射撃方法はいろいろあるⅡ
ノゾムが最初に攻撃して、ジャックたちがトドメを刺す、という流れを幾度となく繰り返す。確かにレベルは面白いように上がっていくけれど、正直言って楽しくはない。
単調な作業は飽きをもたらすし、そういえばレベル上げが苦で投げ出してしまったゲームもあったっけ。
レベルが上がるにつれてアバターの身体は動かしやすくなっていく。弓を引く力も、どんどん上がっている実感があった。
だが、つまらない。
これならまだ、クリスタル・タランチュラと戦っていた時のほうが楽しかったかもしれない。怖かったけど。
《レベルが上がりました》
《新たなスキルを習得しました》
何匹目かのネズミを倒したところで、ようやく狩人のセカンドスキルを習得した。
「スキルを習得できました……!」
「おお、良かったな〜!」
「とりあえず一区切りか」
ジェイドはふぅ、と息を吐く。単調な作業に辟易していたのは彼も同じらしい。付き合わせてしまって申し訳なく思った。
ジャックは刀を手にキラキラした顔で言う。
「で、どうする? ラルドの説法が終わるまで、まだ時間がかかると思うけど。あれ1時間かかるからな〜。終わるまでまだレベル上げしとく?」
「い、いや、ちょっと休ませてください」
「なんでそんなに楽しそうなんだよ……」
ジェイドがうんざりした顔で問う。ジャックは喜々として答えた。
「自分の手で若手を育ててる感じ? 俺、育成ゲームとかすっげぇ好きなんだよ」
「ああ……お前、めっちゃ厳選してそうだよな」
「いやぁ、厳選はしないかな〜。弱いキャラを時間かけて強くするのが好きだな〜」
よく分からないが、ノゾムは弱いキャラだと思われているということでいいだろうか?
間違っちゃいないが、少しくらいは怒ってもいいだろうか。
「待て待て。それよりも弓の練習にあてたほうがいいだろ! 弓を極めるならば、兎角、鍛錬あるのみだ!」
ユズルがふんぞり返って言う。ジャックとジェイドは「ええ〜」と嫌そうに返すが、ノゾムはその通りだと頷いた。
いくらレベルが上がって身体能力が向上したところで、射撃能力が低いままでは戦闘で役に立たない。
「そうだ、君は『曲射』というものを知っているか?」
ふいにユズルがそんなことを聞いてきた。
ノゾムは首をひねる。
「きょくしゃ……ですか?」
「おいおいおい、素人に何を教えようとしてるんだこの弓バカ!」
何故かジェイドが焦った顔をしてユズルに詰め寄った。どうしたんだろう。ユズルはジェイドを押しのけて「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「バカはお前だ、弓の素晴らしさも分からんバカめ」
「ああもう、お前本当にめんどくせぇな!」
ぎゃんぎゃんと言い合う2人。置いてけぼり感が半端ない。
同じく置いてけぼりにされているジャックが、簡単に説明してくれた。
「的に向かってまっすぐに射つことを『直射』、山なりに放物線を描くように射つことを『曲射』っていうんだ。文字通り、射線が曲がる射ち方だな。障害物を越えて攻撃することが出来るんだよ」
「へぇ……なんか難しそう」
「めちゃくちゃ難しいよ。俺には出来なかった。危ないから使う気にもならなかったし」
「え? 危ない?」
「もうお前とは話にならん! ノゾム、こっちに来い! 教えてやるから!」
憤慨したユズルが手招きする。ノゾムはちょっぴり不安に思いながら、ユズルのもとへ向かった。
「おいユズル!」
「まあまあ……この辺は他のプレイヤーもいないっぽいし、1回やってみれば、ノゾムくんも使わないほうがいいって分かるだろ」
ノゾムはユズルに言われるままに、弓を上に向けて構える。
ユズルいわく、この時に大切なのは角度だ。構える角度によって、飛んだ矢がどこに落ちるのかが決まる。
真上に放てば、矢は自分に向かって落ちてくるだろう……ジャックの言う『危ない』とは、そういう意味だろうか。
少し離れたところにネズミのモンスターがいる。申し訳ないが、的になってもらうことにした。どうせ当たらないだろうが、的はないよりあったほうがいい。イメージがしやすいからだ。
矢を放つ。山なりに飛んでいった矢はネズミの頭上を通り越して、岩の向こうへと消えてしまった。
「なに、この飛距離……」
ゆうに100メートルは飛んだだろうか。もっといったかもしれない。ネズミはチューチュー言いながら、岩の影に逃げてしまった。
「驚いたか? 曲射は飛距離が出るんだ」
「へ、へぇ……でも、的を通り越してしまいましたけど」
「角度が違ったんだろうな。まあ、その辺はだんだんと感覚を身につけていけばいい」
「計算はしないんですか?」
「数学は苦手でな」
ユズルはそう言って目をそらした。計算が苦手なら、感覚頼りになるのは仕方がない。そしてジャックが『危ない』と言う理由も分かった。
あんなに飛ぶんじゃあ、他のプレイヤーに誤って当たってしまうかもしれない。共闘だって難しいだろう。
ちゃんと練習しないければ、使えない技だ。
「こんの…………下手くそがああああああああ!!!」
突然、岩の向こうから怒声が響いた。
ドシィン、ドシィンと、地響きが鳴る。徐々に近付いてくるそれが足音だと気付いたのは、岩の奥から凶悪な顔が現れてからだ。
獣の頭蓋骨を模したマスクをかぶった、縦にも横にも大きな巨体の男。手には圧し折れた矢。ノゾムが射った矢だろうか。
「ほら見ろ」
ジェイドは口元を引き攣らせて言った。
「トラブルを引き寄せたぞ」