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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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女王VSオスカーⅡ

 トト(ディーラー)が何度目になるか分からないカードを配る。

 なかなかいいカードが来たので、オスカーは今度は勝負をすることにした。


「『フォーカード』だ」

「『フルハウス』です。オスカーさんの勝ちですね」


 場に出されていたチップがすべてオスカーのもとに来る。これで、オスカーはチップ13枚、女王は17枚。


(そろそろか……?)


 オスカーはちらりと女王を見た。にこにこと笑うその顔からは、心中はまったく窺い知れない。お手本のようなポーカーフェイスだ。


(いや、もうちょっと……?)


 オスカーは現在、女王の頭に2つのことを刻みつけようとしていた。


 それは、“彼は慎重なプレイヤーである”ということと、“よほど強いカードを引かない限りは、自ら勝負に出ることはない”ということだ。


 そう思い込んでもらえれば、オスカーが勝負に出たときに、女王が降りる回数が増えるかもしれない。


 これは『ブラフ』だ。現在、オスカーはこの『ブラフ』を成功させるための下準備を、コツコツと続けている最中だった。


(強いカードを引くかどうかは、完全に運だからな……運だけに頼ってしまうと、勝てない。計算をしなければ)


 ポーカーは“考え続ける”ゲームだ。自分の勝率を。確率を。対戦相手の心理を。その視線の動きに込められた意味を考えながら、次の手を考える。


 しかしオスカーは、ここに来るまでに解いてきたクイズによってすでに脳が疲弊していた。疲弊しているのである。大事なことだからもう一度言うが、めちゃくちゃ疲弊しているのだ。


 “考え続ける”ことが必要なポーカーだが、オスカーはぶっちゃけもう何も考えたくなかった。今すぐにでもログアウトして、ベッドに入って眠りたい。


(そろそろ乗ってきてくれ……)


 そう思いながら、オスカーはテーブルの上にチップを重ねる。女王はそのチップを見て、手持ちのカードを見て、少し沈黙した。


「わたくしは降りますわ」

(……お)


 女王が降りたので、オスカーが勝った。テーブルの上のチップがオスカーのもとに来る。オスカーが14枚、女王が16枚。


(そろそろいけるのか? それとも、カードの引きが悪かったから降りただけ?)


 女王の表情は変わらない。相変わらずの完璧なポーカーフェイス。


 オスカーは今度は、やや早めにチップを積んだ。いかにも『自信のあるカードが来た』とばかりに。実際にはペアのひとつもできていないのだが、これで女王がどう動くのか観察する。


 女王は目を細めた。


「降りますわ」

(……おおお!)


 どうやら、無事に下準備は済んだらしい。オスカーは表情に出さないよう気をつけながら内心でホッと安堵した。


 チップは現在、互いに同枚数。

 ここから、ジリジリと引き離してやる。




 ***




 オスカーが勝負に出る回数が増えたことに、横から見ているラルドとナナミも、もちろん気付いた。そして、それに比例するように、女王ミエルが勝負を降りる回数が増えたことも。


 少しずつ、少しずつ、ミエルのチップがオスカーのものになっていく。この調子だと、オスカーが無事に勝ちそうだ。


 しかし、ミエルの手持ちのチップが5枚を下回ったとき、ふいにミエルはクスクスと笑い出した。口元に手を当てて、ひどく上品な笑い方だった。


「何がおかしい?」

「いいえ、別に。何も」


 オスカーは眉間にぎゅうっとしわを寄せる。そして何かを考え込んだ。


 この賢い少年の頭の中のことなど、ラルドにもナナミにも分かるはずもない。だが、次の瞬間、重ねるチップの数を3枚にしたのには、きっと何か意味があるはずだ。


 ミエルはにんまりと笑った。


「これは『ブラフ』かしら? それとも、『ブラフ』だと思わせてチップの枚数を増やすのが目的?」


 オスカーは答えない。ナナミはこっそりラルドに『ブラフ』の意味を教わった。


 実際には弱いカードなのに、わざとチップを多めに出して『強いカードだ』と思い込ませて、相手に勝負を降りてもらう手段なのだという。


 それってつまり、『ブラフ(はったり)』だとバレたら多めにチップを取られてしまうってことじゃない。ナナミがそう言うと、ラルドは神妙な顔で頷いた。諸刃の剣的な手段なのだ。


 ポーカーには、常に『最大額をベッドしているプレイヤー以上のチップをベッドしなければならない』というルールがあるそうだ。つまり、誰かがチップの数を増やしたなら、自分も同じ枚数かそれ以上の数を出さなければならない。


「ちなみに、チップの枚数を増やすことを『レイズ』っていうんだ。前の人と同じ枚数を出すときは『コール』な。カジノでポーカーをやった時は、みんなどんどん『レイズ』して賭け額がどんどんアップしていって、オレ、あっという間に負けちゃったんだよな」


 後半部分に関してはナナミはまったく興味がなかったけれど、なるほどと思う。オスカーが3枚チップを出したので、ミエルは勝負するなら3枚以上のチップを出さなければならない。そしてミエルのチップの残り枚数から考えるに、ミエルはそれで負けたら敗北することになってしまうのだ。


 オスカーのこれは『ブラフ』なのか、それともミエルにトドメを刺すための一手なのか。


 ミエルもチップを3枚出した。これでミエルの手元には、チップはゼロだ。


 オスカーはにやりと笑って手札を見せた。


「『ロイヤルストレートフラッシュ』だ。やっと決着がついたな」


 オスカーの手元には、ハートの10、J、Q、K、Aが並んでいる。ラルドが「おおおおおっ!!」と歓声を上げた。


 『ロイヤルストレートフラッシュ』は、ポーカーで使う『役』の中で最高位のものだ。もっとも、このゲームではスート(トランプのマークのこと)にも序列がついているので、ハートは『最強』というわけでもないのだけれども。


 ゲームを開始した時に決めたスートの序列は、強い順番に、スペード、ハート、ダイヤ、クラブだった。



「あら、いやですわ。もう少し付き合っていただきませんと」



 ミエルはにっこりと笑って手札を見せた。そこにはスペードの10、J、Q、K、Aが並んでいた。


 オスカーの表情が固まる。ナナミは目をぱちくりさせた。ラルドは椅子から立ち上がって「なにいいいいいいいいいいいっ!!?」と叫んだ。

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