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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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発見と、その次

 はじまりの国ルージュの中央平原にもキノコのモンスターは出現する。脚を生やしたエリンギのような姿で、警戒心がとても低く、初心者でも簡単に倒すことができるモンスターだ。初めてバトルするにはピッタリの相手である。


 しかし今、ノゾムたちの目の前に現れたキノコは、その初心者用のエリンギとまったく違う。全体的に毒々しい紫色で、でっぷりとした身体。大きな鷲鼻に、なぜか頭にベニテングタケを生やしている。


 纏う雰囲気もおどろおどろしく、ルージュのエリンギとは大違いだ。動くたびに巻き散らされる胞子には絶対に触れないほうがいいと、ノゾムの第六感は告げていた。


「…………ッ!」


 ラルドがオバケキノコに手を向けて何かを叫ぶ。が、やっぱり声が出ていない。

 たぶん魔法を使おうとしたのだろうけど、声を封じられている今のラルドは、魔法はおろか『聖盾』や『ブースト』といったスキルも使えないだろう。


 残る攻撃手段は大剣でぶった斬るくらいだが、そうなるとオバケキノコの胞子をもろに食らってしまう。


 つまり、今のラルドにできることはない。


「…………」

「しょんぼりしないでよ。どうする? 逃げる?」


 ノゾムの問いかけにラルドはぶんぶんと首を横に振った。戦う手段を封じられてなお戦いたがるなんて、ラルドの思考回路はやっぱりノゾムには理解しがたい。


「仕方ないなぁ」


 はぁ、とため息をついて、ノゾムは『隠密』を使った。姿と気配を消す、【忍者】のファーストスキルだ。オバケキノコは獲物が1匹消えたことに驚いて、周囲をキョロキョロ見回した。


 ノゾムは姿を消したまま、オバケキノコの死角へ移動する。近付きすぎては胞子を食らってしまうので、できるだけ距離を取って。

 本当はワイヤーでぐるぐる巻きにして動きを止めたいところだけど、それは無理っぽいので諦めた。


 オバケキノコの背後を取り、矢を構える。戦闘態勢を取ったことで『隠密』の効果が消えた。

 距離はざっと10メートル。


(頼むから、動かないでくれよ……)


 戦う手段を奪われたラルドは、それでも何かしたいと思ったのか、オバケキノコの注意を引くように無駄に大剣を振り回したり、カッコつけたりしている。


 ノゾムは矢を放った。と、ほぼ同時に、オバケキノコは口から緑色の煙を吐いた。


「…………ッ!!」


 ラルドが煙に呑まれる。ノゾムの放った矢は、オバケキノコの後頭部に刺さった。

 オバケキノコはよろめくが、消えるまでには至らない。コイツの急所は頭じゃないのかもしれない。


 煙に呑まれたラルドのことは気になるけど、先にコイツを倒したほうがいいとノゾムは判断した。よろめいたオバケキノコに向かって、さらに2本目、3本目の矢を射る。


 オバケキノコは青白い光となって消えた。落ちた宝箱は放置して、ノゾムはラルドに駆け寄った。


「大丈夫!?」


 ぶんぶん。ラルドは大きく首を横に振った。顔色がすこぶる悪い。HPがどんどん減っている。毒を受けてしまったらしい。


「どうしよう、毒消しも持ってないよ!?」


 もしかしたらこの森のどこかに毒消し草が生えているかもしれないけど、どれがそうなのかはノゾムには分からない。


「……あ、あの宝箱の中に入ってたりしないかな!?」


 ノゾムは慌てて宝箱に駆け寄る。毒を持ったモンスターが毒消しアイテムを落とすことは、ゲームじゃよくあることだ。


 宝箱にはキノコがびっしりと詰まっていた。

 ノゾムは思わずそれをひっくり返した。


「ラルドぉぉぉぉぉぉッ!!!」

「…………」


 一方のラルドは、毒に苦しみながらも、実はそんなに焦っちゃいなかった。

 確かにこのままでは戦闘不能になるだろう。しかしラルドは『身代わり人形』を持っているので、死んだらその場ですぐに復活する。


 そして状態異常というやつは、たいていの場合、一度戦闘不能になればその効果が消えるのである。


(ノゾムのやつ、めっちゃ焦ってんなぁ。オレがこのまま死に戻りしちゃうって思ってんだろうなぁ……あー、声が出たらなぁ)


 声が出たなら、死ぬ前に何かカッコいい言葉を遺すのに。そんなどうでもいいことを考えられるくらいには、ラルドは余裕だった。


「ラルドーーーーッ!!」

「どうしたんスか!?」


 そこへ草むらを掻き分けて1人の少女が飛び込んできた。サイドに結んだピスタチオグリーンの髪に、汚れたつなぎ姿。

 ヴェールの王、シプレである。


 ノゾムは涙目で彼女を見た。


「じょ、女王さま……!」

「シプレでいいッスよ。何かあったッスか?」


 言いながら、シプレはノゾムたちのもとへ駆けてくる。ラルドの青い顔、ぱくぱくと動く口。シプレは幼い顔を歪めて「あちゃー」とつぶやく。


「沈黙と毒ッスか。こりゃまた嫌なコンボを食らったッスね。しかもその様子だと……治療する手段がないってとこッスか」

「り、リフレッシュを使えるのが、こいつだけで……」

「なるほど」


 シプレは頷いて、ラルドに手を触れた。


「『リフレッシュ』!」


 淡い光がラルドの体を包み込む。真っ青だった顔に血の気が戻ってきた。光が消えた頃には、ラルドはすっかり復活していた。


「うはー! 治った! ありがと王様!」

「シプレでいいッスよ」


 お安い御用ッス、とシプレは笑う。


 やっぱりこの人はまともな王様だ……ゲームの中にも、まともな王様はいたのかと、ノゾムは感動に打ち震えた。


「それにしても、なんであんなことに? この森に沈黙させるモンスターなんか、いたッスかね?」

「実は……」


 ノゾムは事情を説明した。この森に採集に来たこと、その途中でラルドが沈黙効果のある草を採り、沈黙状態になったこと。まあそのうち治るだろうと思って、採集を続行したこと。


 そしてキノコのモンスターが現れ、毒を受けてしまったこと。


「なるほど。シズカソウは茎を千切ったときに出る汁に毒があるッス。だから採集するときは千切らずに根っこごと引っこ抜くといいッス。他にも触れただけで効果が出るものもあるッスから、採集のときには手袋をしておくといいッスよ」

「最初っから教えておいてほしかったぜ……」

「ふふ。いい勉強になったッスね」


 恨みがましく言うラルドにシプレはくすくす笑う。


「君たちは今、新たな発見をしたんスよ。採集は素手でしないほうがいい。毒と沈黙は同時に受けるとヤバイ。ってね。そしてこの『発見』は、次へ活かすことができるッス」


 シプレはノゾムとラルドを、交互に見た。


「次に同じことが起きたら、どうするッスか?」


 穏やかに笑みを浮かべて問いかけるシプレは、まるで先生のようだ。ノゾムとラルドは互いの顔を見合わせた。


 また同じことが起きたら――また毒と沈黙を、同時に受けてしまったら。


 ラルドがおずおずと口を開く。


「そうなった時のために……治療薬を常備しておく?」

「いいッスねぇ。最低でも、沈黙の治療薬だけでも持っておきたいとこッスね」


 沈黙さえ回避できれば、ラルドは自分のリフレッシュで他の状態異常を消すことができる。


 にっこり笑顔のシプレは、続いてノゾムを見た。

 ノゾムは顎に手を当てて考えた。


「……俺も、リフレッシュを使えるようになっておく?」


 いざという時のためにアイテムを準備しておくというのも大事だと思う。けれどそれ以前に、そもそもノゾムもリフレッシュが使えていれば、ラルドの沈黙はすぐに治せたのだ。


 シプレは笑顔で頷く。


「いいッスねぇ」


 どうやら花丸を貰えたみたいだ。

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