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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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チュルコワーズの訓練所Ⅱ

「……へ?」


 ノゾムの口から出てきたのは、そんな間の抜けた声だった。

 キツネ耳の少年は、ノゾムをキラキラした目で見つめている。


 いや、実は別の誰かを見ているのかもしれない……そう思ったノゾムは右へ左へと視線を動かしてみるけれど、当然ながらそこには誰もいなかった。少年が見つめているのは、ノゾムに間違いないらしい。


 少年は足取り軽やかにノゾムのもとへ駆けてくる。やっぱりノゾムで間違いないらしい。


「すげぇ! すげぇな! 矢がバシッて飛んでったぞ!? ちゃんと的に命中したぞ!?」

「……えーと」


 命中したと言っても、1本だけなのだが。

 その前に地面に落ちた矢を少年は見ていなかったのだろうか。


「前はあんなにヘロヘロだったのに!」

「ん……?」


 ――前は(・・)


「すげぇなぁ……きっといっぱい練習したんだろうなぁ……ッ!」

「えーと……?」


 何故だがひどく感激している少年の顔を、ノゾムはしげしげと見た。どこかで会っただろうか? 見覚えのない顔だけど……。


「えっと、君は誰?」

「あ、ごめん。俺、ハンスっていうんだけど」

「ハンス?」


 それは聞き覚えのある名前だ。ごく最近、ナナミやK.K.の口から出ていた名である。確か彼女たちと同じギルドのメンバーだったはずだ。


 ノゾムは改めて少年を見た。正確には、少年のキツネ耳を。これがナナミが引っこ抜こうとしていた耳なのか〜、と。


(……いやでも、たまたま同じ名前なだけかもしれないし)


 何しろ『コーイチ』だってたくさんいたのだ。このゲームでは他のプレイヤーがすでに付けている名前でも付けることができるので、同名のプレイヤーは数多くいる。


 ハンスと名乗ったキツネ耳の少年はノゾムを見上げたまま続けた。


「お前のことは、前にクルヴェットの訓練所で見かけてさ」

「クルヴェット……。あー……」


 ノゾムはなるほどと納得した。ゲームを始めて間もない頃、ノゾムはクルヴェットの訓練所で、しばらく弓の練習をしていたのだ。


 あの頃の、あさっての方角へヒョロヒョロと飛んでいくノゾムの弓の腕を知っているなら、先ほどのような反応になってもおかしくはないかもしれない。


 うん、確かにあの頃はヘロヘロだった。


「全っっっ然センスなさそうだったから、てっきりすぐに弓を辞めると思ってたんだけどさ」

「はっきり言うね……」

「あ、知ってる? 弓ってめっちゃ不遇って言われてるの。だって全然狙ったところに飛んでいかないんだもんな。リアリティを求めるにしても行き過ぎだろって感じ」


 それはノゾムも思った。リアルを求めるにも程がある。


 ハンスは、思ったことは何でも口に出してしまう性格らしい。しかし人懐こくはあるけれど、無駄にグイグイ迫ってくる感じではない。


 ノゾムは気がつくと彼の『フレンド』になっていた。このゲームを始めてから最速のフレンド登録である。


「……ノゾム?」


 ハンスは画面に表示された名前を見て首をかしげた。


「え、もしかして……。でもあっちのノゾムは今、ナナミの開拓地にいるはず? 同じ名前なだけ?」


 どうやらハンスも、ノゾムの名前に聞き覚えがあるらしい。ナナミの名前が出てきたことで、ノゾムは確信を持った。


 彼こそが、ナナミやK.K.が言っていた『ハンス』なのだと――……



「おいハンス、急にいなくなったと思ったらこんなとこにいたのか……って、あ、ノゾムくん」

「あ、ジャックさん」



 ハンスの名前を呼びながら入ってきたのは、久しぶりに会うジャックだった。


 ハンスはあんぐりと口を開けた。


「俺だけまだ会えてないと思っていたら、とっくの昔に会っていたパターン!」

「は? そうだったのか? ごめんなノゾムくん、こいつ何か失礼なことしてない?」

「センスないとか言ってごめん!!」

「すでにしてた」


 お前なぁ、とジト目でハンスを見るジャック。

 ノゾムは苦笑をもらした。


「いやでも、センスがないのは事実だし……」

「センスがないやつに、超至近距離でモンスターの口の中に矢を放つなんて出来るわけないだろ!!」

「あ、そんなことも知ってるんだ」


 ハンスは平謝りしてきたが、ノゾムは特に気にしてない。

 超至近距離のあれは、本当に頭がどうかしていただけだ。

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