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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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イベントのお知らせ

「ねえねえねえ! 魔王が復活したって、本当!?」


 翌日。ゲーム世界にログインしてきたリオンは、開口一番にそう聞いてきた。


 どうやら現実世界で弟に『イベント』のことを聞いてきたようだ。もっとも、正確な情報は伝わってないみたいだけど。


「ちげぇよリオン」

「えっ。そ、そうだよね、そんないきなり、魔王だなんて……」

これから(・・・・)復活するんだ」

「わあああああああっ!!」


 ラルドの言葉にリオンは変な声を上げて崩れ落ちた。ぶるぶる震えている。その辺にいるモンスター相手にも恐怖するリオンだから、魔王だなんてその言葉を聞くだけで恐ろしいのだろう。


 昨日の夕方、運営から大規模イベントの告知があった。

 その名も『黒き魔王の復活』。


 そのうち復活するぞ、絶対に復活するぞと聞いてはいたけど、ついにその時がやって来るのだ。


「イベントがあるのは8月の最後の1週間。アンディゴの北に『常闇の国ヴィオレ』が浮上するんだと。期間中のゲーム内はずっと『夜』で、当然、出てくるモンスターはみんな『夜』仕様の強い奴らになる。

 その期間中にヴィオレに乗り込んで数多(あまた)の魔王の配下をぶっ倒し、魔王の玉座にたどり着いた者だけが『勇者』に転職できるようになるんだ!」

「勇者って職業なの?」

「その辺のことはちょっとよく分かんねぇけど」


 とにかく勇者といえば魔王、魔王といえば勇者なのだと、ラルドは力説する。よく分からない論法である。ぶるぶる震えていたリオンは、下からそっと覗き込むようにラルドの顔を窺った。


「1週間だけなのか?」

「ああ。ちょっと短いよな」

「1週間なら我慢できる! オレはその間、ログインしない!」

「すがすがしいな」

「リオンさんみたいな人のために、1週間っていう区切りがあるのかもね」


 ノゾムも以前はそうだったが、バトルは苦手、モンスター怖い、というプレイヤーは一定数いるらしい。


 戦闘もモンスターもリアルすぎるのが原因だ。


「それでどうする? このイベント、参加する?」

「当たり前だろ! だって『勇者』だぜ!? ……あ、でもノゾムは」

「少しくらいなら付き合ってもいいよ。モンスターと戦うのにも、慣れてきたし」

「おおお……ノゾムも成長したなぁ」


 前なら「絶対に無理!!」って首を振ってたのに、とラルドは感心した顔で言う。そのとおりなのでノゾムは何も言えない。


「ナナミさんは? どうするの?」

「そうねぇ。魔王には興味ないけど、ヴィオレでしか手に入らないアイテムには興味があるわ」

「ぶれないねぇ」


 ナナミのコレクター魂は相変わらずだ。

 ナナミは「でも」と、ちょっぴり眉を寄せる。


「でも、ヴィオレに行くためには、アンディゴに行かなきゃならないんでしょ? あの、ドラゴンやら巨人やらがいるって噂の国に」

「『アンディゴの北に浮上』って書いてあるから、そうなんだろうね」


 魔王イベントに参加するなら、イベントが始まる前にはアンディゴに到着しておきたいところだ。そのアンディゴへは『ブルー』以外の国から行くことは出来ず、そのブルーからも、『竜の谷』と呼ばれるドラゴンの生息地を越える以外に行く手段がない。


「行くならもっとレベルを上げてからじゃないと、厳しいんじゃないかしら」

「……確かに。強い武器や、スキルも身につけてからのほうがいいよね」


 何しろドラゴンや、巨人だ。リオンなんてその名を聞いただけで震え上がっている。


「アンディゴでオリハルコンが採れるんだろ? それで最強装備を作ればいいんじゃね?」

「いや、だから、アンディゴに行くまでがね?」


 幸い、イベント開始まではまだ2週間くらいある。それまでレベル上げに(いそ)しむことにしよう。




 ***




 戦闘嫌い、モンスター怖い、と言って開拓地に残るリオンを放って、ノゾムたちは山の採集地へと向かった。


 スキルを覚えるためには職業の熟練度を上げる必要があり、熟練度を上げるにはとにかくスキルを使いまくるのが一番なので、ノゾムたちはひたすらスキルを使いまくる。


 何度目かの『隠密』を使った時に、ノゾムは忍者のセカンドスキル『分身』を習得した。


 『分身』は自分の体を増やすスキルだ。増えたほうの自分に指示を出すと、そのとおりに動いてくれる。所持しているスキルやステータスは本体とまったく同じで、分身体が倒したモンスターの経験値は本体に加算されるようになっている。


「めっちゃ便利じゃん!」

「うん……でも分身体を作る時にMPは半分持って行かれちゃうし、倒されちゃったらしばらく時間を置かないと次の分身は作れないみたい」

「MPが少ないラルドが使うと、さらにMPが少ないラルドが2人になるってことね」

「えええ……でも便利そうだからオレも覚えよっと」


 そういえばラルドも忍者のスキルは持っていた。ラルドは『隠密』などめったに使わないから、すっかり忘れていたけど。


「忍者のサードスキルって何だろ?」

「さあ……『変わり身の術』とかじゃない?」


 サードスキルはセカンドスキルよりも習得に時間がかかる。サードスキルは便利なものが多いけど、それが戦闘向きのものとは限らない。


 どちらかと言えば、今は戦闘に役立つスキルのほうが欲しい。


 変わり身の術だったら、まあ、役には立ちそうだけど……。


「先に他のセカンドスキルを習得したほうがいい気がするな。僧侶のセカンドスキルは、確か『天恵』だっけ?」

「ネルケが使ってたやつね。味方識別(マーキング)をつけた仲間全員の守備力を上昇させるスキルよ」


 うん、役に立ちそうだ。忍者のサードスキルよりも先に、こっちを覚えよう。


「『サイクロン』!! ……っと、やったぜ! ついに魔道士のサードスキルゲット!」


 竜巻を起こしてモンスターをぶっ飛ばしたラルドが、満面の笑みで振り返る。


 魔道士のスキルはファーストが『初級魔法』、セカンドが『中級魔法』、そして最後のサードスキルが『上級魔法』だ。


「覚えた魔法は……重力で敵をぺちゃんこにする『グラビティ』と、確率で敵を即死させる魔法『デス』……それから、おお、これは便利そうだ。一度行った場所ならどこへでも瞬間移動ができる『テレポーテーション』だとよ!」

「へぇ〜」


 テレポーテーションは転送陣のステッカーがなくとも、好きな時に好きな場所へ移動することが可能らしい。ステッカーは貼った場所にしか飛んで来られないし、一度きりしか使えないので、確かに便利な魔法である。


 ラルドはぴょんぴょん飛び跳ねて、全身で喜びを表現する。が、なぜか突然、地面にめり込みそうなほどに落ち込んだ。


「……MPが足りない……」


 上級魔法は、初級や中級のものより遥かに消費MPが多いらしい。もともとMPの少ないラルドでは、たとえMPが満タンの状態であったとしても、使えないという。なんてこった。


「あんた、本当にそろそろ育成方針を固めたほうがいいんじゃないの?」


 ナナミは残念なものを見る目でラルドを見ながら、そう言った。


 剣か、魔法か。

 どちらも極めたい! というのは、やはり困難な道であるようだ。

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