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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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緑の王の開拓地

「このモアイ像、シプレさんが作ったんですか?」


 海岸の絶壁に面して並ぶ、彫りの深い顔をした巨大な石像。遠く離れたオランジュから見えただけあって、その大きさは天を衝くほどだ。


「そうッスよ。モアイ像はロマンがあるッスからね〜」

「ロマン……?」

「何のために作られたのか、未だ謎が多いんスよ。モアイという言葉に『未来を生きる』という意味があることから、部落を守る守護像として作られていたんじゃないかって説が有力なんスけど……」

「へぇ……この埴輪(はにわ)は? どこかで見た気がするんですけど……」

「あ、私も」


 ナナミが片手を上げる。ナナミも言うのなら、ノゾムの記憶違いではないだろう。

 どこかで見たことがある、この埴輪。


 シプレは「うーん」と首をひねった。


「どこかの国の役所じゃないッスかね? けっこうあちこちに配ってたんで」

「配ってた? どうして?」

「埴輪って作るの楽しいからついつい量産してしまうんスけど、置き場所に困ってしまって」


 俺、作るの好き。でも使わない。置いてても邪魔。

 そう言って、自作の武器を売っていたK.K.のことを思い出した。自分が作ったものに愛着とか持たないんだろうか。


「よかったら持って帰っていいッスよ〜」とシプレは朗らかに言う。ノゾムはぶっちゃけいらないが、ナナミは真剣な顔をして埴輪を吟味し始めた。


「ところでリオンさんは、なんでそんなに離れてるんですか?」


 シプレが登場してから何故か遥か後方に移動したリオンに、ノゾムは問いかける。


 リオンは真面目な顔で言った。


「女王陛下がリアルじゃおっさんだったら嫌だなぁって」

「またそんなこと言って……」


 リオンはよっぽど『可愛い女の子のアバターを使うおじさん』に酷い目に遭わされたようだ。だからといって『可愛い女の子』に会うたびに『中身はおっさんかも』と疑うのはとてつもなく失礼である。


 ため息をつくノゾムの隣で、シプレはぱちくりと目を瞬いた。


「よく分かったッスね?」

「えっ」


 ノゾムはびっくりしてシプレを見た。

 リオンも目をまん丸にしている。


「え、リアルじゃおじさんなんですか!?」

「おじさんって歳でもないんスけど……」


 よくあることじゃないッスか、とシプレは軽い調子で言う。よくあることなんだろうか。リオンはショックで固まっているのだが。


「……どうして女の子にしたのか、聞いてもいいですか?」


 ノゾムは恐る恐る問いかける。

 シプレはなんてことないような顔をして答えた。


「女の子のほうが可愛いじゃないスか」

「たしかに!!」


 リオンは今度は別の意味でショックを受けたようだ。

 埴輪を見つめるナナミはリオンをガン無視している。


 シプレが女の子のアバターを使っているのに「可愛いから」以外の理由はないらしく、ひめぷれい? などをして男性プレイヤーに貢がせる気などは欠片もないらしい。


 それを知ったリオンは、離れていた距離を縮めた。


「それなら問題ない」って、いったいそのおじさんプレイヤーにどれだけ貢いでいたんだか。


「運営の人間で、リアルじゃおじさん……」


 ナナミがぽそりと呟く。シプレは「だからおじさんって歳じゃないッスよ〜」と苦笑を漏らした。ナナミは聞いちゃいない。深緑色の瞳を、まっすぐにシプレに向ける。


「もしかして、ノゾムのお父さん?」


 シプレは目を丸める。

 今度はノゾムが苦笑した。


「いやいやいや。うちの親父は、こんなまともな人じゃ……」

「そんな、まさか!?」

「え、まさか?」


 驚愕の表情を浮かべるシプレにノゾムは目を見張る。


 え、そんな、まさか?


「ジョン!?」

「誰ですか」


 叫ぶシプレにノゾムは思わず聞き返す。シプレはぱちぱちと幾度となく瞬きをして、じろじろとノゾムを見て、それから肩の力を抜いた。


「……そんなわけないッスよね。ジョンはまだ2歳だし」

「ジョンって誰ですか」

「我が最愛の息子ッス!」


 驚いたことに、リアルのシプレは子持ちらしい。アバターの見た目は10代の女の子なのに、すごいギャップだ。2歳児じゃゲームをやっているわけないよな。


「大きくなったらプレイして欲しいスけどね〜」とシプレは言う。せめて無理やり強制することだけはやめてあげてください。


「君のお父さんは運営の人なんスか?」

「ええ、まあ、たぶん?」

「たぶんて。うちのスタッフもけっこう人数多いスからね〜。特定するのは難しいかもしれないスけど……名前を聞いてもいいッスか?」


 シプレはノゾムの父親探しに協力してくれるようだ。やはりまともな人だ。ノゾムは父親の名前を言う。シプレは「みずきちの息子ッスか!!」と目を見開いた。


「みずきちって……」

「うわーっ、うわーっ! ゲーム機を送り付けたけどプレイしてくれるか分からないって言ってたのに、ちゃんとプレイしてくれてるんスね! 良かったなぁ、みずきち……」


 ほろりと涙するシプレ。何故泣く。

 そして『みずきち』って、もしかしてもしかしなくても、ノゾムの父親のことか。『水城』だから『みずきち』か。


「……俺の親父がこのゲームのどこにいるか、知ってます?」

「もちろんッスよ。でも、勝手に教えていいのか……。出来れば自力で見つけ出してあげて欲しいッス」

「えええええ……」


 ノゾムは心底から嫌そうな顔をする。「そんな顔しないであげて」とシプレは言うけど、ちょっと無理な相談である。


「自力で見つけようにも、この世界めちゃくちゃ広いし……。せめて何か、ヒントでも!」

「それもそうッスねぇ……」


 シプレは顎に手を当てた。しばらく考え込むようにうつむいて、やがて何か思いついたように顔を上げる。


「それなら、この世界の『王様』を訪ねてみるッス。そしたらきっと見つかるッスよ」

「王様……シプレさん?」

「自分はこのヒントだけで勘弁してくださいッス。みずきちをガッカリさせたくないんスよ」


 あんなクソ親父のために、なんていい人なんだろうか。やっぱりこの王様は、他に比べてまともである。


「王様って……ルージュとオランジュとジョーヌの王様には、もう会ってるんですよね」

「え、そ、そうなんスか?」

「残るはブルーとアンディゴ……」

「もう1人いるわよ」


 ナナミがピンと人差し指を立てる。


「もうすぐ復活するらしい“魔王”」

「魔王が親父だったりしたら、俺は本当に親父と縁切るよ」


 魔王城の玉座にて息子を待つ、なんてあの親父ならやりかねないが、そんなことをしたらマジで殴るだけじゃ済まさない。


 『一緒に遊ぼうぜ』って言ったんだから、すぐに会えるような場所にいてくれよ。


「…………」

「陛下、顔色悪いですよ。大丈夫ですか?」


 心配そうに問いかけるリオン。シプレは掠れる声で「シプレでいいスよ……」と返した。

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