仲間がいると心強い
せっかくここまで来たのに、またもや父親とは関係がなかった。
自分から誘ってきたくせに、あの親父はどこで何をしているんだ。
このまま会えないなら、やっぱりこのゲームやめようかな……。ノゾムは遠い目をして、蒼く輝く地底湖を見つめた。
「ふーん。生き別れの父さんを捜して、ゲームをねぇ。なんかラノベでそういうのありそうだな」
ラルドから説明を受けたジャックは面白そうに笑う。
生き別れとか、そんな大層なものじゃないけどね?
「となると、さしずめ俺は頼れる先輩ポジションか」
「意味が分からないわ」
「ナナミはヒロイン? それにしちゃ色気がないか? 可愛げもねぇしな」
「…………」
ナナミの拳がジャックの脇腹にめり込んだ。ずいぶんと鈍い音が聞こえたけど、痛みはないだろう。だってゲームだもん。
ジャックは脇腹を押さえて悶えている。……あれ、もしかして痛覚をオンにしているのかな?
ラルドはラルドで、「相棒ポジは譲らねぇぞ!」と言っている。こっちも意味が分からない。
「でも難しいわね。お父さんのアバターの名前も姿も分からないなんて。このゲームのプレイ人口は、どんどん増えていってるのに」
「リリースしてまだ1ヶ月も経ってないもんな。もう少ししたら、飽きたり新しいゲームに夢中になったりして、離れる奴も出てくるだろうけど」
ノゾムは倍以上に増えた『コーイチ』を思い出して、げんなりした。
一応、今いる『コーイチ』にはマークを付けているから、新規の人に紛れることはないけれど、これ以上増えられると面倒だ。
ジャックはちょっぴり考える仕草をして、やがて名案を思いついたとばかりにノゾムを見た。
「名を上げるってのは、どうだ?」
「へ?」
「ノゾムくんが父さんを捜すんじゃなくて、父さんにノゾムくんを見つけてもらうんだよ。ノゾムってのは、本名なんだろう?」
自分の息子と同じ名前のプレイヤーが活躍すれば、『もしかして』と考えて接触してくるかもしれない。ジャックはそう言った。
ノゾムは眉を下げる。
「それはそうかもしれないですけど、名を上げるって、具体的にどうすればいいんですか?」
「このゲームで有名になればいいんだよ。誰よりも早く未踏の地を踏むとか、誰も倒したことのないモンスターを倒すとか」
「いやいやいや」
そんなこと、出来るわけがない。
ノゾムは幼稚園に通っていた頃から父親にありとあらゆるゲームを勧められたが、どれもまともにクリアしたことのない、筋金入りのゲームおんちだ。
ぶんぶんと首を横に振るノゾムに、ラルドは笑顔を向けた。
「それ面白そう! オレも手伝うぜ、ノゾム!」
「いや、だから……」
そもそも、なんで好きでもないゲームで名を上げなきゃいけないんだ。
それこそあの親父の思惑に嵌まっているようで、腹が立ってくる。
「なんなら、俺たちのギルドに入るかい?」
ジャックが言った。ノゾムは「ギルド?」と首をかしげてジャックを見る。
「レッドリンクスってところなんだけど」
「レッド……どこかで聞いたような」
「俺たちはこのゲームで色々なことに挑戦するつもりなんだ。ギルドが有名になれば、ギルドメンバーも有名になるだろ?」
「そういうものですかね?」
「ギルドのランク戦もそのうちあるんじゃないかって噂もあるし、俺たちも色々な職業の奴を集めたいんだよね。【狩人】は数も少ないしちょうどいい。うちの弓バカも喜ぶだろうし、どうかな?」
「そうですね……」
ノゾムが1人で名を上げるのは、100パーセント無理だ。ラルドは手伝ってくれると言うけど、それだけじゃ心もとない。
ジャックの提案は、悪いものではない気がした。
「オレは嫌だ」
それなのに、なぜかラルドはきっぱりとそう告げる。ノゾムは目を丸くしてラルドを見た。
ラルドはどこか、表情が硬い。
「ノゾムがギルドに入るってなら、オレは手伝わない」
「え、なんで……?」
なんで急に、そんなことを言い出すんだろう。
ノゾムの頭上を疑問符が舞う。ラルドはそんなノゾムを横目に見ながら、いつものように片手で目元を覆って、フッと笑った。
「オレは孤高の戦士……。組織の狗にはならない」
「組織のイヌて」
「あっはっはっは! なんだコイツ、面白いな!」
ジャックは腹を抱えてゲラゲラ笑う。ノゾムは困惑してラルドを見た。
いつものように無駄にカッコつけている……ように見えるけど、やっぱりどこか、いつもとは違うような気がした。
***
作り物であると分かっても、遠く広がる空を見ると安心する。しかし下を見れば断崖絶壁なので、出来るだけ見ないように気を付けた。
ノゾムの後ろにはラルドがいる。ナナミとジャックは、何かのアイテムを使って、どこかへ消えてしまった。
ラルドは何故か、仏頂面だ。
「良かったのかよ?」
「何が?」
「……ギルドのこと」
ジャックから誘われたギルドの加入は、断った。
ジャックはちょっと残念そうだったけど、「気が向いたらいつでも来てくれよ」と言ってくれた。
「あのイケメンの言うとおり、名を上げて父ちゃんに見つけてもらうってのも、有りだと思う。そのために、ギルドに入るっていうのも……」
「でも、ラルドは嫌なんだろ?」
ノゾムが問うと、ラルドは「孤高の戦士だからな!」と即答した。
孤高の戦士とやらが何なのかはいまだによく分からないが、ノゾムは苦笑を浮かべる。
「俺、ラルドが一緒だと心強いからさ」
ラルドが嫌だと言うのに、ギルドに入る気にはなれない。
そう言うと、ラルドは目を大きくさせて、それからくしゃりと顔を歪めた。
「お、おお。そうか! まあ、オレは孤高の戦士だが、面倒見は悪くない。ノゾムの父ちゃん捜しに、トコトン付き合ってやるぞ! となれば、さっそく街で情報収集だ!」
「その前に、そろそろプレイ時間が終わりそうだけど」
「あああああ、そうだった! やっぱり3時間って短すぎるぜ!」
そうこう言っている間に、プレイ時間終了のアラームが聞こえてくる。
自動的にセーブされて、現実世界に戻されて。再びプレイ出来るのは1時間後だ。
***
【不遇な狩人で頑張ってみるスレ#2】
[059]K.K./大工/Lv.37
木こりの知り合いが今度は鉱夫になっていた
[060]ジェイド/拳法家/Lv.49
まあ、木こりがあるんだから鉱夫もあるよな
[061]ハンス/魔道士/Lv.30
転職条件お願い!
[062]K.K./大工/Lv.37
おっけー。『悪魔の口』地下2階に、壁をひたすら掘っているドワーフみたいなオッサンがいる。そいつにツルハシの使い方を教えてもらい、自力で鉱石を20個採る。
ツルハシは普通に街で売られているから、オッサンに教えてもらわなくてもいいかも。
鉱石は何でもいいっぽい。
[063]ハンス/魔道士/Lv.30
ありがとうケイ姐さん!
[064]ユズル/狩人/Lv.43
そういう情報交換は他所でやってくれって何回言わせるんだ
[065]ジェイド/拳法家/Lv.49
俺たちがいなかったらここ誰も書き込まないぞって、これも何回言ったら
[066]ユズル/狩人/Lv.43
お前らきらい
[067]ジャック/侍/Lv.75
おひさ〜!
[068]ジャック/侍/Lv.75
朗報を持ってきたぞユズル!
[069]ユズル/狩人/Lv.43
帰れ裏切り者!!!
[070]ハンス/魔道士/Lv.30
>67
おひさ〜
[071]K.K./大工/Lv.37
>69
裏切り者とは?
[072]ジェイド/拳法家/Lv.49
>71
ジャックに弓を教えたのがユズルなんだよ。すぐ転職しちまったけど
[073]ジャック/侍/Lv.75
>72
俺は全ての武器を極めるつもりだから
それと全てのスキルも習得するつもりだ
[074]ユズル/狩人/Lv.43
あの程度で極めたとは片腹痛い!
[075]ジェイド/拳法家/Lv.49
ていうかジャックお前、レベルがカンストしてんじゃねぇか
[076]ハンス/魔道士/Lv.30
レベルの上限って75なの?
[077]ジャック/侍/Lv.75
上限解放待ちなう
[078]ジェイド/拳法家/Lv.49
すぐに追いついてやる
[079]ユズル/狩人/Lv.43
弓こそ最強の武器!
[080]ハンス/魔道士/Lv.30
俺的には【侍】ってのも気になるんだけど、どこで手に入れたの? 転職条件は?
[081]ジェイド/拳法家/Lv.49
オランジュだろ。あの国、バトル系の職業が多いし。
[082]ジャック/侍/Lv.75
>81
バトル大国だもんな
>80
オランジュにいる侍から居合斬りを教えてもらえば転職できるようになるぞ
[083]ハンス/魔道士/Lv.30
ついに国境を越える時が来たか……
[084]ユズル/狩人/Lv.43
お前らきらい
[085]K.K./大工/Lv.37
朗報って何だ?
[086]ジャック/侍/Lv.75
おっと、そうだった。ユズル喜べ。狩人仲間ができたぞ。
[087]ユズル/狩人/Lv.43
まじで!!?
[088]ジェイド/拳法家/Lv.49
マジか
[089]ハンス/魔道士/Lv.30
マジかー!
[090]ジャック/侍/Lv.75
見習い狩人の弓を使ってたから、まだ始めたばかりみたいだけど。なんと、クリスタル・タランチュラを倒したんだぜ!
[091]ジェイド/拳法家/Lv.49
嘘こけ。あの蜘蛛を見習いが倒せるわけねぇだろ
[092]ユズル/狩人/Lv.43
いいや。遠距離から的確に、弱点の目や関節を射抜けば、見習いの弓でも倒せる。だがそれは言うほど容易じゃない……。そいつはリアルでの経験者なのか?
[093]ジャック/侍/Lv.75
違うんじゃないか? 超至近距離から、クリスタル・タランチュラの口の中を射抜いたんだ。口の中も急所だったっぽいな。
[094]ハンス/魔道士/Lv.30
口の中って……超至近距離って……それもすげぇ……
[095]ジャック/侍/Lv.75
よく分からんが、父親を捜してるらしいんだ。コーイチってやつに心当たりはない?
[096]ハンス/魔道士/Lv.30
知らない
[097]ジェイド/拳法家/Lv.49
エカルラート山の洞窟にいるアイツか?
[098]ユズル/狩人/Lv.43
クルヴェットに同じ名前の奴がいたけど
[099]K.K./大工/Lv.37
そもそも、その見習い狩人の名前は?
[100]ジャック/侍/Lv.75
>99
ノゾムくん
リアルでも同じ名前だってさ。
ちなみに、コーイチってはリアルでの父親の名前で、アバターの名前は分からないらしい
[101]ジェイド/拳法家/Lv.49
捜すの難しそうだな
[102]ハンス/魔道士/Lv.30
フレンドたちにも聞いてみるよ
[103]ユズル/狩人/Lv.43
貴重な狩人仲間だ。協力は惜しまん
[104]K.K./大工/Lv.37
同じく
[105]ジャック/侍/Lv.75
ありがとう。
ノゾムくんにも伝えておくよ。
[106]ジャック/侍/Lv.75
……って、ノゾムくんとフレンド登録するの忘れてた。
[107]ジェイド/拳法家/Lv.49
何やってんだか……