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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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孤島の採集地Ⅴ

「とりあえず、あの山に登ってみねぇ? 高いとこから探したほうが見つけやすいかもよ?」

「たしかに」

「高いとこからなら、攻撃が届くかもしんないし」

「ラルドも諦めが悪いよね」


 そんなわけで、ノゾムたちはポム島に唯一ある山へと移動した。

 この島は山以外のほとんどが木で覆われてしまっているので、下から見上げて探すとなると、どうしても木々の枝葉が邪魔をしてしまう。

 しかし山の上からなら、枝葉に邪魔されることなくケツァルコアトルの姿を視認することができる。


 ケツァルコアトルは山の裏側の森の上を泳いでいた。どうりで見当たらなかったはずだ。改めて見てみると、その全長はとてつもなく大きい。上から見ていると、まるで光る川がそこにあるようだ。


 動きに規則性はない。いや、プログラムされた存在であるはずなので、実際には規則性があるはずなのだが、じっくり観察していても、決まった動きを繰り返しているようには見えなかった。


 あれでは、次にどこへ向かうのか予測も立てられない。


「距離もあるし、あそこまで移動している間にまた見失ってしまうかもしれないな」

「手分けをして挟み込んじゃうってのはどうだ?」

「パーティーを分けるのは無理でしょ……『夜』のモンスター相手に、1人や2人で挑むのは危険よ」

「ええ? あのベジタブルたち、そんなに強くなくね?」


 ラルドはきょとんと目を丸める。

 ナナミは呆れた顔をした。


「強いわよ。数も多いし。あんたはフェニッチャモスケのおかげで正面から戦ってないから、そう思うのよ」

「そうなのか? じゃあ、オスカーがファイヤーボールを撃ちまくりながら移動すんのはどうだ? そうすりゃあ、オスカーも奴らから避けられるんじゃね?」

「MPが保てばいいけどな……」


 『ファイヤーボール』がいくら初級の魔法で消費MPが少ないといっても、ずっと撃ち続けるのは大変だ。


「ていうか、あの野菜たちが怖がっているのは、炎じゃなくて――……」


 そこまで言って、ノゾムはハッとした。


 頭の中で、「クエェ」という鳴き声が聞こえた気がした。




 ***




「ケーーーーッ!!?」

「グエッ! グエッ!」


 逃げ惑う野菜のモンスターたちの頭上を一足飛びで越えていく。


 ヒトコブラクダのような身体に、強靭な鳥の脚と大きなクチバシを持つモンスター。

 黄の国(ジョーヌ)では広大な砂漠を越えるために1匹は連れて行きたい、旅の供。


 『クチバシを持つ馬』という意味の名前を持つ――ヒッポスベックだ。


「すげぇな! どんどん逃げてくぜ!?」

「やっぱりこの野菜たち、鳥が弱点だったんだね……」


 フェニッチャモスケにクチバシでツンツンつつかれて泣いていたから、そうじゃないかと思っていたけど。


 ヒッポスベックはスピードを一切落とすことなく、高い茂みも、飛び出た木の根っこも、モンスターも、全てを飛び越えて走り続ける。これなら仮に野菜たちよりも強いモンスターが現れても、すぐに逃げられるだろう。


「よーし、ケツァなんとかまで一直線だ! 絶対たおーす!」

「だから戦わないよ?」


 ラルドは本当に諦めが悪い。




 あっという間にケツァルコアトルの真下までやって来た。ヒッポスベックのスピードはさすがだ。途中、飛びかかってくるブロッコリーや白菜もいたけど、まったく意に介さなかった。


 雨は降っていない。ケツァルコアトルの周りに常に降っているわけではないらしい。ナナミが瓶を抱えて待ち構えている。


 ヒッポスベックに乗ったまま、しばらくケツァルコアトルの後ろを追ってみたけど……雨が降る様子はない。


「早く降って来なさいよ〜……」

「なにか条件があるのかもな」

「条件、ですか?」


 オスカーの呟きにノゾムは問いかける。

 はて、雨が降る条件とは何だろう。


 一度目はポム島に到着してすぐのことだった。まるでノゾムたちを歓迎するかのように現れ、ケツァルコアトルは雨を降らした。

 二度目はタケノコを掘っている最中だった。どこからともなく現れて、タケノコを竹に成長させた。


 二つの共通点は、何だ?


「おいおい、またなんか出てきたぞ」


 ラルドの言葉に思考を止める。顔を上げると、天高く伸びる剣のような葉が、大量に視界に入った。


 全体的に、なんかトゲトゲしている。実は黄色くてトゲトゲしている上に、とても硬そうだ。


「……パイナップルかな?」

「パイナップルだなぁ」

「パイナップルね」


 全長が2メートルはありそうな、巨大なパイナップル。トゲトゲした実が横に裂けて、口のような形になる。


「ケケケケケッ!」


 鳴き声は、今までの野菜たちと変わらない。

 え、ていうか、


「果物はモンスターにならないんじゃなかったっけ?」


 リンゴの木に生えていたリンゴは、リンゴのままだったけれど。


 ノゾムはぐるりとオスカーを振り返った。


「あれ? パイナップルって野菜ですか?」

「まあ、分類上はな」


 果物というのは、基本的に樹に成るもののことをいうらしい。

 パイナップルは草の上に実るので、分類上は『野菜』ということになるのだそうだ。


 とはいえ農家さんは果物として栽培しているし、果物として売っている。果実的野菜というらしい。


 さすがはオスカー、物知りである。

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