孤島の採集地Ⅱ
草を踏みしめ、ノゾムたちは夜の森の中を進む。先ほどのケツァルコアトル以外にモンスターの姿は見えず、相変わらず虫の鳴き声と、風のささやきが聞こえるだけ。強いモンスターが出ると思っていただけに少し拍子抜けだ。
ナナミが上空から見つけたという竹林は、この森を抜けたところにあるらしい。モンスターが出ないなら、出ないうちにさっさと抜けてしまおう――そう考えた時だった。
腰あたりまである長い草を掻き分けた時、それが視界に入ってきた。
「……トマト?」
そう、トマトである。なぜか森の中にポツンと、大きくて赤く熟れたトマトが実っていた。ラルドが首をかしげた。
「野生のトマトか?」
野生のトマトって何。トマトに野生がいるの?
怪訝な顔をするノゾムの後ろで、オスカーが「いやいや」と首を振った。
「支柱が組まれているだろ。明らかに人の手が入ったものだ」
「こんな森の中で?」
「不自然であるのは確かだが」
「ふうん?」
ラルドは首をかしげたまま、謎のトマトに近寄った。
「オレ、トマト嫌いなんだよなー。ケチャップは好きだけど。でも、何かに使えるかもしれないから、一応採っておくかー」
そう言いながら赤いトマトに手を伸ばした、その時だ。突然トマトの実が横に裂けたかと思うと、ラルドの手にかぶりつこうとした。とっさに手を引っ込めたラルドは、背中の大剣に手を伸ばす。
「なるほど。こういう展開か」
「ケケケッ!」
謎のトマトの正体はモンスターだった。
大きなトマトの形をした顔には目が無い。大きく裂けた口があるだけだ。支柱に支えられていたツタが動いて、体を形成する。小さな体でぴょんぴょん跳ねる様子は、なんか可愛い。
「油断しちゃダメよ。いくら小さくても、夜のモンスターだもの」
ナナミが忠告する。
「分かってるよ!」
ラルドはそう返して、大剣を振るった。トマトのモンスターは軽やかな動きでぴょんと避けた。トマトモンスターの口から噴き出した赤い液体がラルドの顔面に直撃。ノゾムは慌ててラルドを見た。
「大丈夫!?」
「うへぇ、ベチャベチャ。あ、これケチャップだ」
うまっ、と言いながら舌を出すラルドに、ノゾムはちょっと引いた。毒でも入っていたらどうするんだよ。
「ケケケッ!」
トマトのモンスターは相変わらずぴょんぴょん跳ねている。オスカーはそんなトマトモンスターに対して『しらべる』を使った。
「野菜に擬態するモンスターか。属性持ちではないようだが……。植物だから炎が効きそうだ」
「よし、それじゃあお前の出番だ、カイザー・フェニッチャモスケ!!」
「いつ聞いても長い名前だな」
ラルドの呼びかけに「ピピィ!!」と元気よく飛び出したフェニッチャモスケ。トマトは小さな体を跳ね上げた。ひと目見ただけで自分の天敵だと察したらしい。身をひるがえして、すたこらさっさと逃げていく。
「こら待て、逃げるんじゃねぇ!」
「ケケケッ!」
ぴょーんと茂みを飛び越えていくトマトモンスターをラルドは追いかける。逃げる相手をわざわざ追わなくても……と思いながらも、ノゾムたちもあとを追いかけた。
到着した先には。
「うげぇ……」
ラルドが呻き声を漏らす。目の前にいるのは、ピーマン、ニンジン、カブにダイコン、カボチャにナスにキュウリにレタスなどなどなど……たくさんの野菜の姿をした、モンスターの群れだった。
「なんだよここ、野菜王国か!? オレ野菜嫌いなんだけど!!」