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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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協力はマルチプレイの醍醐味

 カルディナルの南門を出てすぐにある、だだっ広い平原。初めて来た時には素通りしてしまったそこには、脚が生えたキノコらしきモンスターが我こそこの地の主であるとばかりに悠々と闊歩していた。


 警戒心はとても低いらしく、試しに矢を放ってみても、当たる直前まで気付きもしない。気付いたところで反応が鈍く、避けることもない。


 頭を貫かれたキノコは呆気なく青白い光となって消えた。楽勝である。ノゾムは何とも言い難い微妙な気分になった。


「いや、うん、確かに練習相手にはなるな……」


 鈍いキノコに自分を重ねてしまったわけではない。

 断じてない。


 ちなみにこのモンスターは『アルカンシエル』の中で最弱のモンスターであり、得られる経験値は極わずか。


 ドロップアイテムはキノコ……それも森へ行けばいくらでも採取できるものであり、ぶっちゃけ『戦いの練習相手』以外の価値はこのモンスターにはない。


 ノゾムは哀れみの表情を浮かべ、しかしすぐに気を取り直して弓の練習を続けることにした。



 最弱モンスターをただ倒すだけでは何の練習にもなりはしない。なので、出来るだけ距離をあけて狙うことにする。

 5メートルよりも10メートル。10メートルよりも20メートル。遠く離れれば離れるほどに、当てるのは難しい。距離が遠くなれば、的が小さく見えるからだ。


 20メートル地点から射った矢はキノコには当たらず、地面に落ちた。ノゾムの実力など、まだまだこんなものである。


「おう、やってるな!」


 聞き覚えのある声に顔を上げる。片手を挙げて近付いてきたのは、『悪魔の口』で出会ったジャックだった。


 ジャックの後ろには見知らぬ2人。ファンタジー小説に出てくるエルフのように尖った耳と金色の髪を持つ少年と、目つきの悪いゴロツキのような風貌の灰色の髪の青年だ。

 エルフのような少年は何故か目を輝かせていて、ゴロツキ風の青年は眉間に深いしわを刻んでノゾムを見ていた。なにこわい。


 ジャックは後ろの2人の様子などまったく気付いていないようで、のんびりとした口調で話しかけてきた。


「いや〜、フレンド登録をするの忘れててさ〜。ノゾムくんのIDを教えてくれる?」

「え、あ、はい」


 なぜ俺なんかとフレンドに、と思いつつも、ノゾムは素直にプレイヤーIDを教えた。ジャックのIDも教えてもらって、これで登録完了だ。ノゾムのフレンドは、これで2人になった。1人はラルドである。


「よし。ノゾムくんの父さんの手がかりが見つかったら、伝えるな」

「え、あ、ありがとうございます!」


 そのためのフレンド登録か、と思い至ったノゾムは恐縮した。身内の問題なのに、いろんな人に迷惑をかけている気がする。ラルドは楽しんでいるみたいだけど。


 ノゾムは深々と頭を下げて、それから右往左往に視線を泳がせた。金髪の少年のキラキラした目と、ゴロツキみたいな青年の値踏みするような眼差しが気になって仕方がない。


「……それで、えっと、後ろの人たちは……」

「ああ、こいつらは」


 ジャックが2人を振り返る。金髪の少年がジャックを押しのけて出てきた。


 キラキラ輝く緑の目。白い肌に、尖った耳。華奢な身体に緑色の服をまとっていて、見るからに森の民、エルフっぽい。


「同士よッ!!」

「……はい?」


 エルフっぽい少年はいきなりノゾムの両手を握った。キョトンとするノゾムに構わずに、握りしめられた両手が上下に動かされる。


「運営に不遇を強いられる狩人だが、だからこそ最強になり得るのだと我々が証明しよう! まあ、証明せずとも弓が最強なのは自明の理だがな! それを認めたがらない愚か者どもに目にものを見せてやろう!」

「えっと、あの、……はいぃ???」


 まったくもって、何を言っているのか分からない。ひたすら首をかしげるノゾムを見て、続いて口を開いたのはゴロツキ風の青年だ。短い灰色の髪に、鋭い三白眼。背は低いが、肩幅が広くてガッシリした身体をしている。眉間に深くしわを刻んで、彼はジャックを見た。


「おいジャック、本当にこいつがクリスタル・タランチュラを倒したのか? いかにも雑魚って感じだが」

(雑魚……)


 青年の率直な意見が胸に突き刺さる。確かに雑魚に違いないが、初対面で言われるほどに弱さがにじみ出ているのだろうか?


 ジャックはケラケラ笑った。


「見た目で判断しちゃダメだぞ〜。ノゾムくん、こいつらは弓バカのユズルと、格闘バカのジェイドだ」

「おい、俺をコイツと同列に扱うな」

「俺と同じギルドに所属しているんだ〜」


 不機嫌そうな顔をして口を挟む青年……ジェイドを無視して、ジャックはそう言った。ノゾムは首をひねった。


「ギルド……レッドリンクスでしたっけ?」

「そ。ノゾムくんの父さんの話をしたら、協力してくれるって言うもんで」

「えええっ!? そんな、悪いですよ!」


 あのクソ親父のためにこれ以上協力者が増えるなんて、申し訳なさすぎだ。


 しかしなおもノゾムの手を握るエルフ風の少年、ユズルは、「とんでもない!」と声を荒らげて顔を近付けてきた。近すぎる。


「我々が勝手にしていることだ。君が気兼ねすることはない。貴重な狩人仲間だ、是非協力させてくれ!」

「貴重……?」

「狩人は続ける奴が少ないもんな〜」

「つか暑苦しいんだよ、お前」


 なんなんだよその口調は、と呆れたように言うジェイド。普段のユズルは、こんな口調ではないらしい。そして近い。


 結局ノゾムは、ユズルのこの謎の熱意に圧されて協力を受け入れることになった。ついでにフレンドになった。これでノゾムのフレンドは3人になった。


「それで、今は何をしているんだ? あの面白い黄色頭は?」

「黄色頭……。ラルドなら教会で説法を聞いてますよ」

「へえ。騎士になるつもりなのか」


 目を丸めるジャックに、ノゾムは曖昧に頷いた。ラルドは騎士だけでなく僧侶にもなって、回復役まで担おうとしている。


「エカルラート山という場所にコーイチという人がいるらしくて、次はそこに向かうと決めたんですけど……今の俺たちじゃ少し厳しいみたいで。で、ラルドは新しい職業とスキルを習得して、俺は弓の練習と熟練度をあげようって話になって」

「ふーん。ギルドに入れば、メンバーを補充できるのに」

「ラルドは『孤高の戦士』らしいですからね」


 あんなにもフレンドリーなやつなのに、なぜ『孤高』を自称するのかは謎だ。


 ジャックは面白そうに笑った。

 その後ろではユズルが顎に手を当てている。


「弓の練習か……ならば付き合おうじゃないか!」

「え?」

「弓の可能性を君に見せたい!」

「おいおい、やめとけよ。せっかくの狩人仲間がいなくなっちまうぞ」


 ジェイドがうんざりした顔で忠告する。ノゾムは首をかしげた。見れば、ユズルも首をかしげている。


「何故だ?」

「ドン引きするから」

「どういう意味だそれは! 相変わらず失礼な奴だな!」


 ノゾムにはさっぱり分からない。

 しかしジェイドは真顔だ。マジで言っている。


 ドン引きする弓の可能性って、何なんだ。


 ジャックが腕を組んだ。


「ジェイドの言い分はわかるけど……弓を使い続けるなら、ユズルの戦い方は見ておいたほうがいいかもな」

「はあ……」

「ただし、真似しようとしちゃダメだぞ。参考程度にな」


 そこまで言われると、逆に気になってくる。

 『弓バカ』と呼ばれる彼が、どんな戦い方をするのか。


「よろしくお願いします」


 ノゾムはペコリと頭を下げた。

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