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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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そのころのお兄ちゃん

 一方そのころ、はじまりの国ルージュの首都、カルディナル。


「おーい、シスコン兄ちゃん! 愛する妹の定期報告に来てやったぞーう」


 にこやかな顔をして、ツッコミどころ満載なことを言いながら狐耳の少年、ハンスはやって来た。


 ジャックはげんなりした顔で振り返る。


「だから、シスコンじゃないって……」

「それじゃあ聞かないんだな?」

「聞くけれども」


「やっぱりシスコンじゃん」とハンスはケタケタ笑った。もう、なんとでも言えばいい。ジャックはため息をついて、ハンスに続きを促した。


 ハンスのフレンドというのは本当にどこにでもいるらしく、レイナのせいで一度はナナミの足取りは途絶えたものの、すぐにその居場所は突き止めることができていた。


 ナナミたちが現在いるのは、モノづくりの国ヴェール。今はどうやらツリーハウス作りをしているらしい。


 ナナミは細かいところにこだわるタイプなので、どんなものが出来ているのか、少々興味がある。


 ヴェールにはレッドリンクスのギルドメンバーであるK.K.もいて、どうやら今回、ナナミとK.K.は接触したようだ。


「ケイ姐さんの工房に来たんだってさ。『ノゾム少年を見習いと呼ぶのは、もはや無礼……』って、ナナミとは関係ないこと言ってたけど」

「そうか」


 K.K.の思考回路はジャックにはさっぱり分からないので、その言葉の真意も当然だが分からない。


 しかしナナミの様子は相変わらずのようなので、そこは安心した。


 ジャックはふぅ、と息を吐いて、ソファーに深くもたれかかった。


「俺たちのほうも、そろそろ冒険再開だな」

「お? 諸々の調整は終わった感じか?」

「まあな」


 シスカと仲違いをしてから、ギルドのメンバー全員と話をした。その結果、予想していたとおり大半がギルドを出ていってしまった。


 ギルドのアジトはメンバーの人数によって大きさが変わるので、今のアジトは以前のものよりこぢんまりとしたものだ。


 まあ、これはこれで、毎月支払わなければならない家賃が安くなったので良かったけど……プレイヤーが個人で購入した家は支払いがいつでもいいとなっているのに、どうしてギルドのアジトには毎月の支払い期限が設けられているのかは、謎である。


「冒険ってどこに行くんだ? 愛しの妹を追いかけるのか?」

「その言い方、ほんっとやめてくれないかなぁ……。さすがにまだ距離を置いたほうがいいってことくらい、俺にも分かるよ。とりあえず今は、当初の目的に戻る」

「当初の目的?」


 何だっけそれ、と小首をかしげるハンス。

 ジャックはニヤッと口角を上げた。


「『全職業を網羅して、全部の武器を極める』」

「あー! 言ってたなぁ、そんなこと!」


 すっかり忘れてた、とハンスは目を丸める。ジャックは腕を組んで「ふふん」と笑った。


 単純にゲームをやり込みたいという気持ちももちろんあるが、それとは別に、得た情報を動画にして儲けたいという打算もあった。


 動画の広告収入は、一人暮らしをしているジャックにとって、貴重な収入源のひとつなのだ。


「でも、職業って全部でいくつあるんだ?」

「今のところ58種、スキルが174個、武器は剣、斧、槍、弓、ナイフ、杖、鎌、拳甲、ヌンチャク、投擲武器の10種類だな。アップデートで今後増えるかもしれないけど」

「おおう……思ってたより調べてたぁ」


 ハンスは驚いたように呟いた。当然だ。ジャックはわりと、下準備はちゃんとするタイプである。


「ジョーヌの迷宮図書館に『職業図鑑』ってのがあってな。転職条件や習得できるスキルについて書いてあるんだよ。まあ、転職条件はあくまで『条件』だけで、どうやって満たせばいいのかは書いてなかったけどな……」


 テイマーの転職条件『愛』はどうやって満たせばいいのか相変わらずさっぱりだし、他にも攻略方法が分からないものはたくさんあった。


 マジシャンの転職条件なんて『イカサマを看破せよ』である。誰のイカサマをだよ、と思わずツッコミを入れたものだ。


 ハンスは首の後ろで手を組んで、「へえ」と言った。


「そんな図鑑があるのか。でも、スキルがそんなにあるんじゃ、全部を覚えるのは無理じゃないか?」


 何しろスキルの習得にはめちゃくちゃ時間がかかる。セカンドスキルまではすぐに覚えられるが、サードまで覚えるのは本当に大変だ。


 だからこそ、サードスキルには魅力的なものが多い。モンスターが確実にアイテムを落とすようになる『解体』だったり、アイテムボックスの収容量が無限になる『収納』だったり。魔道士のサードスキル『上級魔法』には、一度行った場所へ一瞬で移動できる『テレポーテーション』なる魔法があるし。


 ちなみにハンスはこの便利な魔法が欲しくて、魔道士を選んだ。戦闘をしないので、なかなかレベルが上がらないけれど。


 ジャックは「ちっちっ」と指を振った。


「それが、そうでもないんだよなぁ。【神依(かみより)】って職業があるんだ。この職業は『獲得経験値3倍』とか『職業熟練度2倍』のスキルを覚える」

「えー! 何それ便利!」


 図鑑によると【神依】とは神の依り代。神の加護を受ける職であるらしい。


 たくさんのスキルを覚えたいなら、ぜひとも習得しておきたい職業だ。


 ただし、このゲームにおいては、便利なものほど習得が困難になっている。


「転職条件は?」

「『神様に会う』だ」

「どこで?」

「分からん!」


 清々しいほどにキッパリと答えたジャックに、ハンスは脱力した。


「そこ、一番知りたいとこ!」

「だよな、俺もそう思う。K.K.が知ってたりしないかな? あいつ、妙に高次元ぶったりすることあるし」

「いやいや、さすがに神様に会う方法なんて分かんないでしょ! そんなことまで知ってたら、もはやケイ姐さんが神だよ!」

「K.K.が、神……?」

「言葉の綾だからね、シスコン兄ちゃん!?」


 だからシスコンじゃないっての、と不満げに口を尖らせるジャック。


 そこじゃない、とハンスは心の底から言いたかった。


「まあそんなわけで、とりあえずK.K.のとこに行ってみようかなと思ってるんだけど。ハンスも来るか? レベル上げも兼ねてさ」

「まあ、俺、全然レベル上がってないからね……。でもジャックについていくのは不安だな……」

「大丈夫だって。そうだ、ついでにブルーに行ってジェイドたちとも合流しよう。ドラゴンスレイヤーも習得したいし」

「不安しかない」

「ナナミの動向はこのまま報告を続けて欲しいんだけど」

「このシスコンストーカー男め!!」


 ハンスはバシンッとテーブルを叩いた。


「やってもいいけど、いっぱい俺を褒めろ!!」

「わー、ハンスくん素敵ー」

「棒読みじゃダメ!!」


 めんどくせぇな、とジャックは内心でつぶやいた。


 お互い様である。

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