表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
207/291

ノゾムのモノづくり

 あれから3日が経ち、ラルドは元気に復帰した。家族旅行は楽しかったそうだ。ただ、自分の運動不足をヒシヒシと感じたらしい。


「どこに行ったの?」

「山でキャンプ。山菜採ってー、釣りをしてー、うっかり足を滑らせて溺れそうになったぜ」

「……、大丈夫?」

「父ちゃんがすぐに助けに来てくれたし、意外と浅い川だったから全然平気」


 そんな浅い川で溺れそうになるなんて、リアルのラルドはどれだけ鈍臭いんだ。ゲームなんてやってないで体力作りをしたほうがいいんじゃないのか。


 ちなみにラルドのお父さんは今日も仕事は休みなのらしい。お盆休みだものな。ノゾムの母親もちょうど連休に入っている。息子がゲームに入り浸りだと知って「いいじゃない、どんどんやりなさい」と親指を立てる始末である。

 母親としてどうなのかと思う。


「それで? ブルーとアンディゴの王様に会いに行くのか?」

「そうだね。それが親父を見つけるヒントになるって、シプレさんは言ってたし。いい加減、親父をぶん殴りたいし」

「理由が過激だな……。まあ、ブルーにもアンディゴにも行くから、ちょうどいいな」


 『魔王復活イベント』に挑戦するなら、イベントが始まる前にアンディゴに到着しておく必要がある。魔王がいる『常闇の国ヴィオレ』は、アンディゴの北に浮上する予定だからだ。


 アンディゴはもちろん、アンディゴへの通り道である『スポーツの国ブルー』にも行くことになるので、そのついでに王様に会いに行こう。もちろん、簡単に会えるとは限らないけれど。


「それで? ノゾムは何を作ってるんだ?」


 ラルドはようやく問いかけた。ラルドの視線は、先ほどからトンカチを振るノゾムの手元に注がれている。ノゾムは目線をそれから離さないまま答えた。


「何って、ロウの小屋だけど」

「ほっほー」

「暇だったんだよ! 昨日は1日『夜』の日だったからラルド抜きでレベル上げするのはキツかったし」


 他プレイヤーの開拓地観光も、2日あればだいたい見終わってしまった。この国の役所で最初に貰える開拓地の広さは1ヘクタール。お金を払えば土地を広くすることも可能だけど、ほとんどの開拓地はそこまで広くない。


「簡単な小屋の作り方なら、リオンさんが教えてくれるっていうし」

「あいつ、何でも知ってんな……」


 まったくである。モンスターを前にすると逃げ出すところと、女性を前にするとおかしなことを言い出すところを除けば、リオンはめちゃくちゃ有能なのである。


 本人にそれを告げたところで「オレなんかを評価してくれてありがとう!」と言われるだけなのだけど。何故にそこまで自己評価が低いのか。


「でも、ちゃんと教えてもらったとおりに作ってるのに、どうしてか隙間が空いちゃうんだよね……」

「……板が微妙に歪んでるからじゃね?」

「やっぱり歪んでるか……」


 ノゾムの不器用は一朝一夕には直らない。仕方がないので、隙間が空いた箇所には別の板を張り付けて補強することにする。なんとも不格好な小屋になってしまった。


「屋根の色は何にしようかな……」

「手伝ってやりてぇけど、ケイ姐さんから呼び出されてるんだ。ミスリルの在り処が分かったのかも。オレ、ちょっと行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」


 ラルドはあっという間にいなくなった。相変わらず忙しい男である。ラルドがいなくなってしばらくした頃に、自分の開拓地へ行っていたナナミがリオンを伴ってやって来た。


「ちゃんと小屋が出来てるじゃない」

「すんごく不格好だけどね」

「これはこれで味があるわよ」

「味……?」


 味があるって何だろう。やはりナナミは、意外と何でも有りなんじゃなかろうか。


 リオンがにこやかに言う。


「大事なのは、ロウくんが気に入るかどうかじゃないかな?」


 なるほど。それはもっともだ。


「そうですね……出てきて、ロウ!」

「わっ、わっ、わっ、ちょっと待って!!」


 リオンは慌てて、ラルドが建てたカントリーロッジの中に飛び込んだ。アイテムボックスから出てきたロウは「あん!」と鳴いて、尻尾を振る。うん、可愛い。


「ロウ。ロウに小屋を作ってみたんだけど……」


 そこでふと不安が湧いてくる。


 気に入られなかったらどうしよう。

 そもそも『小屋』として認識されなかったらどうしよう。

 ていうかこれってどう見ても犬小屋だし、そもそもロウは狼なんだってことを、ノゾム自身が忘れかけていた気がする。


「えーっと……」


 ノゾムは視線を右往左往させる。ロウは小屋の入口で鼻をすんすんさせた。中へ入る。寝転がった。可愛い。


「ロウ〜〜〜っ!」

「気に入ったみたいね」


 良かったわね、とナナミは笑みを浮かべる。うん、本当に良かった。ノゾムの不器用はなかなか直らないけれど、不器用であってもモノづくりというのは楽しめるものらしいと、ここへ来てノゾムはようやく理解した。


 屋根の色はロウの毛色に合わせて赤にすることにする。相変わらず下手くそだが、これはこれでいいのではないかと思えた。


「うん、良かったね。本当に良かったね。でも、ちょっと引っ込めてくれないかな〜?」

「……リオンさん。モンスターだと思うから怖いんですよ。いいですか、こいつは犬です。仔犬です。よく見てください、可愛いでしょ!?」


 ノゾムは力説するが、リオンは怖がるばかりだ。他のモンスターならいざ知らず、ロウを怖がるのは本当に理解できない。だってロウは可愛いのに!


 ナナミがぽそりと「ノゾムだって最初は怖がってたのに」と呟いたけど、ノゾムは全力で聞こえていないふりをした。


「ロウは可愛いです!」

「わかったってば〜〜〜!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ