雪国ブルーへ
小屋を作り終えたら、今度はロウが遊べる玩具が欲しくなってきた。カントリーロッジの中で怯えるリオンを放置して、ノゾムはナナミと共に、どんな玩具がいいのか案を出し合う。
そうこうしているうちに、街へ行っていたラルドが戻ってきた。
「あらラルド、久しぶりね?」
「おう、久しぶりだな! さっきそこでアルベルトに会ってきたんだけど」
「はい?」
ナナミは訝しげに眉を寄せる。リオンは「誰それ」と首をかしげた。ノゾムは目を見開いて、ラルドを見た。
アルベルトって……まさか、オランジュの鉱山にいた、PKのアルベルト?
「なんで?」
「知らねえ。声をかけたら、嫌そうな顔をして逃げてった」
「なんでわざわざ声をかけたんだよ……。まさかもうバトルアリーナの服役が終わったのか? あのヴィルヘルムとかいう人に、5連勝できたのかな?」
「どうだろな〜。ヴィルヘルムがいない間に勝ち進んだのかもよ」
アルベルトの戦い方は、とにかく奇襲に特化したものだ。姿を消せる『隠密』と敵に状態異常を付与させる【薬師】の『スモーク』を駆使して、相手の急所を確実について殺る。なんとも卑怯な戦い方だ。
たいていの相手はそれですぐやられるのだけど、『バトルアリーナの極悪人』ことヴィルヘルムは、防御力重視でステータスを上げている上に【ドラゴンキラー】の『鋼鉄の肉体』という、防御力をさらに上げるスキルを持っていた。
首を狙うアルベルトの刃は、ヴィルヘルムを傷付けることが適わなかったのである。
ヴィルヘルムがいる間はアルベルトが勝ち抜くことは不可能だ。ということは、ラルドの言うとおり、ヴィルヘルムがいない間に勝ち抜いてバトルアリーナを出てきたのだろう。
一生檻の中にいればいいのに。ノゾムは苦々しく思った。アルベルトは以前ロウを死に戻りさせた人物なので、ノゾムはヤツが大嫌いなのである。
「アルベルトって誰?」
リオンが再び聞いてくる。
「PKですよ」
「ぴーけー……って、プレイヤーキラー!? え、こわ!」
「関わらないに越したことはないです」
しみじみと告げるノゾムに、リオンは大きく頷いた。ノゾムは眉間にしわを寄せた。
「アルベルトのやつ、何しにこの国に来たんだろ? 意外とモノづくりが好きなのかな?」
「ミーナを追ってきたんじゃないの? あの2人知り合いなんでしょ?」
「ミーナ? ミーナって、アブリコにいたミーナちゃん? 懐かしいなぁ。彼女もこの国に来てるの?」
「あれ? リオンさんも会って……ないのか。あの時はオスカーさんに交代してましたね」
そしてオスカーはいきなり「サイテー男」と罵られていた。
「草の補充に来たのかもしれないぜ。状態異常を引き起こす草、この国でよく採れるしさ」
ラルドの言葉に、そういえばそうだった、とノゾムは思い出す。
ラルドは採集地に生えていた草にむやみに触れて、『麻痺』になったり『沈黙』になったりしたことがあるのだ。
あの時はたまたま通りかかったシプレに助けられたから良かったけれど。
「アルベルトの話はもういいよ。それよりラルド、K.K.さんの話は何だったの? ミスリルのこと?」
「おお、そうだった。そうだよ、ミスリルだ」
ラルドは「うぉっほん」とわざとらしく咳をした。
「ミスリルは、雪深き山の奥地で採れる」
らしいと、K.K.は言っていたらしい。
ノゾムは怪訝な顔をした。
「雪深き山?」
雪といえば、思い当たるのはこれから向かおうとしていたヴェールの隣国。アンディゴへの通り道でもある、『スポーツの国ブルー』だ。
ブルーは常に雪に覆われている国で、年中いつでもウィンタースポーツが楽しめるようになっているらしい。
現実世界のノゾムはめちゃくちゃ運動おんちなので、スポーツなんてものは大の苦手だ。ゲームの中ででも、別にやりたいものではない。だが、たしかルージュの王城の門兵の話では「ここはゲームの中なので、とんでもプレイがやり放題なんだぞ」とのこと。
フィギュアスケートで10回転なんてのも、普通にできるらしい。
見るだけなら楽しいかもしれない。
「それじゃあアンディゴの前に、ブルーでミスリル探しだね」
「おうよ。“魔王復活イベント”まであんま時間もないし、急ごうぜ。王様にも会わなきゃだしな!」
そんなわけで、ノゾムたちはヴェールを発つことにした。
***
ジョーヌからは飛行船を使って来たけれど、今度は船に乗ってブルーへ向かう。船は大きな帆が4つも付いた、大型の木造帆船だ。
ヴェールの王シプレは見送りにも来てくれた。来た時には出迎えもしてくれたし、本当に今まで会った王の中で一番積極的にプレイヤーと関わってくれる王である。
「みずきちに会えることを祈ってるッス。無事に会えたら、またこの国に遊びに来て欲しいッス」
シプレはノゾムに笑顔を向けてそう言った。
ノゾムは「もちろん」と頷いた。
モノづくりの楽しさは、ようやく分かりかけてきたところだ。
帆船の船長は白い髭を生やした大柄なお爺さんだった。たっぷりと携えたその髭を見て、「次の王様はこれくらい髭が生えてるといいなぁ」とラルドが呟いている。
王様といえば立派な髭だ、というラルドの理屈は、ノゾムにはやっぱり分からない。
お爺さんが指揮する船は高波を物ともせずに大海原を走っていった。
ギザギザに尖った白い山々が近付くにつれて、肌に触れる空気がどんどん冷たくなってくる。
ヴェールからブルーまでの距離はあっという間だ。ブルーの港には、大小さまざまな船が泊まっていた。瑠璃色の三角屋根や道には雪が積もっている。街の中央には大きなスケートリンクがあって、人々が思い思いに滑って遊んでいた。
リンクの脇の街灯の下に隠れている、赤髪の男。雪国には似合わない色黒の肌に、頭には白いターバンを巻いている。
男がノゾムに気付いた。ノゾムは思いっきり眉間にしわを寄せた。男は街灯の脇から転がるように飛び出てきて、ノゾムの足にしがみつく。
「頼む! オレを仲間に入れてくれ!!」
土下座せんばかりに告げる男。
ノゾムは間髪入れずに答えた。
「嫌ですけど?」
「だから即答やめろ!?」
エレンとの再会である。
第4章はこれにて完結です。これまでで一番短くなってしまった(;・∀・)
モノづくりって楽しいんですけど、文章でその楽しさを表すのはなかなか難しいです。何十時間もかかる作業でも、文章に起こすとあっという間ですしね。かといって、作業内容を細かく書くのもなんだかな〜って感じですし。
次は雪国です。ぼちぼち終わりに向けて風呂敷を畳んでいかねばなりません……うまく畳めるかな? 畳めるといいなぁ。
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