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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第4章 モノづくりの国ヴェール
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緑の国の遊び方Ⅱ

「それぞれの『開拓地』にもともと生えている木や草を材料にするのも有りッスけど、それだけじゃあ作れるものに限りがあるッス。……そこで!」


 シプレは腰につけたバッグの中から紙の束を取り出す。それをノゾムたちに1枚ずつ配った。


「これはこの国の地図ッス。地図の中に、赤い枠で囲まれた箇所がいくつかあるッスよね? この場所が素材の採集地ッス。山や川、森や洞窟があって、いろんな種類の素材が採れるようになってるッス。採り尽くしても自動的に復活するようになっているので、いくらでも採集してオッケー!

 ただし! 採集地にはモンスターが出るッス! 足を踏み入れるときには注意するッスよ!」


 モンスターと聞いてリオンが震え上がるが、この国では採集地以外の場所にモンスターが出ることはないらしい。

 モノづくりに夢中になっているところへ襲われることはないそうなので、そこは安心だ。


 この地図はくれるという。無料(ただ)で。地図が存在しない上に何かと謎解きやお金が必要だったジョーヌとは、大違いだ。


「モンスターと戦うのが嫌な人は、素材は町で買うのがいいかもしれないッス。組み立てるだけで簡単に作れるキットなんかも売ってるッスよ。

 ざっくりとした説明になってしまったッスけど、これで案内は終わりッス。他に何か、質問がある人はいるッスか?」


 シプレの問いかけに何人かが手を上げる。ナナミとラルドも手を上げていた。


「作ったものを誰かに勝手に弄られないかしら?」

「あ〜、それ、いやッスよね〜。大丈夫ッスよ、『開拓地』の中のものに手を加えられるのは土地の持ち主と、持ち主に認められた者だけッス」


「その『箱庭』ってやつに水を入れたらどうなるんだ?」

「おお〜! いいところに着目したッスね。それは……ぜひとも自分で確かめてみて欲しいッス!」


 シプレはひとつひとつの質問に笑顔で答えていく。やはり今までの王様に比べてまともな人なのか――いやいやいや、まだ分からない。

 ノゾムの不信感はそう簡単に拭われるものではなかった。


 すべての質問に答え終えて、手を上げる者がいなくなったのを確認し、シプレは「じゃあこれで終了ッス」と言った。


「開拓地やお店の申請がしたい人は、このまま受付へ向かってくださいッス。ここでは転職もできるッスよ」


 この王宮は本当に役所を兼ねているらしい。他の国では王様のいる場所と役所は切り離されていたのに。


 転職なら、ここへ来る前にイヴォワールの役所で済ませている。

 ノゾムの現在の職業は【忍者】だ。狩人で覚えられるスキルは全部覚えてしまったし、【忍者】でレベルを上げると素早さが上がるとのことなので、罠を仕掛けたあとや弓を射ったあとにすぐ逃げたいノゾムは【忍者】でレベル上げをすることにした。


 ちなみにラルドは【魔道士】、ナナミは【錬金術師】、リオンは【学者】だ。

 それぞれ魔法攻撃力を上げたいだとか、欲しいスキルがあるだとかで、自分の職業を選んでいる。リオンの【学者】は彼の弟が選んだものだけど。


「うはー! なんか面白そうだな、開拓! さっそく申請しに行こうぜ!」


 ラルドはノリノリである。ノゾムは困ったように眉を下げた。


 確かに面白そうだけど、ノゾムは本当にどうしようもなく不器用なのだ。先ほどのシプレのように、魔法のようにどんどんモノを作っていくなんて、ノゾムに出来るはずがない。


 組み立てるだけのキットもあるという話だったが……。


「……俺はラルドたちの手伝いをするよ」


 作るのは無理だろうが、狩人の『解体』のスキルがあるので素材集めの役には立つだろう。

 そう思いつつ言うと、ラルドはぱちくりと目をしばたかせて首をかしげた。


「そうか? まあ、助かるけどよ」

「あれ? ナナミさんは?」

「受付にすっ飛んで行ったぞ」

「速ッ!」


 ナナミは自分の興味のあることに対しては行動が速い。興味のないことには、まったく目を向けないのに。


 受付にはすでにナナミの姿はなかった。さっそく開拓地に向かったものと思われる。どのプレイヤーがどこの土地を保有しているのかは受付で問い合わせれば分かるようなので、あとで訪ねてみよう。


 ナナミはひとつのことに夢中になっていると本当に周りが見えないので、訪ねたところで相手をしてくれるかも分からないけれど。


「女神の様子はオレが見ておくよ。……あ、でもこれ、ストーカーかな!?」


 リオンは自分がかつて『陰から見守っていたつもり』でストーカー呼ばわりされていたことを思い出したらしい。


 青い顔をして問いかけてくるリオンに、ノゾムは困ったように眉を下げた。


「陰からじゃなく、堂々と見ていればいいんじゃないですか?」


 以前は蛇蝎のごとくリオンを嫌っていたナナミだけど、飛行船の上ではちょっぴり気を許しているように見えた。


 リオンはときどき変なことを言うけど、悪い人間ではないと判断されたのか。それとも単純に慣れたのか。もしくはノゾムが迷路に閉じ込められている間に、認識を変えるような何かがあったのか。


 そういえばラルドのリオンを見る眼差しも何だか変わった気がするけど(なぜか尊敬に満ちた目で彼を見ていることがある)、それも何か関係があるのか……。


 とにかく、以前ほどは嫌ってなさそうなので、大丈夫なんじゃないかなとノゾムは思う。


「本人が嫌がらなければいいのでは? 素材の採集に行きたい時には声をかけてくださいね。俺、手伝うんで」

「うん」


 モンスターが出る採集地に近寄りたくないリオンは素直に頷いた。


 リオンとはそこで別れ、ノゾムとラルドは、ラルドが与えられた『開拓地』へとさっそく向かってみた。





「えーと、Dの154番地……」


 受付で貰った書類と、シプレに貰った地図を照らし合わせながら、森の中の道を進んでいく。道を挟んで左右にも開拓地はあって、いろんな人のいろんな作品を見るのはなかなか楽しい。


 建物ではなくテントを張って、キャンプ気分を味わっている人もいた。焚き火に金網を置いてバーベキューをしている。あの肉が何の肉かは、考えないようにしておこう。


「Dの154……ここだ!」


 やがて到着した『ラルドの土地』は、木や草がたくさん生えているだけの、なんにもないところだった。


 木と木の間を通り抜けて中へ入っていくと、ちょうど土地の真ん中あたりに透明な箱がある。箱の中には木の模型がぎっしり。先ほどシプレが弄っていた、『箱庭』だ。


 ラルドはわくわくした顔で、まずは箱の中の木々をいったん全部抜いた。ノゾムたちの周りの木々がなくなり、『ラルドの土地』の全貌が見えるようになる。


 1ヘクタールと聞いても正直どのくらい広いのかいまいちイメージが湧かなかったが、こうして見てみると、サッカーのコートよりも大きいくらい……だろうか。


 土地いっぱいに建物を作っても、『町』とは到底呼べないだろう。しかしここに大きな屋敷を建てるなら、相当な広さのものになる。


 お金さえ払えば土地を広げることも可能なのだ。

 これはいろんなものが作れそうだ。


「うおおおおおお!! オレはここに、ラルド帝国を作るぜ!!」


 ラルドは意気揚々と拳を突き上げ、さっそく開拓に着手した。まずは木材が必要だろうと、『箱庭』から抜いた木々を何本か箱の中へ戻す。現れた木に向かって振り下ろすのは、王宮で申請したときに貰ったボロの手斧だ。


 1本、2本と木を切り倒す。3本目の木を切り倒したあと、ラルドは切り株の上に「よっこらせ」と腰を下ろした。


 町を作るには狭く、屋敷を作るには広すぎる土地をぐるりと見渡して、ラルドはしばらく思案した。


「どこから手をつけていいか分かんねぇな。ノゾム、採集に行こうぜ」


 あっけなく開拓を中断するラルドにノゾムは目を丸めた。


 素材集めはモノづくりの基本だ! とラルドは言うけれど、木を切るのが飽きた……というわけではないよね?

 1ヘクタールはサッカーコート(ラインの内側)の1.4倍くらいだそうです。狭くはない……が、町にするには狭すぎる。どんどん拡げたいところです。

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