掲げた両手が光り輝く。MPが一気になくなった。最後の柱に、光が溜まっていく。


 すべての柱が光り輝いたその瞬間。


 光はひとつにまとまって、天まで届く巨大な光の柱となった。

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