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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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ヴェールの職人街

 はじまりの国ルージュの職人街もとても賑わっていたけれど、モノづくりがメインであるヴェールの職人街の賑わいはその比ではなかった。


 木工所、石工所、鉄工所、あらゆる工房が立ち並び、道には人が溢れんばかりに行き交っている。

 木を削る音、石を叩く音。トンテンカンとハンマーを叩く音に、熱した何かを水につける音。それらの音に負けないようにみんなが大声で話すものだから、とてもうるさい。


 工房は国が管理しているものもあるけど、役所で申請をすればプレイヤーが持つことも可能だ。ミーナの武器を作ってくれることになっているプレイヤーも、そうやって工房を手に入れたらしい。


 ミーナはうるさい通りを慣れた様子で進んでいく。

 ノゾムたちはその後ろをついて行っていた。


「案内してくれてありがとう、ミーナ」

「いえいえ〜。私も向かうついでですからね。それにしても、矢って消耗品だったんですねぇ」


 剣一本で生きてきた(?)ミーナは弓がいかに不遇なのかを知らなかったようだ。


 ノゾムの矢はナナミが作ってくれているけど、一本ずつ木を削って作っているので、どうしても完成までに時間がかかる。

 今はなおさら、ナナミの意識はツリーハウスのほうに向いてしまっているので作業が遅れ気味だ。

 以前に比べてお金に余裕があるので、じゃあ街で買ってくるかとノゾムは思ったのだが、そこへナナミがこんなことを言い出した。


「工房で矢尻の型を作れないかしら?」


 もしも工房で型を作ることが出来るなら、そこに溶かした鉄を流し込むだけで矢尻を量産することが出来る。そうなれば弓矢作りの時間は削減することが可能だ。


 それに、鉄の矢尻を使えば、攻撃力も上がるのではないか。

 ナナミはそう考えたのだ。


「矢尻だけじゃなくて、もういっそ全部鉄にしちまえば?」


 ラルドがあっけらかんと言う。

 オスカーは首をひねった。


「全部をいきなり鉄に変えたら、射るのが難しくなるんじゃないか? 木の矢と鉄の矢じゃ、重さが変わるだろうし」


 実際のところどうなのかは分からない。


 オスカーの言うとおり扱いにくくなるかもしれないし、あまり変わらないかもしれない。


 このゲームはやたらとリアリティを求めてはいるけど、ゲームだからこそのご都合主義が存在しないわけではないのだ。




「こんにちは〜!」


 たくさん立ち並ぶ工房のうちのひとつに、ミーナは訪れた。開きっぱなしにしている扉の前から声をかけると、中にいた人物がゆっくりと振り返る。


 座っていてもその姿はとても大きい。丈の短いタンクトップから覗く引き締まった褐色の肌。ぷっくりと膨らんだ唇に、まぶたに半分隠れた緑の瞳。

 豊満な胸が、わずかに揺れる。


「む。戻ってきたか。遅いから心配していた」


 棒読みのような淡々とした声。

 ミーナは苦笑を返した。


「ごめんなさい、オリハルコンを探してて」

「オリハルコンはこの国にはない。アンディゴで見つかったらしい」

「アンディゴ!?」


 アンディゴといえば、ヴェールの隣の国、ブルーのさらに先にある国だ。他の国から船などで直接行くことは出来ず、ブルーとアンディゴの境にある『竜の谷』を越えなければならない。


 まん丸に目を見開いたミーナは、口元に手を当てて考え込むようにうつむいた。


「アンディゴですか……」

「そうだ。どうする? 採りに行くか? ちなみにアンディゴには、ドラゴンや巨人、マンティコアや天狗といったヤバいモンスターが数多く生息している」


 アンディゴは相当ヤバい国であるようだ。キラキラと目を輝かせるラルドから、ノゾムはそっと目をそらした。

 ミーナは「むう」と顔をしかめる。


「それらを相手にするのにも、強い武器が欲しいですね……。とりあえず、鋼の武器を作ってもらえませんか?」

「分かった。鉄が多く要る」

「鉄ならたくさん採りました」


 ミーナはそう言って、アイテムボックスから大量の鉄鉱石を取り出した。

「本当にたくさん」と石をひとつひとつ手に取って見つめる褐色の肌の大女は、ふと顔を上げて、ノゾムたちに目を留めた。


「お前たちは」

「お、お久しぶりです」


 ミーナの武器を作ってくれることになっている職人さんとは、前にルージュの職人街で会ったK.K.という人物だった。


「姐さん、ちーっす!」

「なんであんたが、ここにいるのよ……」


 ぶんぶんと手を振るラルドの横では、ナナミがすんごく微妙な顔をしている。


 K.K.は「移転した」と返した。彼女はもともとモノづくりをメインに遊んでいた人なので、モノづくりの国に移っていても何も不思議はない。


「知り合いか?」

「知り合いだったんですか?」


 オスカーとミーナがほぼ同時に問いかける。ミーナはムッとした。オスカーはそっぽを向いた。

 オスカーの中の人が別人だということを、ミーナはまだ完全には信じられないようだ。


 ノゾムは苦笑を浮かべて説明した。


「ジャックさんがリーダーをしている『レッドリンクス』の一員ですよ」

「ああ、あいつの……」


 納得したように頷くオスカー。


「ジャック……。どこかで聞いた名前です……」


 ミーナは難しい顔でつぶやく。バトルアリーナで君が戦った相手だよ。


 K.K.は微妙な顔をするナナミに、憐れむような眼差しを向けた。


「シスコンが暴走したと聞いた。おもしろ…………大変だったな」

「今、面白いって聞こえたんだけど。ていうかなんで知ってるの?」

「ハンスが教えてくれた」

「あいつ、あの耳引っこ抜いてやろうかしら」


 ハンスというのも、レッドリンクスのメンバーらしい。ノゾムは会ったことがない。狐の耳を生やした少年だそうだ。


「かわいいから駄目だ」


 K.K.は真顔で言い放った。

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