ツリーハウスをつくろう
『プレイ時間』が終わって現実世界に戻って、昼ごはんを食べて、再びゲームの世界に戻っても、ノゾムたちはロープを撚り続けた。
最初は手こずっていた作業でも、慣れてくると少しずつ手際がよくなって、楽しくなってくる。しかし『慣れ』が続いてくると、次に出てくるのは『飽き』だ。
「もう飽きた……」
最初に投げ出したのはラルドだった。
ツタを茹でている間にせっせとロープを撚っているナナミは、その呟きを無視した。聞こえていないのだろう。相変わらず集中力が凄まじい。
ノゾムとしては、ラルドに同感だ。ずうっとおんなじ作業を続けて、飽きないわけがない。体がアバターなので、ずっと同じ姿勢で同じ作業を続けていても肩が痛くなったり腰が痛くなったりすることはないが、いかんせん、飽きる。
もう10メートルは作っただろうか。それともまだ、そこまで達していないだろうか。測っていないので分からないが、ゴールがまだまだ先であることは確かだ。
……やめよう。考えているだけで気が滅入ってくる。
「オレはリオンを手伝ってくるぜー!!」
「あ、逃げた」
ぴゅーんと走り去ってしまったラルドを、ノゾムは唖然と見送った。自分からやりたいって言い出したくせに、なんて無責任だろう。
ナナミはちっとも気付いちゃいない。ノゾムも離れたとしても、きっと彼女は気付かないだろう。
けれどもノゾムは真面目なので、そのまま作業を続けることにした。
飽きていようが気が滅入っていようが関係ない。やる気はなくても、手を動かすことは可能だ。
ノゾムは心を無にして、ひたすら手を動かし続けた。
***
「リオーン! 手伝いに来たぜー!」
いけしゃあしゃあとそんなことを言いながら、ラルドはリオンに駆け寄った。ノコギリで木の枝を落としていたリオンは、その手を止めてラルドを見やる。
ちなみにリオンの弟のオスカーだが、今日はゲームをやらないらしい。昨日の夜、勉強をやらずに寝てしまったそうなので、今日はその分を上乗せしてやるそうだ。真面目か。ふだんまったく勉強をしないラルドには、ちょっと信じられない。
『箱庭』近くで作業をしているリオンの傍には、まだまだ枝葉のついた木々がたくさん横たわっている。
「これ全部、枝を落とせばいいのか?」
「うん。枝がついたままじゃあ、使いにくいからね」
「おっしゃ、まかせろ」
ラルドはアイテムボックスから自分のノコギリを取り出した。このノコギリも、斧と同じくチュルコワーズの役所の受付で貰ったものである。
「ちなみにツリーハウスってどうやって作るんだ? てか、素人でも作れるもんなの?」
「まあ、現実世界で作るなら、大工さんの力を借りたいとこだけどね……。事故が怖いし」
事故が怖い。そりゃそうだ。しかしここはゲームの中、体はアバターだ。たとえ作っている最中に木の上から落っこちても、怪我などしようはずがない。
「木の種類や形によって、ツリーハウスの作り方は変わるんだ。幹がまっすぐ伸びている針葉樹の場合は、幹を柱の代わりに使うといいし、枝が分かれて広がる広葉樹の場合は、太い枝の股に木材かけて土台を作るといい」
「ふうん? この木は広葉樹だな」
「うん。『箱庭』の中の木を移動させれば、土台を作りやすいように木の配置を自由にできるし、だから制作自体は、それほど難しくはないと思うんだけど……」
ただし、ここには釘がない。組み立てるにはロープを使うことになるが、そのロープは素人が作る手作りのロープだ。
ラルドは自分が楽観的だという自覚はあるけど、さすがに手作りロープで手作りのツリーハウスなんて本当に作れるのかなぁと不安になった。
だが、まあ、ここはゲームの中。たとえ落下して打ちどころが悪かったとしても死にやしないし、失敗したならまた別の方法を考えたらいいだけだ。
『箱庭』の中にある木の中で特に大きくて頑丈そうなものを3本選び、三角形を描くように配置する。
土台となる木材をかけやすいように向きを整えて、太い枝が分かれるところに木材を3本、これまた大きな三角形を描くように置いた。
木材と木材がクロスする箇所はロープで固定する。リオンが父親から教えてもらったという、『結び目がほどけない』ロープの結び方が使われた。
土台の三角形の上に切り揃えた木材を並べて、ウッドデッキを作る。ここでも使うのは手作りのロープ。並べた木材がバラけたりしないように、しっかりと結んで土台の三角形に固定する。
この『三角形』がいいのかもしれない。完成したウッドデッキの上に乗ってみると、思っていたよりずっと安定感があった。
「よし! まずは1つ目のデッキ完成!」
「やるなリオン! ……1つ目って?」
「ツリーハウスをたくさん作って、吊り橋をかけたらいいんじゃないかって女神が言ってて」
「なにそれ、すげぇ楽しそう」
頭の中にたくさんのツリーハウスと、それらを繋ぐ吊り橋を思い浮かべる。ロープで作るはしごや、ブランコなんかもあると、もっと面白いかもしれない。
作り方を覚えて、自分の開拓地にも作ってみようか。
ナナミとリオンはデッキの上のハウス部分も手作りするようだけど、町で売っているミニチュアの組み立てキットを利用するのもいいんじゃないかと、ラルドは思った。