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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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孤島の採集地Ⅲ

「ケケケケケッ!!」


 カボチャの姿をしたモンスターが、自分よりもさらに小さいカボチャを投げつけてくる。小さなカボチャはノゾムたちの前に落ちると爆発した。爆弾だ。小さいくせに、ノゾムたちをぶっ飛ばせるくらいの威力は十分にある。


「カボチャがケケケだね!?」

「ラルド、何言ってんの?」


 またラルドが謎なことを言っている。たぶんきっと元ネタがあるのだろうけど、ノゾムにはその元ネタが分からない。


 ピーマンの姿をしたやつは口から無数の種を噴射した。

「種マシンガンか!」と、ラルドはまた叫んだ。

 こちらもまた元ネタは分からないけど、意味は伝わった。マシンガンのごとく噴射されたピーマンの種は、ノゾムたちのHPを地味に削る。


 オスカーが『しらべる』で野菜たちの弱点を探した。


「うーん。植物型モンスターって書いてあるし、やっぱり炎が弱点じゃないか?」

「炎だな! よし、出番だカイザー・フェニッチャモスケ!!」

「ピピィーーーーッ!!」


 身体を赤く発光させたフェニッチャモスケが野菜たちの群れに突っ込んでいく。野菜たちは悲鳴を上げて逃げだした。


「ケケッ! ケケケーーーーッ!!」

「ケケ……」


 最初にノゾムたちと遭遇したトマトが責められているように見える。ニンジンたちは「なんて奴を連れて来たんだよ!」と言わんばかりの怒りようだ。


 しょんぼりとうなだれるトマトが、ちょっぴり可哀想である。


「ピィピィ!」


 フェニッチャモスケはトマトの頭をついばみ始めた。トマトは悲鳴を上げながら全力で逃げるが、空を飛ぶフェニッチャモスケのほうがずっと速い。


 あれは炎というよりも――『鳥』が弱点なのかも。実った作物を食い散らかす鳥や獣は、野菜たちにとっては天敵だろう。


「ピィピィ!」

「ケーーーーッ!!」

「なんか、可哀想になってくるな……」


 フェニッチャモスケに追われるトマトを見ながら、ラルドがシミジミと言った。普段からモンスターに対して容赦のないラルドでも、憐れに見える光景らしい。


 そんなラルドを、他の野菜たちが狙う。襲いかかってきたニンジンとカブを、ラルドは大剣で叩き伏せた。


「つってもまあ、おとなしくやられてやるわけねぇけどな!」

「……あのトマト、『破邪』で仲間にしようか?」

「トマトは嫌いだ!」


 ノゾムの提案にラルドはキッパリと言い切った。トマトはガーンとショックを受ける。その間にフェニッチャモスケのクチバシが突き刺さった。


 青白い光となって消えた後には、大量のトマトと、トマトの種が入った宝箱が残った。


 オスカーは『ファイヤーボール』で野菜たちを焼き払う。ノゾムも街で購入してきた矢を放って迎撃した。ナナミはタマネギを斬って、涙が止まらなくなっている。


 フェニッチャモスケの活躍もあって、なんとか全ての野菜を倒し終えた。


 野菜たちが落とす宝箱の中はどれも同じ、たくさんの野菜と、野菜の種だった。


「ノゾムがトドメを刺さなくても、けっこう落としやがったな、こいつら」

「ドロップ率が高めに設定されてたのかもな。どうする? この大量の野菜」

「野菜は嫌いだ!」


 オスカーの問いかけに、ラルドはカッと目を見開きながら答えた。野菜嫌いなのはもう十分に分かった。


 ナナミが止まらない涙を拭いながら口を挟む。


「レイナに届けたら?」

「ああ、なるほど……彼女なら喜んで受け取るだろうな。店でけっこう使うだろうし」

「オレは食わねえけどな!」

「分かった、分かった」


 種のほうは、おそらく開拓地で育てることが可能だ。実った野菜はまたレイナに送ってもいいし、店で売ってもいいし、自分で食べてもいい。


「オレは食わねえけどな!!」

「分かった、分かった」




 ***




 どうやらこの島には、ケツァルコアトル以外には野菜のモンスターしかいないらしい。


 リンゴの木を発見した時にはリンゴのモンスターが襲いかかってくるのではないかと思ったけど、リンゴはただのリンゴだった。


 ラルドとナナミは、そのリンゴを何個か採集した。


「開拓地に植えたらリンゴの木が生えるかもしれない」

「そんなことある?」


 真面目な顔をして言うラルドにノゾムは目を点にした。


 ゲームによっては、そんなこともあるらしい。ここもゲームの中なので、同じことが起きるかもしれないという理屈だ。


 たびたび襲ってくる野菜たちを(おもにフェニッチャモスケが)蹴散らして、ノゾムたちはようやく森の北側……赤土の斜面から伸びる竹林に到着した。


 太くて大きな竹がたくさん生えている。竹の下には、タケノコも顔を見せている。


 ラルドとナナミは、そのタケノコも採集しようとした。


「開拓地に植えたら竹が生えてくるかもしれない」

「そんなことある?」


 ゲームによってはそんなことも(以下略)。ラルドとナナミは協力して、タケノコの周囲の土をスコップで掘っていく。ノゾムとオスカーはそんな2人を静かに見守った。


「……これ、どこまで掘ればいいのかしら?」


 掘っても掘っても、なかなか根っこが見えてこないタケノコ。意外と大きいサイズだったみたいだ。


 どこからともなく翼が羽ばたく音が聞こえてくる。上空を見やれば、あの淡く輝くケツァルコアトルが空を泳ぐように飛んでいた。


「おお出たな、ケツァなんとか! ノゾム、あれ射落としてくれ!」

「届かないよ」


 ラルドの注文にノゾムはキッパリと返した。そもそも神様をモチーフにした(と思われる)やつと戦いたくないと言っただろうに。


 ケツァルコアトルはこちらのことなんか気にしない。

 ただただゆったりと、空中を泳ぐだけだ。


「あら? また雨……」


 ぱらぱらと、真っ暗な空から水滴が落ちてくる。空には雲ひとつないのに、不思議なことだ。しかしもっと不思議なことが、この後に起こった。


 ラルドとナナミが頑張って掘っていたタケノコが淡く光ったかと思うと――あっという間に、それが天高く伸びる竹に急成長したのだ。


 ノゾムたちはポカンと口を開けて、竹を見上げた。


 目をこすって、頬を引っ張って、再び見上げるけど……やっぱりそこにあるのは、竹である。


「……タケノコは?」


 呆然と呟いた言葉に返事はない。


 雨がやんだ。足元には、新たなに生えたタケノコの頭が、ちょっぴりだけ出ていた。

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