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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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ジュエル・タランチュラ

 狼男をモチーフにしたと思われるモンスターは、とてつもなく強かった。『昼』のモンスターたちとは比較にならないスピードとパワー、しかも爪には獲物の動きを麻痺させる毒も持っている。


 素早いから弓じゃ狙いにくいし、動き回るから『隠密』を使って死角を取ることもできない。仕方がないのでノゾムは姿を消したままワイヤー地帯を作り、ラルドがそこへ狼男を誘導して動きを止める作戦にした。


 途中、どこからともなく現れた巨大な人面蜘蛛の巣にナナミが絡め取られるハプニングも起きたが、オスカーの魔法により、なんとか脱出に成功。


 ノゾムたちは無事に最初の難関を突破することができたのだった。


「『夜』のモンスター、怖すぎる……」


 これは1人で素材採集なんて到底無理である。

 つくづく、戦えるオスカーがいる時に来て良かったと思う。


「さあ、サクサク進むわよ!」


 蜘蛛の巣に捕まったことなどまったく気にしていないのか、ナナミはそう言って夜の森をズンズン進んでいった。闇夜に光る草や花に、興味津々だ。


 モンスターと遭遇する回数も『昼』と比べて段違いに多い。それらをなんとか撃破しつつ、草を掻き分け、川を渡り、ノゾムたちはどんどん奥へ進んだ。


「お? なんか使われてないっぽい坑道があるぜ?」


 やがて見えてきたのは、『昼』にナナミと来た坑道だった。木材で固定された洞窟の外には、朽ちた線路とトロッコがある。


「使われてないっぽく見えるけど、けっこうたくさんの人が採掘に来てたよ。鉄とか銅とかが採れるんだって」

「へえ〜。開拓に役立ちそうだな」


 そういえば、ミーナはまだこの中にいるのだろうか。

 「オリハルコンを見つける!」と言っていたが、ナナミいわく、そんな伝説の石がこんな場所にあるはずがないとのこと。

 さすがに諦めて、町に戻ったのだろうか?


「この中、昼にはモンスターが出なかったわね」

「じゃあここで少し休憩するか。さすがに強敵との連戦で疲れた」


 ついでに、夜にしか採れない鉱石なんかもあるかもしれない。

 そんなわけで、ノゾムたちは坑道に足を踏み入れたのだが、




「なんかいっぱいいる〜〜〜ッ!!」




 坑道の中にはモンスターがうじゃうじゃいた。昼とは大違いだ。

 しかもそこにいるのは、頑丈そうな尖った手足に赤く光る8つの目を持った、蜘蛛のようなモンスター。

 ルージュの『悪魔の口』にいた『クリスタル・タランチュラ』というモンスターと、そっくりな姿の連中だった。


 クリスタル・タランチュラと違うのは、彼らの身体が水晶(クリスタル)とは違うもので出来ているらしい、というところ。


 赤と青と緑。煌めくそれらの石は、たぶんルビーとサファイア、それにエメラルドだと思う。


 大きさもクリスタル・タランチュラに比べると遥かに小さい。カサカサとイヤ〜な音をさせながら、坑道内を動き回り、何やら壁を掘り返しては、出てきた鉱石を食べている。


「クリスタル・タランチュラの亜種かしら? クリスタル・タランチュラは倒すと『精霊水晶』をドロップするけど、アイツらの場合はもしかして、宝石が手に入ったりするのかしら!?」


 ナナミの目はキラキラしている。相変わらず綺麗なもの好きである。


「でもちょっと、数が多すぎるよ。どうやって倒すの?」

「クリスタル・タランチュラは首を落とせば即死させられるんだったな。アイツらもそうなんじゃね?」

「だが、ルビーやサファイアは水晶よりも硬いぞ。切り落とせるのか?」


 オスカーの指摘に、そういえばラルドは結局クリスタル・タランチュラの首を落とすことが出来なかったのだと思い出す。


 水晶でできた硬い首を落とすには、一定以上の攻撃力が必要なのだ。


 あの時よりレベルは上げているとはいえ、ラルドが主に伸ばしてきたのは『魔法攻撃力』である。物理攻撃力自体は、あまり上がっていない。


 そんな状態で、水晶よりも硬いルビーやサファイアが切れるのか――。


「うん。無理だよ。諦めよう」

「それじゃあノゾムの、口の中にゼロ距離射撃!」

「いや、あの時の俺はどうかしてたから」


 冷静に考えて、自分を喰らおうとする大型モンスターの口の中に矢を放つなんて、正気の沙汰ではない。

 あれをもう一回やれというのは、絶対に無理だ。


 ラルドとナナミは口を尖らせてぶーぶー言った。そんな顔をしても、無理なものは無理である。


「急所を狙わないと勝てない相手なのか」


 オスカーが片眉を持ち上げて訊ねる。

 ナナミは難しい顔をした。


「防御力がめちゃ高だからね。通常攻撃でも、地道にHPを削っていけば勝てないわけじゃないわ。ただ、相手も黙って攻撃を受け続けるわけがないから……」

「長期戦になるのは避けられない、か。むしろこちらがやられてしまう可能性もある、と」

「ヴィルヘルムとどっちが硬いかな?」

「誰だそれ」


 オスカーは怪訝な顔をラルドに向ける。

 ラルドは大袈裟に仰け反った。


「知らねえの!? バトルアリーナの無敗の王者! 極悪人のヴィルヘルム!」

「バトルアリーナはスルーしてきた」

「もったいねぇな!?」


 バトルはやるけど、別にバトルマニアというわけではないオスカーは、オランジュの目玉施設に全く興味が湧かなかったようだ。


「めっちゃ強くて、めっちゃ怖くて、めっちゃカッコ良かったんだぞ!」

「そうか」


 そして自分から訊ねたのに、ヴィルヘルムに対しても特に興味はないらしい。それがいいと思う。ヴィルヘルムという男は、遠くから見ているだけならともかく、直接関わるとロクでもないことになりそうだ。


「で、どうするんだ? あの蜘蛛たちと戦うのか?」

「戦うに決まってんだろ!」

「めんどくさいので嫌です」

「宝石欲しい!」


 ノゾムたちの返答にオスカーはため息をつく。まとまりがなくて申し訳ない。

 ノゾムたち3人が互いに仏頂面を向かい合わせたその時、



「『さみだれ突き』ーーーッ!!」



 非常に聞き覚えのある声が、坑道の奥から聞こえてきた。


 ……まだいたのか。

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