鉱山の再会
『アルのバカーーーーッ!!』
と、叫びながら、エカルラート山の怪鳥……ガルーダへ剣を振るう姿をよく覚えている。
優しく下がった眉と目尻。おとなしそうな見た目に反して、実は武闘派。バトルアリーナでは、あの傍若無人なヴィルヘルムに対して一歩も引かなかった。
「君は……ミーナ?」
「わあ! やっぱり見覚えがあると思っていました! いつぞやは、ストレス発散に付き合っていただきありがとうございます」
ストレス発散。そうそう、彼女がノゾムたちと一緒にガルーダと戦ったのは、そういう理由だった。
リオンのナンパに乗って、一緒に出かけたのに、モンスターを前にしたリオンは彼女を置いて一目散に逃げてしまったらしく……。
『そりゃあ、言ってましたよ? 「モンスターに遭ったらそっこーで逃げる」って。でも、だからって、置いて逃げることないじゃないですか』
悔しそうに眉を寄せ、それでも堪えきれずにポロポロと涙をこぼすミーナの様子を思い出し、ノゾムは思わず遠い目をしてしまった。
リオンのしたことは確かに酷いが、リオンからしたらきっと「前もって言っておいたのに、なんで?」という感じなのだろう。
あの人、悪い人ではないのだけれど、モンスターから逃げるときには本当に一切の躊躇がない。
『オスカーのアホー! アルのバカー!』と叫びながら、ミーナはガルーダに攻撃していた。……この時はまだ、リオンは自分のアバター名『オスカー』を名乗っていたのである。
「いや、俺たちもおかげで羽根が手に入ったから、こちらこそありがとう。ミーナはあの後、バトルアリーナに出てたよね?」
「見ていたんですか!?」
「うん。すごかった」
本当にすごかった。あんなに強いヴィルヘルムに、正面から果敢に挑んでいくんだもの。他の人たちは様子見をしたり、隙を突いて攻撃しようとしていたのに、ミーナはまっすぐに向かっていった。
ああいう戦い方は、ノゾムには絶対にできない。
ミーナは照れたように頬を掻く。それからふと思い出したように、きょとんとした目をノゾムに向けた。
「そういえばさっき、アルの……アルベルトの名前を出していましたよね? それって、バトルアリーナに出ていたアイツですか? 知り合いです?」
「あー……知り合いっていうか……」
アルベルトは、ノゾムの中の『二度と関わりたくない人』リストに名を連ねる人物である。
何しろノゾムとロウは奴に一度殺されている……ノゾム自身のことはともかくとして、ロウを殺したことは今でも許せない。
だがそれをミーナに告げていいのかどうか……。
バトルアリーナでの様子を見るに、彼女はアルベルトと仲がいい――言い争いをしていた場面もあったけど、最終的には協力していたし――面と向かってアルベルトのことを悪く言うのは、さすがに憚られた。
「そのアルベルトってやつ、鉱山でPKをしていたのよ」
ノゾムが言い淀んでいる間にナナミが言った。ノゾムはギョッとする。ミーナは「あー……」と言って、困ったように眉を下げた。
「すみません……」
「あなたが謝ることじゃないわよ」
「それは、そうかもしれませんけど……」
ちなみにアルベルトは、いまだにバトルアリーナに留まっているらしい。ヴィルヘルムが不在とはいえ、バトルアリーナ5連勝というのは相当難しいようだ。
そのまま出てこなければいいのにと、ノゾムは思った。
「ミーナもこの国で開拓をしているの?」
「いえ、私は武器を作りに来たんです」
「武器」
「ヴィルヘルムさんに、今度こそ勝てる武器、です!」
ミーナは拳を握りしめて言い放つ。
ヴィルヘルムに――あの鋼鉄の体に打ち勝つ武器なんて、果たして存在するんだろうか。
「とはいえ、作るのは私ではないんですけどね。バトルアリーナで知り合った方のフレンドさんが、いい武器を作られるそうです。その方にお願いをしに、この国に来たんです。交渉は済んだので、あとは武器の素材を集めて渡すだけで……」
「ああ、それでこの坑道に来たのね」
「はい! オリハルコンが見つかると嬉しいのですが!」
「そんなレア鉱石がこんな場所で見つかるわけないでしょうが」
キラキラした目で願望を口にするミーナに、ナナミは冷静にツッコミを入れた。ノゾムは小首をかしげる。
オリハルコンというのは、ゲームでお馴染みの『この世でもっとも硬い鉱石』なのらしい。それってダイアモンドより硬いんだろうか。というかそんな硬い鉱石、どうやったら武器に加工できるんだろう。
「いいじゃないですか。夢はでっかく! ですよ!」
ミーナはそう言って、坑道内を駆けていった。迷子にならなきゃいいけど。
「ナナミさんはどうする?」
「せっかくだから採掘していきましょ。鉄も銅も汎用性が高いし、開拓に使えるわ」
ナナミがそう言うなら、ノゾムに反対する理由はない。ツルハシは坑道の中にあるものを勝手に使っていいそうだ。
採掘をしている他のプレイヤーたちの邪魔にならないよう気をつけながら、2人で壁を掘っていく。そんなに簡単に出てくるものなのかなと疑問に思ったが、思いのほか、鉱石はゴロゴロ出てきた。
銅、銅、銅、石炭、銅、石炭。ゴロゴロ出てくるけど、鉄も銀も出てこない。鉄はもっと奥にのほうにあるのかもしれない。
場所をときどき変えながら採掘を続ける。途中、うっかりナナミが土に埋まったりもしたけど、なんとか鉄も手に入った。
「ミーナはどこまで行っちゃったのかな」
「知らないわよ」
土まみれになったナナミは顔を歪めて吐き捨てた。