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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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射撃方法はいろいろあるⅡ

 ノゾムが最初に攻撃して、ジャックたちがトドメを刺す、という流れを幾度となく繰り返す。確かにレベルは面白いように上がっていくけれど、正直言って楽しくはない。


 単調な作業は飽きをもたらすし、そういえばレベル上げが苦で投げ出してしまったゲームもあったっけ。


 レベルが上がるにつれてアバターの身体は動かしやすくなっていく。弓を引く力も、どんどん上がっている実感があった。


 だが、つまらない。


 これならまだ、クリスタル・タランチュラと戦っていた時のほうが楽しかったかもしれない。怖かったけど。


《レベルが上がりました》

《新たなスキルを習得しました》


 何匹目かのネズミを倒したところで、ようやく狩人のセカンドスキルを習得した。


「スキルを習得できました……!」

「おお、良かったな〜!」

「とりあえず一区切りか」


 ジェイドはふぅ、と息を吐く。単調な作業に辟易していたのは彼も同じらしい。付き合わせてしまって申し訳なく思った。


 ジャックは刀を手にキラキラした顔で言う。


「で、どうする? ラルドの説法が終わるまで、まだ時間がかかると思うけど。あれ1時間かかるからな〜。終わるまでまだレベル上げしとく?」

「い、いや、ちょっと休ませてください」

「なんでそんなに楽しそうなんだよ……」


 ジェイドがうんざりした顔で問う。ジャックは喜々として答えた。


「自分の手で若手を育ててる感じ? 俺、育成ゲームとかすっげぇ好きなんだよ」

「ああ……お前、めっちゃ厳選してそうだよな」

「いやぁ、厳選はしないかな〜。弱いキャラを時間かけて強くするのが好きだな〜」


 よく分からないが、ノゾムは弱いキャラだと思われているということでいいだろうか?

 間違っちゃいないが、少しくらいは怒ってもいいだろうか。


「待て待て。それよりも弓の練習にあてたほうがいいだろ! 弓を極めるならば、兎角、鍛錬あるのみだ!」


 ユズルがふんぞり返って言う。ジャックとジェイドは「ええ〜」と嫌そうに返すが、ノゾムはその通りだと頷いた。


 いくらレベルが上がって身体能力が向上したところで、射撃能力が低いままでは戦闘で役に立たない。


「そうだ、君は『曲射』というものを知っているか?」


 ふいにユズルがそんなことを聞いてきた。

 ノゾムは首をひねる。


「きょくしゃ……ですか?」

「おいおいおい、素人に何を教えようとしてるんだこの弓バカ!」


 何故かジェイドが焦った顔をしてユズルに詰め寄った。どうしたんだろう。ユズルはジェイドを押しのけて「ふんっ」と鼻を鳴らす。


「バカはお前だ、弓の素晴らしさも分からんバカめ」

「ああもう、お前本当にめんどくせぇな!」


 ぎゃんぎゃんと言い合う2人。置いてけぼり感が半端ない。

 同じく置いてけぼりにされているジャックが、簡単に説明してくれた。


「的に向かってまっすぐに射つことを『直射』、山なりに放物線を描くように射つことを『曲射』っていうんだ。文字通り、射線が曲がる射ち方だな。障害物を越えて攻撃することが出来るんだよ」

「へぇ……なんか難しそう」

「めちゃくちゃ難しいよ。俺には出来なかった。危ないから使う気にもならなかったし」

「え? 危ない?」

「もうお前とは話にならん! ノゾム、こっちに来い! 教えてやるから!」


 憤慨したユズルが手招きする。ノゾムはちょっぴり不安に思いながら、ユズルのもとへ向かった。


「おいユズル!」

「まあまあ……この辺は他のプレイヤーもいないっぽいし、1回やってみれば、ノゾムくんも使わないほうがいいって分かるだろ」


 ノゾムはユズルに言われるままに、弓を()に向けて構える。


 ユズルいわく、この時に大切なのは角度だ。構える角度によって、飛んだ矢がどこに落ちるのかが決まる。

 真上に放てば、矢は自分に向かって落ちてくるだろう……ジャックの言う『危ない』とは、そういう意味だろうか。


 少し離れたところにネズミのモンスターがいる。申し訳ないが、的になってもらうことにした。どうせ当たらないだろうが、的はないよりあったほうがいい。イメージがしやすいからだ。


 矢を放つ。山なりに飛んでいった矢はネズミの頭上を通り越して、岩の向こうへと消えてしまった。


「なに、この飛距離……」


 ゆうに100メートルは飛んだだろうか。もっといったかもしれない。ネズミはチューチュー言いながら、岩の影に逃げてしまった。


「驚いたか? 曲射は飛距離が出るんだ」

「へ、へぇ……でも、的を通り越してしまいましたけど」

「角度が違ったんだろうな。まあ、その辺はだんだんと感覚を身につけていけばいい」

「計算はしないんですか?」

「数学は苦手でな」


 ユズルはそう言って目をそらした。計算が苦手なら、感覚頼りになるのは仕方がない。そしてジャックが『危ない』と言う理由も分かった。


 あんなに飛ぶんじゃあ、他のプレイヤーに誤って当たってしまうかもしれない。共闘だって難しいだろう。


 ちゃんと練習しないければ、使えない技だ。



「こんの…………下手くそがああああああああ!!!」



 突然、岩の向こうから怒声が響いた。


 ドシィン、ドシィンと、地響きが鳴る。徐々に近付いてくるそれが足音だと気付いたのは、岩の奥から凶悪な顔が現れてからだ。


 獣の頭蓋骨を模したマスクをかぶった、縦にも横にも大きな巨体の男。手には圧し折れた矢。ノゾムが射った矢だろうか。


「ほら見ろ」


 ジェイドは口元を引き攣らせて言った。


「トラブルを引き寄せたぞ」

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