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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第5章 スポーツの国ブルーと密林の国アンディゴ
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雪山にて

「いくぜ! 超スーパーミラクルラルドスペシャル!!」


 滑走を活かして勢いよく飛び上がったラルドは、ボードの縁を持ち、クルクルと回転する。縦回転と横回転に捻りも加えて、見ているだけでも目が回りそうだ。


 着地は鮮やか。そのままスイーッと雪の上を滑って、下で待つノゾムたちのもとへやって来る。


 めっちゃドヤ顔だ。


「どうだ? オレの華麗な滑り!」

「そうね。ネーミングセンスは相変わらずだけど、すごかったわ。とても、浅い川で溺れるような人間の動きとは思えない」

「フッ、あれはオレの仮の姿。本物のオレはセンスの塊だぜ!」

「向こうが本物に決まってるでしょ。現実見なさいよ」


 ナナミは辛辣だ。しかしゲームの中では運動センス抜群、リアルでは超絶運動おんちのラルドは、まったく聞いていない。


 まったく都合のいい耳である。


「待たせたな」


 そこへ、ログインしてきたオスカーが合流した。「この国はひんやりしていて気持ちがいいな」と目を細めている。現実世界は地獄のような暑さだから、なおさらそう思うのだろう。


「雪山に登るんだってな?」

「はい。でも、モンスターが出るらしくて」


 スキーやスノーボードが楽しめるこのゲレンデには、モンスターは出現しない。しかしこのゲレンデより上に登ると、モンスターが出現するエリアになる。


 どんなモンスターが出てくるか分からないし、リオンは戦えないので、オスカーがリオンと交代するのを待っていたのだ。


「ミスリルか。俺も欲しいな」

「オスカーさんも魔法を使いますからね」


 魔法攻撃力を高めるミスリル製の武器は、魔道士タイプのプレイヤーこそ手に入れたいものだろう。


「さっそく行くか」

「待って待って、あともうひと滑り」

「置いてくぞ」


 ラルドは再びクルクルと宙を舞う。本当に、リアルで運動おんちだとは思えない滑りである。




 ***




 吐く息が白い。雪を踏みしめる足が、じんと冷える。音という音が雪に吸い込まれ、とにかく無音。というか寒い。半端なく寒い。


「スキー場あたりは『涼しくて気持ちがいいな』って感じだったけど、上のほうは温度を変えているのか……」

「ま、マイナス30度くらいかな??」

「さすがにそこまではないだろ」


 オスカーは「冷凍庫くらいじゃないか」とあたりを付ける。ラルドはガタガタ震えながら、「冷凍庫の中とか入ったことない!」と返した。


「寒すぎて死ぬ! 助けてカイザー!」


 ラルドはアイテムボックスからカイザー・フェニッチャモスケを出した。フェニッチャモスケは「ピィーーッ!!」と元気よく飛び出した。


 ……が。


「ピ、ピィ〜……」

「カイザー!!?」


 フェニッチャモスケは羽根を小さく折り畳んでブルブルとうずくまった。炎の化身とも呼ぶべきモンスターなのに、いや、だからこそなのか、フェニッチャモスケは寒さが苦手なようである。


「しっかりしろ、カイザー!!」

「ふふ、ここでは私の相棒のほうが活躍できそうね」


 ナナミはアイテムボックスからグラシオを出す。グラシオの薄灰色の毛皮は、雪の色に見事に溶け込んだ。


「たしかにユキヒョウは、もともとこういう標高の高い雪山に棲んでるんだよね」

「でも、こいつってたしか、森の中にいたじゃん」

「それはそうだけど」


 しかも豹の群れに混じっていたけれど。豹という生き物が群れを作っていたこと自体おかしなことだったし、アレはバグか何かなのではとノゾムは思っている。


 ナナミはグラシオに抱きついて「あったかーい」と呟いた。ラルドが羨ましそうにしている。フェニッチャモスケはブルブル震えながら、自らの意志でアイテムボックスに戻っていった。


「ノゾムはロウを出さないのか?」


 オスカーが聞いてくる。

 ノゾムは頷いた。


「どんなモンスターがいるか分からないですからね。ここのモンスターが強くなさそうだったら出しますけど」


 ノゾムはロウが再び『生まれ直し』するのだけは避けたいのである。レベル1から育てなおすことになってしまうし、何よりロウが死んでしまうのは、自分が死に戻りするよりもずっと辛い。


 雪山に生息するモンスターは、シロクマに似た巨大なやつや、大きな枝角を生やしたトナカイのようなやつ。それに青い炎を吐く怪鳥に、鋭い爪と尖った牙を持つユキヒョウなどだ。どいつもこいつもレベルが高いのか、なかなか強い。


 そして「グラシオの仲間が欲しい!」とナナミが言い出してユキヒョウに『破邪』を使ったことで分かったことなのだが、この『破邪』というスキルは使えばどんなモンスターでも仲間にできるわけではなく、相手の強さによって成功率が変わるようだ。


 何度か挑戦すればそのうち成功するようだけど、強いモンスターを相手に何度も触れにいくのは、そう簡単なことではない。


「オレ、ドラゴンを仲間にしたいんだけどなー。この調子じゃあ、難しそうだなー」

「……そうだね」


 ドラゴンは、高レベルのプレイヤーが数人がかりでやっと討伐できるレベルのモンスターらしい。仲間にするのは並大抵のことではないだろう。


 雪山は、登っても登っても景色が変わらない。どこまでも真っ白だし、ところどころに枯れた木が立っているだけで、他に植物も見当たらない。


 こんな中で、どうやってミスリルを探せばいいのか……。

 ここらへん一帯を掘りまくれば出てくる、というわけでもないだろうし。


 どうしたものかと困っていると、視界の端に巨大な白い毛むくじゃらが入り込んだ。


「またシロクマか!?」


 ラルドが大剣を構える。白い毛むくじゃらは、そんなラルドのことなど気にせずに、のっそりのっそりと、その巨大な身体を左右に揺らしながら歩いてくる。


 シロクマかと思ったが、そうではない。モジャモジャした長くて白い毛が全身を覆っているけど、顔には毛がなく、肌が赤い。なんとなく、サルやチンパンジーに似た顔だ。口が大きくて、下顎が突き出ていて、尖った牙が生えているのが見える。


「なにあれ?」

「イエティじゃないか?」

「イエティって実在すんの!?」

「ゲームの中だからなぁ」


 イエティらしき毛むくじゃらの何かは、のっそりのっそりと、ノゾムたちの横を通り過ぎる。戦う気はないらしい。モンスターじゃないんだろうか。どう見ても怪物なんだけど。


 のっそりのっそりと進んでいたイエティは、ふいに足を止めて、鼻をふんふん鳴らした。なんかキョロキョロしている。何かを探しているのだろうか?


 あたりをつけたのか、イエティは突然その毛むくじゃらな腕で雪を掘り始めた。深く積もった雪をどんどん掘っていくと、やがて土のある場所に到達する。その土をも、イエティはどんどん掘り進める。


「なんなんだ?」


 掘って、掘って、掘って。イエティはやがてそれ(・・)を掘り出した。キラキラと輝く薄緑色の鉱石。ペリドットに似ているけど、ペリドットがあんなに光り輝くだろうか。


「あれって、まさかミスリル!?」

「おおっ、マジか! こんなにすぐ見つかるなんて幸先いいじゃん!」


 ――喜びもつかの間。


 イエティはその大きな口を、さらに大きく開けた。ミスリルと思しき鉱石は、その口の中へ……。


「あああああああっ!!?」


 バリボリと音を立てて噛み砕き、ごくんと飲み込むイエティ。食べちゃったよ。そしてなんだかすっごく幸せそうな顔をしているよ。


「く、食いやがった! ミスリルを!」

「ミスリルって美味しいのかな……」

「人間が食えるわけないだろ……」


 満足そうな顔をしたイエティは、さらに土を掘り返していく。ミスリルはまだそこに埋まっているようだ。出てきたミスリルをイエティは片っ端から食べていく。


「このままじゃ食べ尽くされちまう! くっそー! このデカブツめー!!」

「あ、ラルド!」


 食事中のイエティにラルドは容赦なく斬り掛かっていく。イエティは腕を振った。ラルドはあっけなく吹っ飛ばされてしまった。


「ラルドーーーーッ!!」

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