タネも仕掛けもございません
ゲームの中の『夜』が終わって、『昼』が来る。その『昼』もあっという間に過ぎていって、また『夜』が来た。
ノゾムとナナミが作ったロープは、ある程度の長さになると持っていかれて、リオンとラルドの手によってツリーハウスが完成していく。
なんだか少し斜めに歪んでいるような気がするけど、ナナミは崩れなければいいと、オーケーを出した。それでいいのか。
そうして数日をかけて作ったツリーハウスは、全部で4つ。形も大きさもバラバラだ。
ナナミはこれらを吊り橋で繋げてみたいらしい。吊り橋はこれから作ることになるが、ロープの材料であるツタがなくなってしまったので、また採集に行かなければならない。
ラルドは勝手に作ったブランコで遊んでいる。ラルドの頭の上には、フェニッチャモスケ。モンスター嫌いのリオンがいなくなったので、アイテムボックスから出したのだ。
きゃーきゃー言いながらはしゃぐ1人と1匹。楽しそうで何よりである。
「よくもまあ、これだけのものを作れたな」
感心したように言うのはオスカーだ。遅れた分の勉強は取り戻せたらしく、今日からまた復帰した。
「オスカーさん、ジョーヌではありがとうございました」
ノゾムはペコリと頭を下げる。オスカーは首をひねった。
「何がだ?」
「迷路に入れられた俺を助けるために、女王様と勝負をしたって聞きました」
オスカーは「ああ」と思い出したように呟いて、なぜだかぎゅうっと眉を寄せた。
「兄貴がそう言ったのか?」
「そうですけど……」
「あんのクソ兄貴……」
オスカーはいっそう不愉快そうな顔をする。どうしたのだろう?
首をかしげるノゾムに、オスカーは苦虫をかみ潰したような顔を向けた。
「礼はいらない。お前を助けたのは兄貴だ。俺は役立たずだった」
「ええ?」
「いやいや、役立たずってことはねぇだろ。その前まで頑張ってたじゃん」
「いいや。役立たずだった」
ラルドのフォローにもきっぱりと言い張るオスカー。ノゾムにはさっぱり分からない。ブランコから飛び降りたラルドは、呆れたように肩をすくめている。
「もちろん、挽回はさせてもらうさ。何かすることはあるか?」
「ちょうど『夜』の採集がしたいと思っていたところよ」
「よし、付き合おう」
というわけで、ノゾムたちは三度採集地へ足を踏み入れることになった。
***
採集地、エムロード。
深く暗い森の中を、青や緑の光が飛んでいる。ホタルだ。ラルドとフェニッチャモスケが追いかけ回した。ホタルを捕まえて何をする気なのか、ノゾムには分からない。
オスカーは自分のスキルやステータスを確認している。戦闘はせずとも、工作をすることで多少は経験値が入るらしく、オスカーのレベルは少しだけ上昇していた。
新たに増えた職業とスキルもある。
「『木こり』……伐採をすることで手に入る職業か。それから『大工』……ツリーハウスを作っている最中に条件を満たしたんだろうな。あとは……『マジシャン』?」
「あ、それ、リオンが女王様のイカサマを見破ったときに手に入れたやつだぜ!」
ポーカー勝負をしていたとき、なんと卑怯なことに、ジョーヌの女王はイカサマを使っていたらしい。オスカーはそのイカサマを見破れなかったが、リオンは見事に破り、勝負に勝ったのだそうだ。
女王はカジノでもイカサマを使っていたのだが、どんな手段を使っていたのかまで見破れた者は、今までいなかったらしい。
『マジシャン』は女王のイカサマを見破れた者が得られる職業。女王いわく、今のところそれを得られたのは、リオンだけなのだそうだ。
つまり、めっちゃレアな職業だ。
「…………」
オスカーはまたしても眉間にしわを刻んだ。なんだかとっても複雑な顔をしている。悔しそうというか、なんというか。
ホタルを追いかけていたラルドが、オスカーを振り返った。
「『マジシャン』って、どんなスキルがあるんだ!?」
「……『フラワーシャワー』とかいうやつだな」
「なんだそれ? 使ってみせてくれよ!」
わくわくしながら言うラルドに、オスカーはため息をつく。そしてしぶしぶ、スキルを発動させた。
手のひらを上に掲げて『フラワーシャワー』と叫ぶと、天から色とりどりの小さな花が降ってくる。それもたくさん。なるほど、『フラワー』の『シャワー』だ。
小さな花々がひらひらと舞い散る光景は、とても幻想的で美しい。けれど、
「……これが何の役に立つんだ?」
オスカーは怪訝な顔をして言い放つ。ノゾムは「たしかに」と頷かずにはいられなかった。
フェニッチャモスケはピィピィと喜んでいる。ここにロウがいれば、同じようにはしゃいでいたかもしれない。面白いスキルではあると思う。だけど……「何の役に立つのか」と聞かれると、答えに困ってしまうスキルである。
「敵の撹乱! ……とかかな?」
「なるほどな。だがこれくらいのことは、本物の『手品師』ならスキルを使うまでもなく出来るんじゃないのか?」
どこからともなく花吹雪を出すなんてことは、たしかに本物の手品師なら簡単にやれそうだ。
『スキル』じゃなくてもいい。
「タネを仕込む必要がないから、楽でいいかも?」
「そうか? そうかもな……。でもなぁ……」
「サードスキルはもっとすげぇスキルかもよ? マジックのすごいのっつったら……人体浮遊とか、人体発火とか、人体切断とか……」
「怖い怖い怖い!」
手品師が使うマジックの中でも特に大掛かりで見た目の派手なものを羅列していくラルドに、オスカーは引きつった顔をする。
「人体浮遊に関しちゃ、魔道士の『レビテーション』がすでにあるだろ」
「あ、そっか。じゃあ、発火か切断?」
「どちらも使い道に困る!!」
「ねえちょっと、のんきに話してる場合じゃないわよ!」
ナイフを構えたナナミが声を張り上げる。その視線の先にいるのは、毛深い身体に狼に似た顔を持つ、二足歩行のモンスター。
ギラギラと輝く赤い瞳は、狂気と殺気に満ちている。
これはまた、強そうなのが出てきた。