イエティといっしょ
イエティにふっ飛ばされたラルドは、積もった雪に頭から突っ込んだ。そしてすぐに起き上がった。雪のおかげで、ダメージはあまりないようだ。
イエティはそんなラルドのことなどまるっと無視して、食事を続ける。バリボリ、ゴリゴリ、ごっくん。いったいどれだけのミスリルが、イエティの腹の中へ消えたことだろう。
「このデカブツめ……! 喰らえ! 『精神統一』からの『ファイヤーボール』! しかも乱れ撃ちだーーーーッ!!」
【商人】の『節約』を覚えたことでMPに余裕ができたラルドは、容赦なくたくさんの火球をイエティに向かって放つ。
ラルドの魔法攻撃力はまだ低いので、1つ1つのダメージは大したことないだろうけど……これだけたくさんの攻撃を受ければ――。
そう思った瞬間、イエティは気だるげに片手をラルドのほうへ向けた。
「……とっぷう……」
なんか呟いた、と思った瞬間、ものすごい風がイエティの手から放たれた。まるで中級魔法の『サイクロン』だ。ラルドが放った火球たちは、風に巻き込まれ、一瞬のうちに消えてしまった。
「嘘だろ!?」
「……いなずま……」
「ひぎゃっ!?」
イエティが続けて放ったのは、これまた初級魔法の『ライトニング』に似た技である。空から落ちてきた雷撃を受けて、ラルドはその場にうつ伏せで倒れた。
死んではいない……と、思う。
「ラルドーーーーッ!!」
「このイエティ、魔法が使えるのか……」
「ミスリルを食べているからかしらね?」
食事の邪魔をするラルドを黙らせたイエティは、再びバリボリとミスリルを食べる。ノゾムたちにはまったく見向きもしない。邪魔をしてこないなら、攻撃する気はないようだ。
やがて、あらかたのミスリルを食べ終えてしまったのか、イエティはのっそりと立ち上がって、またゆったりと歩き出した。残った大穴を覗き込んでみれば、ミスリルの残骸と思しきキラキラとした砂粒が、ちょっぴり散らばっているだけだった。
ゆったりのんびり歩くイエティは、大きな鼻をすんすんさせている。キョロキョロと周囲に目をやっていて、どうやらまたミスリルを探しているようだ。どれだけ腹を空かせているんだろう。そしてミスリルって美味しいんだろうか。
「アイツを追いかけていけば、ミスリルを見つけられそうだな」
「でも、見つけたところで、また食べられてしまうのでは」
すべて食べられてしまう前に、どうにかしてミスリルを手に入れる手段を考えておかねばならない。
「ちくしょー、あのデカブツめ! 絶対に許さねぇ!」
がばりと身を起こしたラルドは声高に叫ぶ。死んでいなくて何よりである。
***
のっそりのっそりと歩くイエティの後ろを、ノゾムたちは追いかけた。最初は気付かれないように距離をあけて、そろりそろりと追いかけていたのだが、イエティはこちらが攻撃する意志を持たなければ何もしてこない。
ミスリルを食べる邪魔をした時には容赦なくぶっ飛ばされたけど、それ以外の時には特に害はないので、そのうちにいつの間にか隣に並んで歩くようになってしまった。
ミスリルを食べる邪魔をした時には本当に、欠片も容赦なく、こてんぱんにされてしまうのだけれど、こうして隣を歩いてその顔を見上げていると、なんとなく愛着が湧いてくる。
「……このイエティ、『破邪』で仲間にできたりしないかな?」
「正気か、ノゾム?」
ラルドがびっくりした顔で見てきた。
ノゾムは頷く。
「なんていうか、意外と可愛くない? 動きもさ、のっそり、のっそり、だし」
「そうか? いや、でも……。自分を何回もぶっ飛ばしてきた相手に、よくそんなことが思えるな?」
たしかにこのイエティには、ここまでの道中にもう3回はぶっ飛ばされた。ラルドは7回ぶっ飛ばされている。それでもミスリルを手に入れられなくて、ラルドはちょっぴりイライラしている。
「『破邪』で仲間にできたら、ミスリルも手に入れられるかもよ?」
「そうかな〜?」
ラルドは疑わしげだ。ナナミが「試してみたら?」と言ってくる。ノゾムは頷いて、そおっとイエティに手を伸ばしてみた。
攻撃する意図がないからか、イエティは簡単に白い毛に覆われた太い腕に触らせてくれた。
「『破邪』」
触れたところから白い光が発生する。紫色の煙が……ちょっぴり出てきたけれど、それだけだ。のっそりと歩くイエティに、変化はない。
「ダメっぽい」
「さっきのユキヒョウみたいに、何回もかけたら仲間になるんじゃない?」
「うーん」
ノゾムは繰り返し『破邪』をかけてみる。が、10回かけても、20回かけても、イエティに変化はなかった。
このイエティは仲間にできないタイプのモンスターなのかもしれない。そんなモンスターも、この世界には存在しているのかも。
やがて幾度目になるか分からないミスリル争奪戦がおこなわれる。またもやぶっ飛ばされながら、ノゾムはどうしたものかと頭を悩ませた。