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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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女王VSオスカーⅢ

 『ロイヤルストレートフラッシュ』を出したら『ロイヤルストレートフラッシュ』で返された。


(いやいやいや、有り得ないだろ! どんな確率だよ!?)


 『ロイヤルストレートフラッシュ』は、5枚すべてが同じスート、かつそれが10、J、Q、K、Aと数字が並んでいる、ポーカーにおいての最高の『役』だ。

 当たり前のことだがめったに出来ない。子供の頃から父親に教えられてポーカーをしていたオスカーも、今、はじめて作ることができた『役』である。


 ……それなのに。


(落ち着け……めちゃくちゃ低い確率であることは確かだけど、確率はゼロじゃない)


 渾身の勝負に出て、華麗に返り討ちにされてしまったのはショックだ。でも、ここで動揺してはいけない。


 焦るな焦るなと自分に言い聞かせて、オスカーはちらりと正面に座る女王を見た。女王はにっこりと微笑んでいた。満月を思わせるような黄色の瞳は静かな光を抱き、まるでこちらの心を見透しているかのよう。


 チップの数は、オスカーが20枚。女王が10枚。オスカーのほうが、まだまだ余裕がある。


 だけど。


「うんうん。やっぱり、どんどんレイズしていったほうが楽しいですわね」

「……」


 相手と同じ数のチップを出す『コール』。1枚以上のチップを上乗せする『レイズ』。ポーカーには、相手が出したチップと同枚数以上のチップを出さなければならないというルールがある。


 これまでは、互いにちまちまと1枚ずつチップを賭けていた。


 参加料の1枚を出して、何度目になるか分からない勝負をする。賭けるか降りるかを問われ、オスカーは今までどおり1枚を置いた。


「3枚出しますわ」


 女王はさっそくチップを上乗せしてきた。オスカーは顔を歪ませる。様子を見ていたナナミが、そおっとラルドに頭を寄せた。


「このあとはカードの交換なのよね?」

「うん、そうだと思う。たぶん」

「たぶんって何よ?」

「3人以上で遊ぶときは、『レイズ』する奴が2人以上いたら、もう一周、ディーラーから『レイズ』するか『コール』するか降りるかって聞かれるんだ。『レイズ』する奴が1人になるか、降りずに勝負する奴が2人だけになったら、次に進む」


 ラルドの説明に、ナナミはぱちくりと目をしばたかせた。「どういうこと?」と首をかしげている彼女は、たぶんいまいち、イメージが掴めなかったのだろう。実際にやってみたら、分かるだろうけど。


 今はオスカーと女王、2人の対戦なので、もう一周回ることなく次へ進む。手札を交換し、オスカーはわずかに眉を寄せた。オスカーの手元には、なかなかいいカードが来た。


(これで勝負して、勝てるか?)


 こういう思考に陥っている時点で、オスカーは負けている。


 弱いカードが来ても、堂々と強者を振る舞えば勝てることがあるし、逆に強いカードが来たとしても、臆病風に吹かれれば負ける。それがポーカーというゲームだ。


 互いに手札を見せる。女王の勝ちだ。


(くそ……っ)


 積み上げられたチップの山が、ごっそりと女王のもとへ移動した。あれだけ差があったのに、手持ちのチップの数を逆転されてしまった。


(落ち着け、落ち着け)


 オスカーは何度も心の中で繰り返す。やることは変わらない。いいカードが来たら勝負して、酷いカードなら降りる。『ブラフ』はもう使わない……というか、使う勇気はない。だってこの女王、オスカーがブラフを使おうが使うまいが、もう勝負を降りようとはしないのだ。


 というか、この女王の引きの強さは何なんだ。オスカーは結構な頻度で『役なし』ができているのに、女王は常に最低でもペアが1つ以上できている。


 どんどん減っていくオスカーのチップを見て、ラルドとナナミは不安そうにしていた。当たり前だ。オスカーが負けてしまったら、彼らもノゾムのいる迷路の中に入れられてしまうのだから。


 オスカーが、賭けをしようだなんて言い出したばっかりに。


(ヤバい、ヤバい、ヤバい……っ!)


 そうしてついにオスカーのチップが5枚を下回ったとき、オスカーは唐突に椅子から立ち上がった。ラルドとナナミが目を丸くさせて見上げてくる。女王は微笑を顔に貼り付けたまま、何を考えているのか分からない顔でオスカーを見た。


 オスカーは無言でラルドとナナミに目配せをして、ついて来るよう促す。


 2人は不安そうな顔をしたまま、椅子から立ち上がった。


「あらまあ。逃げるのですか?」

「んなわけねぇだろ! ちょっと、なんていうか、あれだ! 作戦会議だ!」


 わざとらしい挑発をする女王に、ラルドはすぐさま反論した。オスカーは無言のまま俯き、足を動かす。女王に声が届かないくらいに距離を取ると、オスカーはぴたりと足を止めて、ラルドとナナミを振り返った。その顔は、血の気が引いて真っ青だった。


「オスカー?」

「……ごめん」


 オスカーは青い顔をしたまま頭を下げた。


「勝てる気がしない。お前たちを巻き込んで、自分から賭けを提案したくせに……情けない話だけど。本当に、ごめん」

「は? え?」


 ラルドは呆けた声を出す。オスカーは頭を下げたまま、唇を噛みしめていた。ナナミはそんなオスカーを見て、ゆっくりと目を瞬かせる。ややあって、ちょっぴり眉をひそめた。


「……私、ポーカーのことなんてよく知らないんだけど、素人目に見ても、不思議なのよね」

「何がだ?」

「『役』っていうんだっけ? あれって、あんなに続けて作れるものなの?」


 ナナミの問いかけに、ぽかんとしていたラルドはハッとした。


「そうだぜオスカー! あれおかしいって! あの女王、絶対にズルしてるよ。カジノのルーレットん時みたいに!」

「ルーレット……のことは俺は知らないけど」

「そういやあん時はリオンだったな」


 ラルドたちが一緒にカジノに行ったのは、オスカーの兄だった。オスカーは困惑した顔をして「兄貴がまた何かしたのか」と不安そうに呟いたが、違うそうじゃない。

 明日も更新します。

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