表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
181/291

鉱山の再会

『アルのバカーーーーッ!!』


 と、叫びながら、エカルラート山の怪鳥……ガルーダへ剣を振るう姿をよく覚えている。


 優しく下がった眉と目尻。おとなしそうな見た目に反して、実は武闘派。バトルアリーナでは、あの傍若無人なヴィルヘルムに対して一歩も引かなかった。


「君は……ミーナ?」

「わあ! やっぱり見覚えがあると思っていました! いつぞやは、ストレス発散に付き合っていただきありがとうございます」


 ストレス発散。そうそう、彼女がノゾムたちと一緒にガルーダと戦ったのは、そういう理由だった。


 リオンのナンパに乗って、一緒に出かけたのに、モンスターを前にしたリオンは彼女を置いて一目散に逃げてしまったらしく……。


『そりゃあ、言ってましたよ? 「モンスターに遭ったらそっこーで逃げる」って。でも、だからって、置いて逃げることないじゃないですか』


 悔しそうに眉を寄せ、それでも堪えきれずにポロポロと涙をこぼすミーナの様子を思い出し、ノゾムは思わず遠い目をしてしまった。


 リオンのしたことは確かに酷いが、リオンからしたらきっと「前もって言っておいたのに、なんで?」という感じなのだろう。

 あの人、悪い人ではないのだけれど、モンスターから逃げるときには本当に一切の躊躇がない。


 『オスカーのアホー! アルのバカー!』と叫びながら、ミーナはガルーダに攻撃していた。……この時はまだ、リオンは自分のアバター名『オスカー』を名乗っていたのである。


「いや、俺たちもおかげで羽根が手に入ったから、こちらこそありがとう。ミーナはあの後、バトルアリーナに出てたよね?」

「見ていたんですか!?」

「うん。すごかった」


 本当にすごかった。あんなに強いヴィルヘルムに、正面から果敢に挑んでいくんだもの。他の人たちは様子見をしたり、隙を突いて攻撃しようとしていたのに、ミーナはまっすぐに向かっていった。

 ああいう戦い方は、ノゾムには絶対にできない。


 ミーナは照れたように頬を掻く。それからふと思い出したように、きょとんとした目をノゾムに向けた。


「そういえばさっき、アルの……アルベルトの名前を出していましたよね? それって、バトルアリーナに出ていたアイツですか? 知り合いです?」

「あー……知り合いっていうか……」


 アルベルトは、ノゾムの中の『二度と関わりたくない人』リストに名を連ねる人物である。

 何しろノゾムとロウは奴に一度殺されている……ノゾム自身のことはともかくとして、ロウを殺したことは今でも許せない。


 だがそれをミーナに告げていいのかどうか……。


 バトルアリーナでの様子を見るに、彼女はアルベルトと仲がいい――言い争いをしていた場面もあったけど、最終的には協力していたし――面と向かってアルベルトのことを悪く言うのは、さすがに憚られた。


「そのアルベルトってやつ、鉱山でPKをしていたのよ」


 ノゾムが言い淀んでいる間にナナミが言った。ノゾムはギョッとする。ミーナは「あー……」と言って、困ったように眉を下げた。


「すみません……」

「あなたが謝ることじゃないわよ」

「それは、そうかもしれませんけど……」


 ちなみにアルベルトは、いまだにバトルアリーナに留まっているらしい。ヴィルヘルムが不在とはいえ、バトルアリーナ5連勝というのは相当難しいようだ。

 そのまま出てこなければいいのにと、ノゾムは思った。


「ミーナもこの国で開拓をしているの?」

「いえ、私は武器を作りに来たんです」

「武器」

「ヴィルヘルムさんに、今度こそ勝てる武器、です!」


 ミーナは拳を握りしめて言い放つ。


 ヴィルヘルムに――あの鋼鉄の体に打ち勝つ武器なんて、果たして存在するんだろうか。


「とはいえ、作るのは私ではないんですけどね。バトルアリーナで知り合った方のフレンドさんが、いい武器を作られるそうです。その方にお願いをしに、この国に来たんです。交渉は済んだので、あとは武器の素材を集めて渡すだけで……」

「ああ、それでこの坑道に来たのね」

「はい! オリハルコンが見つかると嬉しいのですが!」

「そんなレア鉱石がこんな場所で見つかるわけないでしょうが」


 キラキラした目で願望を口にするミーナに、ナナミは冷静にツッコミを入れた。ノゾムは小首をかしげる。


 オリハルコンというのは、ゲームでお馴染みの『この世でもっとも硬い鉱石』なのらしい。それってダイアモンドより硬いんだろうか。というかそんな硬い鉱石、どうやったら武器に加工できるんだろう。


「いいじゃないですか。夢はでっかく! ですよ!」


 ミーナはそう言って、坑道内を駆けていった。迷子にならなきゃいいけど。


「ナナミさんはどうする?」

「せっかくだから採掘していきましょ。鉄も銅も汎用性が高いし、開拓に使えるわ」


 ナナミがそう言うなら、ノゾムに反対する理由はない。ツルハシは坑道の中にあるものを勝手に使っていいそうだ。


 採掘をしている他のプレイヤーたちの邪魔にならないよう気をつけながら、2人で壁を掘っていく。そんなに簡単に出てくるものなのかなと疑問に思ったが、思いのほか、鉱石はゴロゴロ出てきた。


 銅、銅、銅、石炭、銅、石炭。ゴロゴロ出てくるけど、鉄も銀も出てこない。鉄はもっと奥にのほうにあるのかもしれない。


 場所をときどき変えながら採掘を続ける。途中、うっかりナナミが土に埋まったりもしたけど、なんとか鉄も手に入った。


「ミーナはどこまで行っちゃったのかな」

「知らないわよ」


 土まみれになったナナミは顔を歪めて吐き捨てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ