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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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ラルドの問題

 その後レベルアップを何度か重ねて、ラルドは上級魔法を一度だけは放てるようになった。


 ラルドが『グラビティ』を使うと、目の前にいるモンスターがまるで見えない何かに踏みつけられているかのように押し潰される。


 魔法攻撃力が高ければ高いほど、効果範囲は広くなるらしい。ラルドは目の前のモンスターしか潰せなかったが、最初から魔道士系で育てていたプレイヤーならば、もっと広範囲に重力をかけられるということだ。


 ラルドは苦々しく顔を歪めた。


「ぐぬぬ……」

「あれだけMPを消費してこれじゃあ、ちょっとコストが高すぎよね。中途半端に育ててきたツケが回ってきたのよ」

「だってさ、だってさ! 剣も、魔法も!」

「はいはい。剣も魔法もカッコイイわね。どっちも極められたら最高よね。でも現実を見なさいな」


 ナナミは辛辣だ。ラルドはギリギリと奥歯を噛み締めて堪えている。ノゾムは困ったように眉を下げた。


 ラルドの魔法攻撃力はアクセサリーの効果により、すでに上がっている。さらに『精神統一』で威力を底上げしていての、コレだ。


「このゲームってさ、『種』的なものはねぇのかな!?」


 追い詰められたラルドはよく分からないことを言い出した。


 種って何。野菜の種ならあるけど?


「ステータスを上げるアイテムってこと? さあ……私は精霊水晶くらいしか思いつかないけど」

「精霊水晶はもう使ってんだよ!」


 クリスタル・タランチュラというモンスターが落とす精霊水晶は、アクセサリーに加工して身につけることで、持ち主のステータスを上げることができる。ラルドが身につけているアクセサリーは、その精霊水晶を使って作られたものだ。


 アクセサリーはたくさん身につけることは出来ないし、そのアクセサリーに精霊水晶を複数取り付けても、効果が増えることはない。


 ノゾムは腕を組んで「うーん」と唸った。


「……あ、K.K.さんに相談してみたらどう?」

「へ?」

「あの人、なんかいろいろ詳しそうだし」


 オリハルコンのこともそうだし、ジャックだって『神依』とやらのことを聞きにわざわざK.K.を訪ねるくらいだ。


 ラルドの悩みを解決させる方法も、彼女なら知っているかもしれない。


「おおっ、そうだな! それじゃさっそく」

「私は行かないわよ。ジャックが来ているかもしれないし」

「いいよ! オレ1人で行ってくる!」


 ラルドはそう告げると山道を転がり落ちるように駆けていった。


 その背中を見送って、ナナミは深く息を吐く。


「まあ、戦闘能力がない私が、ラルドのプレイスタイルをとやかく言うなって話なんだけどね」

「え? ナナミさんには『エスケープ』があるじゃないか」


 何やら突然ネガティブなことを言い出すナナミに、ノゾムは首をかしげた。


 一瞬にして敵の背後に回れる『エスケープ』は盗賊のセカンドスキルだ。比較的簡単に習得できるスキルだけど、戦闘ではとても役に立つ。


 ナナミは口を尖らせた。


「逃げるスキルがあってもねぇ……戦闘力はもうとっくにノゾムのほうが上よ。私やラルドよりもね」

「え、そうかな……?」

「そうよ。ずっと弓だけで頑張ってきたもんね。やっぱり1つに絞ったほうがいいのよ。ラルドは欲張りすぎよ」


 お宝大好きなナナミに『欲張りすぎ』と言われるとは。

 ノゾムは苦笑いした。


 それからしばらくモンスターを狩りながらラルドの帰りを待ったけど、ラルドはなかなか戻って来なかった。何か問題でも発生したんだろうか。


 ラルドが戻ってきたのは、プレイ時間が終わる直前のことだった。


「【商人】に転職してきた!!」

「なんで??」




 ***




 いったん現実世界に戻って、1時間経過したところでゲームの世界へ戻る。


 先ほどは時間がなくて聞けなかったラルドが【商人】になった経緯を、ノゾムとナナミは聞くことにした。


「魔法攻撃力はアクセサリーと『精神統一』で上げているから、あとはもう地道なレベル上げと、武器でステータスを上げる以外に方法はないらしい」

「武器?」

「おうよ。杖とかな、装備すると魔法攻撃力が上がる武器がある」

「でもラルドは剣を使いたいんでしょ?」

「そのとおり」


 剣も魔法も使いたい。

 そんなワガママな人のために。


「それならミスリルで武器を作ればいいんじゃないかって」

「ミスリル……って、ゲームによく出てくる『伝説の鉱物』よね?」

「そうそう。オリハルコンは『とんでもなく硬い伝説の鉱物』、ミスリルは『魔法の力が宿った伝説の鉱物』っていうのがよくある設定だよな」


 この世界にオリハルコンはある。ということは、ミスリルも存在していてもおかしくはない。


「ただ、ミスリルがどこにあるのかは、さすがのケイ姐さんも知らないって」

「ダメじゃない」

「存在するとは思う、って言ってた。調べてくれるってさ」

「ふうん? それで? なんでそこから【商人】なわけ?」


 そう。まだ【商人】の『しょ』の字も出ていない。ナナミは胡乱な目をラルドに向けた。ラルドは「ふっふっふっ」と怪しげに笑った。


「お店で値段交渉を4回成功させることで転職が可能になる【商人】は、一般のプレイヤーにはあまり知られていない職業なのだ」

「まあ、そりゃそうだろうね」


 値段交渉ができることを知らないプレイヤーも多いだろうし、知っていたとしても、下手をすると『迷惑なプレイヤー』として捕まってしまう可能性を考えるとチャレンジもしにくい。


 値段交渉は、交渉自体も難しいが、引き際を見極めるのはもっと難しそうだと、素人のノゾムでも思う。


「つまり【商人】は、意外とレアな職業!!」

「だから何よ。もっと要点をまとめて、分かりやすく言いなさいよ」


 ナナミはうんざりした様子で言う。

 ラルドは「えっへん」とわざとらしく咳払いした。


「このゲームでレアな職業ってことは、レアなスキルが習得できるってことだ。【商人】のファーストスキルは『目利き』、アイテムの品質を見ることができる。そして……セカンドスキルは『節約』! なんと消費MPを半分に減らせるのだ!!」


 ラルドは大きく腕を広げて高らかと言った。どこからともなくファンファーレが聞こえてきたような気がしたけど、もちろん気のせいである。


 『節約』……なるほど。これを習得すれば、ラルドの少なすぎるMPでも上級魔法を2回まで使うことが可能になるわけだ。


 ナナミは「ふーん」と言った。

 ラルドはショックを受けた顔をする。


「ふーんって、それだけかよ!? オレ、これ知ったとき、めちゃくちゃ衝撃受けたんだけど!?」

「私たちはあんたほどMPに困ってないからね。オスカーなら喜んでくれるんじゃない?」


 MP節約のスキルは、魔道士こそ欲しいスキルだろう。MPを普段はそんなに消費しないノゾムやナナミにとっては、あんまり必要のないスキルである。


 ラルドはガクリと項垂れた。そんなにビックリして欲しかったのか……ノゾムはちょっぴり罪悪感を覚えた。


「す……すごいねラルド! これで問題解決じゃん!?」

「取ってつけたように言うなー!!」

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