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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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カルディナルの職人街

 カルディナルにいた『コーイチ』たちに確認を取り終えて、マークをつけた『コーイチ』は残り3人になった。


 エカルラート山に1人。

 アブリコの村に1人。

 ノワゼット近郊に1人。


 この3人のうち誰かがノゾムの父親かもしれないし、そうじゃないかもしれない。もしも違っていたら、それこそジャックが言っていたように、ノゾムが名を上げて父親に見つけてもらう以外に方法はないだろう。


 ノゾムは名を上げるなんて面倒なので、そうなった時は諦めようと思う。やるだけのことはやった。母さんだって許してくれるだろう。


「どうだノゾム! この素晴らしきデザイン!」


 隣で作業をしていたラルドが声を上げる。その手にあるのは、龍をモチーフにしたブローチだ。鱗にいくつもの精霊水晶が使われていて、細部まで丁寧に仕上げられている。


 波打つ2本のヒゲや、鱗のひとつひとつまで。まさに芸術品だ。


 ノゾムは呆然と呟いた。


「『器用さ』が高いの?」

「ノゾム、このゲームには『命中率』も『器用さ』もねぇぞ」

「そうだっけ?」

「どういうものが出来るのかは、プレイヤーのセンスによる」

「また出たよ、センス……」


 ノゾムは自分の手元に目を落とした。そこには緑色の精霊水晶が埋め込まれた、不格好なブローチらしきものがあった。


 緑色の精霊水晶は素早さを上昇させる効果があるらしい。ジャックが「弓を射った後はすぐにその場を離れろ」と言っていたので、これを選んだ。


 自分で作っておいて何だけど、めちゃくちゃダサい。


「【錬金術師】になると、色んな効果を付けられる『エンチャント』ってスキルを覚えるらしいぜ。目指してみようかなぁ、オレ」

「それよりラルド、精霊水晶ってそんなにたくさん付けていいの?」

「たくさん付けても、得られる加護は1つだけみたいだな。でもいっぱい付けたほうが、オシャレじゃね?」

「そっか」


 ラルドは機能性よりも見た目重視らしい。


 たしかに、ノゾムのよく分からないブローチに比べると雲泥の差だ。ノゾムはそっとブローチを懐に隠した。



 ここはルージュの首都カルディナルの中にある、職人街。冒険者たちに向けて、工房を開放しているエリアだ。


 木材を加工したり、金属を加工したり、服やアクセサリーを作ったり。たくさんのプレイヤーたちが、ここで物作りを楽しんでいる。


 ノゾムたちは立ち並ぶたくさんの工房のひとつにお邪魔していた。クリスタル・タランチュラからドロップした『精霊水晶』を使って、アクセサリーを作るためだ。


 工房を貸してくれたおじさんが、にこやかに言った。


「兄ちゃんたち、珍しいもん持ってるなぁ。良かったら売ってくれよ」


 『精霊水晶』は珍しいもんなのらしい。あんまり落とさないと言っていたので、当然かもしれない。


 クリスタル・タランチュラからはたくさんドロップしたので、売るのは問題ない。


 ラルドは流し目でおじさんを見た。


「フッ。苦労して手に入れたんだ、弾んでくれよ?」

「ほ、ほどほどで頼むよ」


 ノゾムは相場など知らないので、ラルドに任せようと思った。お金はたくさん持っていても困らない。モンスターからドロップする以外には、持ち物を売る以外にお金を稼ぐ手段はないので、ちょうどいいだろう。


 ノゾムはプレイヤー検索欄を開いて、残る3人の『コーイチ』の居場所を確認する。

 ずっとエカルラート山にいるコーイチは、おそらく最初に検索した時にも出てきた人だ。

 この人はいつもエカルラート山にいて、検索欄をいつ開いても、居場所が変わらない。


 残りの2人の居場所は『アブリコの村』と『ノワゼット近郊』……どちらも地図に載っていない場所だ。


 横から検索欄を覗き込んでいたラルドが「ふむ」と呟いた。


「その2つはたぶん、隣国だな。ノワゼットってのは『オランジュ』の首都の名前だった気がする」


 ノゾムが持っているのは、『はじまりの国ルージュ』の地図だ。


 雑貨屋には世界地図も売られていたけど、世界地図で分かるのはせいぜい大まかな地形と、主要都市の位置くらいなもの。


 他国の詳細な地図が欲しければ、その国で手に入れるほかないらしい。


「オランジュは山ばっかで、小さい村が多いんだって。地図に乗っていない村もあって、そういう村に珍しい職業があったりする……って、掲示板に書いてあった」

「【忍者】とか?」

「すげーな忍者。会いたいな!」


 一方でオランジュには、ダンジョンというものが存在しないらしい。

 というより、国土のほとんどを支配する山々がダンジョンみたいなものなのだという。

 首都に辿り着く前に迷子になってしまうプレイヤーも多いのだとか……なんて大変な国なんだ。ノゾムは出来ればルージュで父親を見つけたい。


「とりあえず、次に行くのはエカルラート山だな」

「ラルド、行ったことある?」

「ない。国境に面するエカルラート山は、モンスターのレベルが高いって聞いてたからな」


 それはノゾムもレイナたちから聞いていた。だからここは後回しにしていたのだ。


「モンスターには必ず、弱点と急所がある。やりようによってはレベルが低くても戦えなくはないだろうけど……せめてもう少し、スキルを増やしてから行きたいな」

「スキルか~」

「【狩人】のセカンドスキルは『罠作成』だ。好きな場所に罠を作れる。これがあれば戦闘がかなり楽になると思う」

「【狩人】って不遇なんじゃなかったっけ?」

「弓の扱いがめちゃくちゃ難しいから不遇なのであって、覚えるスキルは便利なものが多いんだよ。サードスキルの『解体』とかな」


 このゲームのアイテムドロップ率はかなり低い。その分、一度に得られる量はとても多いのだが、その『一度』がなかなか来ない。


 『解体』は、そのアイテムドロップが必ず起こるようになるスキルだ。スキルの持ち主がトドメを刺す必要があるけど、習得すればお金も素材も手に入れ放題になる。


 ファーストスキルの『視力補正』も、地味に便利なスキルだし。不遇というほどではない。


「それじゃあ、『罠作成』を覚えるまでレベルを上げる?」

「レベルじゃなくて、上げるのは『熟練度』のほうだ。【狩人】のスキル……『視力補正』は常時発動だけど、あとは弓を使いまくっていれば『熟練度』は自然と上がると思う。訓練所で弓の練習をするだけでも上がってると思うぜ」

「そうなんだ?」


 職業の熟練度はメニューから確認できるらしい。ノゾムは言われるままにメニュー画面を出して、職業の一覧を表示する。


 その一覧には【狩人】しかないが、熟練度を示すゲージはたしかに伸びていた。このゲージが満タンになると、次のスキルを覚えるらしい。


「じゃあ、普通に弓の練習をしてきたらいいんだね」

「そうだな。平原のモンスターは弱っちいし、練習にもってこいだと思う。ノゾムが練習している間に、オレは教会で説法を受けてくるわ」

「説法?」

「【僧侶】の回復スキルが欲しいんだよ。たしか【騎士】の転職条件にも、説法があった気がする」


 ラルドに説法は似合わない。ラルド自身も、今まで必要とは思わなかったらしい。


 しかしクリスタル・タランチュラとの戦いで、回復役や盾役はやはり必要だと感じたのだそうだ。


 【騎士】は、守備に特化した職業なのだという。


「ラルドの負担が大きいような……」


 前衛で戦いつつ魔法、回復、それに盾役って、1人でいくつの役割をこなすつもりだろう。


「普通はパーティーで分担するんだけどな。オレ、あんまり他人と組みたくないんだよ」

「孤高の戦士だから?」

「フッ、分かっているじゃないか」


 ラルドはいつものように片手で目を覆いながら、クールに笑う。


 どうして孤高の戦士にこだわるのかは、やっぱり分からない。


 それじゃあな、と言って教会へと走っていくラルドを、ノゾムは手を振って見送った。


(平原かぁ。初日に戦闘を避けまくったところだな。……回復アイテムを準備してから行ったほうがいいかな)


 ポーションは激マズなので、食べ物を買おう。そうしよう。


 そんなことを思って踵を返すと、目の前に突然大きな人影が現れた。たわわな胸に飛び込んで行きそうになって、慌てて止まる。


 褐色の肌に、編み込んだ黒髪。垂れ目がちな緑の目に、ぽってりと膨らんだ唇。眠たげな顔でノゾムを見下ろしているのは、ノゾムより遥かに背が高い、大柄な女性だった。


「す、すみません!!」


 ノゾムは即座に謝って距離を取る。女性はラルドよりも大きかった。180センチあるノゾムが、胸にぶつかりそうになるなんて……ってか、おっぱい、でか……。


 ノゾムは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。女性はそんなノゾムをしげしげと見た。


 ぽってりとした唇が、おもむろに開く。


「ノゾム?」

「えっ? はい、そうですけど」


 いきなり名前を呼ばれてビックリする。


「見習い狩人?」

「……まあ、はい。そうですね」


 【見習い狩人】などという職業はないが、まだまだ初心者の域を出ないノゾムなんて見習いで十分だろう。


 女性は緑の目を細めた。


「これ、やる」


 差し出されたのは一本の弓。


「え? あの?」

「がんばれ」


 女性はそう言い残して、去っていった。




 ***




 [120]K.K./大工/Lv.38

 カルディナルの職人街で見習い狩人に会った。小さくてかわいかった


 [121]ジェイド/拳法家/Lv.52

 そりゃあ、お前から見りゃ誰だって小さいだろうよ


 [122]K.K./大工/Lv.38

 試作のコンポジットボウを渡した


 [123]ハンス/魔道士/Lv.30

 コンポジットボウって?


 [124]ユズル/狩人/Lv.43

 2種類以上の素材を掛け合わせて強度を高めた弓のことだ。遊牧騎馬民族が、馬に乗ったままでも使えるようにと作ったものらしい。

 弓は大きなものほど威力や射程が伸びるが、大きな弓だと騎乗の邪魔になるからな。ショートボウサイズのままロングボウ並みに威力を高めた弓が、コンポジットボウだ。


 [125]ハンス/魔道士/Lv.30

 へぇ〜


 [126]ジェイド/拳法家/Lv.52

 詳しいな。さすが弓バカ


 [127]ユズル/狩人/Lv.43

 褒め言葉として受け取っておこう。

 ちなみにコンポジットボウを手に襲ってくる騎馬民族の恐ろしさから生まれたのが、ケンタウロスだと言われている。


 [128]ジェイド/拳法家/Lv.52

 人馬一体の怪物だな。そういやケンタウロスの武器って、弓であることが多いな


 [129]ハンス/魔道士/Lv.30

 またひとつためになった


 [130]ユズル/狩人/Lv.43

 弓こそ最強の武器!


 [131]ユズル/狩人/Lv.43

 まあ、このゲームじゃコンポジットボウは強度が高い分、物理攻撃力が一定以上じゃないと使えないんだけどな


 [132]K.K./大工/Lv.38

 えっ


 [133]ユズル/狩人/Lv.43

 ノゾムとやらのレベルが今いくつなのかは知らないが、最低でも20以上いってないと使えないだろう


 [134]ジェイド/拳法家/Lv.52

 相変わらず妙なところがリアルだ


 [135]K.K./大工/Lv.38

 ……俺、役に立ってない?

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