表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
187/291

ジュエル・タランチュラⅢ

 ジュエル・タランチュラが落とした宝箱の中にはナナミの目論見どおり、色とりどりのたくさんの宝石が入っていた。


 ルビーやサファイア、エメラルド、トパーズなどなど。それらはアイテム欄に書かれた説明によると『魔石』と呼ばれるアイテムらしい。


 ひとつひとつに魔法の力が込められていて、色によって力の種類が変わる。

 たとえばルビーに見える赤い魔石には、『炎』の力が宿っている、とか。

 この魔石を使って何か作れそうだ。


「オリハルコンは入ってないですねぇ……」


 ミーナは残念そうに言った。ナナミは「だからこんなところで手に入るわけないでしょ」と呆れた顔だ。


「オリハルコンなんていうのはもっとこう……限られたプレイヤーにしか辿り着けないような、超難しいダンジョンの最奥とかにあるモノよ。誰でも気軽に採掘が楽しめるような、こんな場所にあるわけないじゃない」

「ふえぇ〜……ガッカリです……」


 しょんぼりと肩を落とすミーナ。

 オスカーはそんなミーナを見て首をかしげた。


「なんでオリハルコンなんてものを探しているんだ?」

「あなたに教える筋合いはありません」


 ミーナは冷たい態度できっぱりと言った。オスカーの眉間がぴくりとする。――ああそうだ、誤解を解かなければ。


「ミーナ、この人は以前モンスターに囲まれていた君を放って逃げた『オスカー』とは、中身が別の人なんだよ」

「え?」

「兄弟でひとつのアバターを共用していてね、君を放っていったのはお兄さんのほう。今のこの人は弟さん」

「えええ〜……?」


 ミーナは疑わしそうな顔をして、オスカーの顔をしげしげと見つめた。素直に信じる気にはなれないようだ。


「本当に〜?」

「お兄さんのほうはモンスターを見たらすぐに逃げ出すけど、この人はちゃんと戦ってたでしょ?」

「それはそうですけど……」


 でも離れたところから魔法を使ってただけだし、とミーナは唇を尖らせる。接近戦以外は『戦う』に含まれないとでもいうのか。

 オスカーは口を真一文字に結んで、そっぽを向いた。


「信じたくないなら別にいい」

「ちょっとオスカーさん」


 何もそんな、投げやりにならなくても。

 慌てるノゾムと、口をへの字に曲げたままのオスカーを交互に見て、ミーナはしぶしぶ頷いた。


「たしかに、以前と雰囲気が違うのは確かなようですね。ひとまず信じましょう」

「ひとまず、ね」

「……私がオリハルコンを探しているのは、強い武器を手に入れるためです。バトルアリーナにとてつもなく頑丈な相手がいまして、その防御力を打ち破れるくらいの強い武器が欲しくて」


 ミーナの告白に、オスカーはちょっと沈黙したあと「やっぱり脳筋……」とつぶやいた。


 ミーナには聞こえていなかったようなのが幸いである。


「その『とてつもなく頑丈な奴』ってのが、ヴィルヘルムのことだぜ」

「ああ、さっき言ってた……」


 ラルドの補足になるほどと頷いて、オスカーは口元に手を当てる。黒曜石のような瞳が下に向き、ふとナナミが抱きついている宝箱に目を留めた。


「その魔石を武器に取り付けてみたらどうだ? 上手くいけば、魔法の力が宿った武器が出来るかもしれない」

「おお、魔法剣か! カッコイイな!」


 ラルドの目がキラリと輝く。炎の剣とか、氷の槍とか、確かにカッコ良さそうだ。


 炎の力を宿す『ガルーダの羽根』は弓矢の素材にした場合は『炎の矢』になるけど、剣に付けた時には何もならなかった。

 けれども魔石なら……炎の剣が作れるかもしれない。


 ミーナはちょっぴり眉を寄せた。


「でも、剣自体も強くしたいんです」

「お前はずっとここで採掘をしていたんだろ? 何が採れたんだ?」

「鉄と銅、水晶に蛍石、それから銀が少しだけ……」

「そうか……。鉄を鋼に加工できないかな。鋼の武器なら頑丈だろう。もちろん、オリハルコンには負けるだろうが」

「え……」


 ミーナはまん丸にした目をオスカーに向けた。


「鋼って、鉄から作るんですか!?」

「知らなかったのか?」


 オスカーが言うには、『鋼』というのは鉄に『炭素』を加えて加工したものをいうらしい。ただでさえ堅い鉄をさらに強化した金属だ。


 伝説といわれるオリハルコンにはさすがに劣るだろうが、鋼を使えば強力な武器が作れるに違いない。それに魔石を付ければ、さらに強くなるだろう。


「……私、鋼も鉱石なのだと思っていました」

「オレもオレもー!」


 恥ずかしそうに頬を染めるミーナの傍らで、ラルドが「はいはーい」と手を上げる。ノゾムはそもそも気にしたことなかった。


「そ、それでは私、さっそく街に戻って武器を作ってもらいます」

「あ、俺も行きたい」


 はい、と手を上げたのは、今度はノゾムだ。全員の視線がいっせいにノゾムに向いた。ノゾムは簡潔に理由を述べる。


「矢が尽きた」


 さすがにジュエル・タランチュラは多すぎた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ