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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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孤島の採集地Ⅵ

 巨大なパイナップルの下には、先の細い剣のような形の葉がたくさん生えている。葉のふちには棘もあるようだ。葉はどんどん増殖し、巨大なパイナップルを上へと押し上げる。左右に伸びた草からもパイナップルが現れて、なんだか巨人みたいである。


「頭と拳がパイナップル、下半身を地面に埋めた巨人か……」

「あんまカッコよくねぇな」

「トマトのほうが可愛かったわ」


 オスカー、ラルド、ナナミの辛辣なコメントにパイナップルの巨人はガーンとショックを受けた。


 見たところこいつら、耳とかなさそうなのに、どうしてこちらの言っていることが分かるのだろう?


 ノゾムは疑問に思ったが、まあいいかと早々に結論付けて、ヒッポスベックの手綱を握り締めた。


 こいつに構っている間にも、ケツァルコアトルはどんどん先へ行ってしまう。


「パイナップルの缶詰めは好きだけど、今はお前の相手をしてる暇はないんだっつーの。サクッとやっちまうぞ、カイザー・フェニッチャモスケ!」

「ピィーーーーッ!!」


 ラルドの合図に合わせて、フェニッチャモスケが巨人の頭を目掛けて飛びかかる。今までの野菜モンスターたちなら尻尾を巻いて逃げ出していたが、こいつはそうではなかった。


 近付いてきた羽虫を手で払うような仕草で、パイナップルの巨人はフェニッチャモスケをはたき飛ばす。


 フェニッチャモスケの体は木の幹に叩きつけられ、ぺしゃりと地面に落っこちた。


「カイザーーーーッ!!?」

「ピィー……」


 良かった、生きてる。テイムモンスターが戦闘不能に陥ってしまうと、卵(レベル1)からの育て直しになってしまうのだ。


 ラルドは慌ててフェニッチャモスケに駆け寄り、回復魔法(キュア)をかけた。


「ゆっくり休んでいてくれ」と言って、アイテムボックスにフェニッチャモスケを収納する。やはり、アイテムボックスの中のほうが、テイムモンスターたちにとっては安全そうだ。


「くそ、こいつに鳥は通用しないのか!?」

「皮が厚いからかな? トゲトゲだし」


 パイナップルの巨人は両手のパイナップルをぶんぶん振っている。やっぱりどう見てもカッコよくはないけど、意外と強敵かもしれない。


「ケツァルコアトルが行っちゃうわよ! まだ雨を降らせる条件も分からないっていうのに!」


 ケツァルコアトルはパイナップルの巨人の向こうにいる。この巨人をどうにかしなければ、追いかけることもできない。


 ノゾムは矢を放った。ヒッポスベックに乗ったままで射つのは初めてなので、うまく踏ん張れなくて思いっきり外れた。当たったとしても、あの硬そうな皮にどれだけ効果があるのかは分からないけれど。


 パイナップルの巨人は両腕を振り上げて、勢いよく振り下ろした。両手についたパイナップルが地面をえぐる。え、それでも割れないなんて、あのパイナップル硬すぎない??


「どうしよう……!」

「くっそー、カイザーの仇だ! 『ブースト』おおおおおおッ!!」

「あ、ラルド!」


 大剣を振り上げて飛び込んでいくラルド。物理攻撃力を一時的に2倍にする『ブースト』を使うが、剣を振り下ろす前に巨人のカウンターが決まった。


 ラルドは「ぶへぇっ」と言いながら、木に体を打ち付け、ぺしゃりと地面に落っこちた。


「くうっ、強えぇ……」

「ラルド、お前、身体能力が落ちたんじゃないか? ……いや、成長していないだけか」

「【魔道士】でずっとレベル上げしてたからでしょ」


 剣も魔法も両方、というラルドの育成方針ではそろそろ限界が見えてきたようだ。


 ぶんぶんぶん、と両手を振り回すパイナップルの巨人。だいぶ調子に乗ってやがる。


「植物がモチーフなら、やっぱり炎が効くんじゃないのか?」


 オスカーはそう言って『ファイヤーボール』を放った。オスカーの両手を広げたよりもさらに大きな火球が、巨人に向かって飛んでいく。


「ケーーーーッ!!?」


 パイナップルの巨人は逃げ出そうとした。が、下半身が地面に埋まっているので、逃げられない。


 火球は巨人の肩に当たり、引火した。


「ケー! ケケーッ!」


 パイナップルの巨人は火を消そうとぶんぶん腕を振っている。しかし火は燃え広がるばかりで一向に消えそうにない。巨人は必死だ。見ていてなんだか可哀想になってくる。


 その時ふと、ポツリと水滴が落ちてきた。


 真上にはケツァルコアトル。もうとっくに遠くへ泳いでいってしまったかと思っていたのに、どうやら引き返してきたらしい。


 ポツポツと降る雨は、やがて勢いの強いものに変わっていく。ナナミは急いで瓶を構えて、雨水を瓶いっぱいに集めた。


「やったわ! 雨水ゲット!」

「いや……ちょっと待て」


 大喜びするナナミの横でオスカーは口元を引きつらせる。その視線の先には……ケツァルコアトルの雨によって消火できた、パイナップルの巨人。


 しかも見間違いでなければ……欠損した箇所が、雨水によって修復されている。


「ケケケーーーーッ!!!」


 完全復活した巨人は硬い拳を振りかざした。拳は木々を薙ぎ倒し、しかし倒れた木々もまたすぐに雨水によって修復する。この雨、すごすぎる。


「どうする、戦うか!?」

「目的は達成したんだもの、こんなのに構ってる暇はないわ!」


 オスカーの問いかけにナナミは即答した。ノゾムも同感だ。ラルドだけは「えー!?」と不満げな声を上げたけど、ひとりで戦っても勝てないだろうことは明白なので、しぶしぶ一緒に撤退した。


 ヒッポスベックを走らせれば、あっという間にパイナップルの巨人とは距離が開いていく。パイナップルの巨人は下半身が埋まっているので、追いかけてくることはない。うん、やっぱりカッコわるい。


 ノゾムたちはそう時間がかからないうちに、最初に到着した場所へ戻ってきた。ここらかほど近い崖の上には、本島にあったものと同じ『上向き扇風機』がある。


 轟音を響かせて真上に風を吹かせるそれを見て、すべてを察したオスカーは絶望したように顔を青ざめさせた。


 扇風機のそばにいる案内のスタッフさんの指示のもと、扇風機の上に立って、背負ったパラシュートを開く。すると下からの強風に煽られて、体はあっという間に上空へ。


 月明かりと星空の下、真っ黒な海の向こうには白くぼやけた朝が顔を覗かせつつあった。


 上空には都合のいいことに、本島のへ向かう風が吹いている。ノゾムたちは誰も海に落下することなく、ヴェールの本島にたどり着くことができた。


「おつかれッスー。パラシュートを回収するッスよー」


 到着すると早々に、出発するときにもいたヴェールの王、シプレが笑顔で声をかけてきた。


 オスカーは地面にへたり込んで、地に足がつく喜びに泣いている。


「このパラシュート、やっぱ貰っちゃダメ?」

「ダメッスね〜」

「祠をクリアしても?」

「そもそもクリアする祠がないッスからね〜。欲しかったら自分で作ってください」


 さらりと答えるシプレには、ラルドの言っている言葉の意味が分かるのだろうか。


 ノゾムにはさっぱり分からないのだが。


「それよりシプレさん、何なんですか、あのモンスター!」

「どのモンスターッスか?」

「ポム島の上空を泳いでいるやつですよ!」

「あー、あれッスか」


 シプレはポム島のほうへ視線を向けて、それからポリポリと頬を指で掻いた。


「自分にも分かんないッス」

「王様なのに!?」

「モンスターに関することは、たいていルージュの王様の仕事なんスよ。『作物の種を落とすモンスターを用意してほしい』とは頼んだんスけど、なんでかあんなことに……」


 どうやら元凶は赤の国の王、アガトらしい。


「でも悪いモンスターじゃないんスよ。攻撃してくることはないし、具合を悪くしたプレイヤーや、傷を追った動植物がいると癒やしの雨を降らせてくれるし」

「……具合を悪くしたプレイヤー」


 ノゾムはうずくまるオスカーを見た。なるほど、最初に現れた時に雨を降らせてくれたのは、これが原因か。


 タケノコの時は、ラルドが掘っている途中でうっかりスコップで傷をつけてしまったのだそうだ。


「じゃあ、あいつとは戦えねぇの?」


 ラルドはまだケツァルコアトルと戦いたいらしい。シプレは「うーん」と唸った。


「戦うことは可能だと思うッスよ? ただ、あいつはずっと空を飛んでいるので、こちらも空を飛び続けなければならないス」

「『レビテーション』でか? それはちょっと……無理だなぁ」


 『レビテーション』は浮かせる人数と時間によって消費MPが増えてしまう魔法だ。それをずっと使いながら戦うなんて、MPがいくらあっても足りやしない。


 ラルドは「ちぇー」と唇を尖らせる。

 本当に、こいつはどんだけ戦いたいんだか。

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