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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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囚人たちの集結

「ゲッ!」


 角を曲がったところで出会った男の顔を見て、エレンは肩を跳ね上げた。


 ツーブロックに刈り上げた黒髪に、大きな身体。一見、爽やかな感じだけれど、エレンに気付いてしかめられた顔はとても怖い。


 ノゾムは半歩下がって、恐る恐るエレンを見た。


「し、知り合いですか?」

「知り合いっつーか、なんつーか……牢屋でオレを睨んできた、すっげー怖い奴だよ」


 ボソボソと問いかけたノゾムに、エレンもまたボソボソと答えた。


 男は顔を歪めたまま、つかつかと歩み寄ってくる。ノゾムとエレンはガタガタと震えた。ノゾムは今すぐにでも回れ右をして逃げ出したかったのだが、エレンが選んだのは『逃げ』ではなかった。


「な、なんだよコノヤロー! やんのかコラ!? ははは犯罪者にビビるようなオレ様じゃないぞコラ!?」


 ……バカなのかな、この人?


 逃げないだけでなく、なぜか男を挑発するようなことを言うエレンにノゾムは呆れた。男は歩みを止めない。よし、エレンを置いて逃げよう。ノゾムがくるりと身を翻した、その時だった。



「お前ら、どこから現れた?」



 至近距離からエレンを見下ろしながら、男はそう尋ねた。

 エレンは「へあっ!?」と素っ頓狂な声を漏らす。


「ど、どこからって……近い! 威圧感がヤバい! こわいよぉ、助けてぇ〜……」


 さっきまでなぜか挑発的だったエレンは、一転して逃げ腰になった。本当に何なんだろう、この人……。


 エレンが答えないのを見て、男の目はノゾムに向く。眼力がすごい。ノゾムはビビッた。男の眉間には、どんどん縦じわが増えていく。


「あ、えっと、その……ど、どこからって……そこから……」


 ノゾムはプルプル震えながら、自分たちが来た方角を指差す。そこには、開かれたままになっている扉があった。エレンがクイズを解いて開いた扉だ。


 男はさらに顔を歪める。


「そこに扉なんてなかったはずだが?」

「ええ……?」


 なかったはずだと言われても。


 そこでノゾムは思い出した。エレンもまた、何もなかったはずの場所から現れたということに。


「ど、どういうことですか……?」

「知るかよ。聞いてるのはこっちだ。それからお前は、さっきからウザい」

「ぎゃっ!」


 プルプル震えていたエレンは殴られた。


「なんでオレばっかり……」と叩かれた箇所を押さえながらうずくまるエレンに、ノゾムはちょっと同情した。確かに今のは理不尽だった。


「あの扉は、クイズを解いて開いたんですよ。開かれる前の扉は、反対側からだと壁に見えるってこと……ですかね?」

「…………」


 男は無言で、扉とノゾムを交互に見やる。なんだか疑われているみたいだけど、ノゾムは本当のことしか言っていない。


 エレンはノゾムの後ろに隠れた。


「こんのクソ犯罪者め!」


 あからさまに怖そうな相手に喧嘩を売るのは勝手だが、人を盾にするのはやめてほしい。


 男はギロリとエレンを睨んだ。エレンは身を屈めてノゾムを前に押した。やめて。


「俺は捕まるようなことはしていない」

「はあ」


 もしかして、ノゾムと同じように、女王に嵌められたのだろうか。


「ちょっとNPCを殴っただけだ」

「思いっきりやってんじゃねぇか!」


 エレンが全力でツッコミを入れた。男の拳が、またもやエレンの頭を打った。


「クイズに答えられなかったからって、ニヤニヤしてやがるからだ。ウザかったんだ」

「だからって殴っていい理由にゃならねぇだろうが!?」

「お前もウザい」

「暴力反対!!」


 エレンはぎゃんぎゃん喚く。ノゾムの後ろで。男の拳が顔の横を通りすぎるのは大変心臓に悪いので、エレンにはさっさと前に出てほしい。


 そもそも結局殴られるのなら、ノゾムを盾にする必要なくない?


「牢屋にいた『もう1人』のほうがヤバいぞ」

「もう1人? え、まだ誰かいたっけ?」

「お前がぶち込まれた時にはログアウトしてやがったな」


 服役途中でゲームをログアウトしても、服役期間が短くなることはない。現実世界で『5日間』過ごしても、ゲームの中で『5日間』服役しなければ、解放されないようになっているそうだ。


 その『5日間服役』という罰は、今回のこの迷路に変更されたようだけれど。


 たとえ今、ゲームをやめたとしても、次にログインした時にはまた迷路の中ということだろう。


「アイツはPKをしてぶち込まれた」

「それはヤバいな」

「だろ? 殺し(PK)に比べりゃ、気に食わないNPCを一発殴るのなんか、たいしたことじゃないだろ」


 ……そうだろうか?

 この男の理屈は、なんだかとっても不思議だった。




 その『PKをしたヤバい囚人』とも、すぐに遭遇することになった。ピンク色のマリモみたいな頭をした、これまたスラリと背の高い男である。


 ピンクのマリモは大きな扉の前で、謎解きの真っ最中だった。


 謎解きの内容は『魔方陣』を埋めるというもの……この『魔方陣』というのは、縦・横・斜めの数字を足した数がすべて同じになるように作られたもののことだ。『魔法』とは関係がない。


 穴だらけの魔方陣をマリモは呻き声を上げながらもなんとか埋めて、扉が開かれる。


 そこでようやくマリモは、ノゾムたちの存在に気がついた。


「オイラがヤバい奴だってぇ〜? いやいや、確かにPKはやっちゃったけど、悪いのはアイツなんだって。嫌がってた女の子に、しつこく絡んでてさ〜」


 だからって、なぜ殺すまでいっちゃったんだろうか。


 聞けば、殺すつもりはなかったんだけど、どうやらレベル差がめちゃくちゃあったらしくて、軽く攻撃しただけで死んじゃったんだとか。


「そもそも攻撃すんなよ」

「オマエだってNPC攻撃したんじゃん」

「ちょっと殴っただけだ」

「オイラだって、ちょっと殴っただけだよ〜……ハンマーで」

「武器使ってる時点でヤベぇよ」


 どっちもヤベぇよ。


 ノゾムはこの2人とも関わりたくないと思った。


 エレンが小声で話しかけてくる。


「なあオレ、気付いたんだけどさ。本当にヤバい奴って、自分がヤバいっていう自覚がないもんなんだな」

「……うん、そうかもね」


 ノゾムはエレンの顔を見つめながら、しみじみと頷いた。

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