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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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続・ヴェールの職人街

「戻ってきたか。鋳型は出来ているぞ」


 工房に戻ったノゾムたちを出迎えたK.K.の手には、何やら長方形の箱のようなものがあった。箱の周りは木枠で覆われていて、長方形の長いほうの辺には、等間隔で掘られた小さな穴が5つある。


 これが、ナナミの欲しがっていた『溶かした鉄を流し込んで矢尻の型を取る』ための道具?


 この5つの穴に、鉄を流し込めばいいのだろうか。


「これは2つに割れる」


 K.K.はそう言って木枠を外した。すると中身の石……いや、乾いた粘土? は、たしかに2つに分かれた。


 内部には矢尻の形に掘られた箇所が、全部で5つある。


「2つをくっつけて溶かした鉄を流し込み……」

「鉄が固まったら、中身を取り出すのね」

「そうだ。1度に5つ作れる」


 ちなみに鉄を溶かすには『炉』が必要だ。街の工房にあるものを借りたり、街にいる大工に頼んで『開拓地』内に作ってもらうことができるらしい。


 自分で自作することも可能なのだけど、手先が器用で、かつ専門的な知識を持っていないと、自力で作るのは難しいそうだ。


「炉は俺の工房にあるものを使え」

「え、いいの!?」

「俺も、俺の作った鋳型の出来が気になる」


 K.K.の提案にナナミは大喜びで頷いた。このまま、弓矢作りはK.K.の工房ですることになりそうだ。


 さて、それではナナミが弓矢を作っている間、ノゾムたちは何をしておこう。できれば手伝いたいところだが、ノゾムは自分が致命的に不器用だということを自覚している。


(竹を割るくらいならできるかな……)

「ん?」


 ふいにK.K.が左腕のリングを見た。

 ナナミが「どうしたの?」と問いかける。

 K.K.は簡潔に答えた。


「ハンスからメールが届いていた。ジャックと一緒にこっちへ向かっているらしい」

「は!?」


 ナナミはギョッと目を剥いた。ノゾムたちも、きょとんとした顔をK.K.に向ける。


「なん、なんでジャックが……。さてはK.K.あんた、ジャックに私のこと伝えたでしょ!?」

「そんなことはしていない」

「本当に!?」

「ハンスには伝えたが」

「それってジャックにも筒抜けってことじゃないのよおおおおおおっ!!」


 ナナミは頭をぐちゃぐちゃと掻き回した。見守るK.K.の表情は1ミリも変化しない。口調も態度も、淡々としたままだ。


「お前も、ジャックの動向をレイナから聞いているのでは?」

「なんで知ってるの!?」

「さあ、何故だろう」


 淡々としているけれど、どこか楽しそうでもある。ナナミの青くなったり赤くなったりする顔が、見ていて面白いのかもしれない。


 ノゾムはちょっぴり眉を下げた。


「ジャックさんは、ナナミさんを連れ戻しに来るんですか?」


 ノゾムが問いに、K.K.は「いいや」と首を振った。


「俺に聞きたいことがあるらしい」

「聞きたいこと……?」

「それって私のことじゃないでしょうね!? もうやだ、私しばらく開拓地に引きこもってる!」

「炉は?」

「開拓地の中に作るわよ! あんた、たとえ私の開拓地の場所を知っていたとしても、ジャックには絶対に教えないでよね!」

「ハンスのフレンドたちが、すでに伝えているかもしれない」

「あいつのあの耳、本気で引っこ抜いてやろうかしら」


 コメカミをぴくぴくさせて、低い声で言うナナミに、K.K.はまたしても淡々と「かわいいから駄目だ」と返した。ハンスっていったいどんな奴なんだろう。


 ジャックとハンスは、オランジュを横断するSLと、オランジュの首都ノワゼットから出るヴェール行きの定期船に乗って来る予定らしい。

 転送陣を使うわけではないから、到着には少し時間がかかるそうだ。


「鋳型の出来を見たかったのに」

「あとでメールを送るわよ」


 そんなわけで挨拶もそこそこに、K.K.とは別れることになった。

 もちろん鋳型のお代はしっかりと払った。




 ***




 帰る前に街の大工さんのところへ行って炉の作成を依頼して、一同はナナミの開拓地へ戻ってきた。


 ナナミはさっそく箱庭の中に新しい穴を掘って、癒やしの雨水を注ぐ。すると開拓地の中には、雨水がたっぷり入った貯水池が現れた。


 以前に川の水から作ったいた池と比べると、雨水の貯水池は透明度がずっと高くて、キラキラと輝いて見える。普通の水とはやはり違うようだ。


 街の大工さんが炉を完成させてくれるまで鋳型で矢尻は作成できないので、それまでは竹を削って矢柄を作ることにした。


 アイテムボックスから取り出した何本もの大きな竹を、オスカーはしげしげと見た。


「改めて見ると、ずいぶん立派な竹だな。まだ矯正もしていないのに、まっすぐだし」


 通常、竹というのは曲がっているものなんだそうだ。竹は硬くてしなりがあり、強風にさらされても折れない強さを持っている。その代わり、大きく曲がったり、節くれだったりする。加工のためにはまずその曲がりを矯正する必要があるらしい。


 しかしポム島で採ってきた竹はすでにまっすぐで、すぐにでも加工できそうである。ノゾムたちはさっそくノコギリを竹に当てた。まずはノゾムの持つ矢の長さに合わせて、竹を切っていく。硬いのでなかなか大変だった。


 次に縦方向にナタを入れ、割っていく。横に切るのは大変だったけど、縦方向には簡単に割れた。割った竹に、今度はナナミがナイフを入れていく。


「これはたしかに、木の枝を削るよりずっと楽ね」


 ナナミはそう言って、どんどん竹を削っていった。竹が加工しやすい植物であるというのは確かなようだった。あっという間に、細くて長いまっすぐな矢柄が完成する。


 一方そのころラルドは、開拓地の端のほうに穴を掘ってタケノコを植えていた。


「元気に生えてこいよ〜」って、それで本当に竹が生えるの?

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