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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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女王陛下の秘密基地Ⅱ

「賭けはしない……。けれども『バリュー』や『ブラフ』などはあったほうが楽しいので、チップは使いましょう。1人10枚ずつ使って、最終的にすべてのチップを獲得した者の勝ち、というのはどうですか?」

「……いいだろう」


 オスカーが頷くと、女王はにっこりと微笑んで、キーボードを叩いた。

 テーブルの上に、赤・青・緑・黄色のチップが10枚ずつ現れる。


「私、ポーカーってよく知らないんだけど」


 ナナミがそっと手を挙げて言った。


「そうなのですか。では、見学していますか?」


 女王の提案にナナミは頷く。テーブルの上から、緑色のチップが消えた。


「ドローポーカーになさいますか? それとも、テキサスホールデムにしますか?」

「ドローポーカーでいいだろ、簡単だし。スートに序列は付けるか?」

「付けましょう。スペードが一番強く、ハート、ダイヤ、クラブの順番で」

「了解だ」


 ポーカーというものは歴史が古く、その遊び方は細かく区分すると100種類以上にも及ぶと言われている。


 実際に遊び始める前に、ルールの確認は大切だ。


「あとは……。ラルド、お前大丈夫か? 兄貴から遊び方は教わったんだろ?」

「お? お、おお! 大丈夫だ! まかせとけ!」


 何を任せるんだかさっぱり分からないが、グッと親指を立てるラルドにオスカーは「そうか」とだけ返した。


 ディーラーは、紅茶を持って戻ってきたトトに頼む。


「では、まずは参加料としてチップを1枚」


 オスカー、ラルド、そして女王が手持ちのチップの中から1枚をテーブルの中央に置いた。


 トトがよく切ったトランプを全員に5枚ずつ配る。


 配られたカードを見て、オスカーは眉をひそめた。


「……ダメだなこれは。ドロップする」

「オレはやるぜ! ええっと……チップをさらに出せばいいんだよな?」

「ええ。他に勝負する者がいなければ、あなたの勝ちになりますわ。わたくしも無理そうなのでドロップします。ラルドさんの勝ちですわ」


 3人の参加料3枚+ラルドが出したチップ1枚、合計4枚のチップがラルドのものとなった。


「おお、やった! 一気に12枚!」

「まだ始まったばっかでしょ。手札は見せ合わなくてもいいの?」


 首をかしげるナナミにオスカーは頷いた。


「最後までドロップしなかった者が2人以上いた場合は、互いの手札を見せあって、より強い『役』を作ったほうが勝ちになる」

「ふーん?」

「ふふっ、では次に行きますわよ」


 再び参加料を払う。カードが配られ、そこから自分が勝負するかどうかを決める。

 オスカーはまたカードを置いた。


「またダメだ。ドロップする」

「オスカー、勝負をしなさすぎじゃない?」

「勝てそうにないならさっさと降りたほうがいいんだよ。失うチップも、参加料の1枚で済むし」


 ラルドは今回も勝負することにした。女王も、今回は勝負するようだ。


 勝負する者が2人以上いた場合――ここですぐに手札を見せ合うのではなく、次にするのはカードの交換。手持ちのカードのうち1〜5枚を出して、同枚数をディーラーから受け取る。もちろん、交換をしなくても構わない。


 ラルドはうーんと悩んで3枚を交換した。女王は2枚。女王は涼し気な顔だが、ラルドの表情は悔しげに歪む。


 ここで再度、ディーラーから勝負に乗るか降りるかを聞かれる。


「もちろん、勝負しますわ」

「ぐうぅっ……ええい、やったるぜ!!」


 ラルドと女王はさらに1枚ずつチップを置いた。互いの手札を見せ合う。女王はJが2枚と8が3枚の『フルハウス』、ラルドは7の『ワンペア』だった。


「わたくしの勝ちですね!」

「くっそおおおおおおおッ!!」


 ラルドは参加料を含めて3枚を失い、女王はオスカーの参加料1枚を合わせた、4枚を獲得した。


「なるほど、自信のない手札で最後まで勝負しちゃうと、チップをいっぱい失っちゃうことになるのね」

「そういうことだ」


 もちろん、弱い手札でも勝負する方法はある。あえて“多めに”チップをかけることで『自信のある手札だ』と相手に思わせて勝負を降りてもらう……『ブラフ』という方法だ。


 当然のことながら、見破られて相手が勝負を降りなかった場合には多めにチップを取られることになるので、やるなら相当の度胸と演技力が必要になる。


「それでは3回目――」

《おっしゃああああああっ! やっぱりオレって天才ーーーーっ!!》


 女王のセリフを、スピーカーから聞こえてきた叫び声がかき消した。エレンの声だ。どうやら無事に、容器と水を使ったクイズを解いたらしい。


 女王は慌ててモニターを振り返り、ショックを受けた顔で言った。


「なんてこと。わたくしとしたことが、見逃してしまいましたわ!」


 モニターの中では、開かれた扉の前で両手を上げて喜ぶエレンの姿が映っている。その後ろでは、女王と同じくらい悔しそうな顔をしたノゾムがジト目でエレンを睨んでいた。


(……よっぽど自力で解きたかったんだな……)


 気持ちは分かる。オスカーだって、家でクロスワードパズルを解いている時に兄貴に横やりを入れられて苛ついたことがあるからだ。


 求めてもいないサポートやアドバイスは、時として邪魔なものになる。自分の力でやり遂げたいと思っている時は、なおさらだ。


「ま、まあいいですわ! まだまだ彼らが苦悩する姿は見られますもの!」

「ドSだな」


 この女王は、人が苦悩する姿を見るのが好きらしい。ノゾムが狙われた理由もそこにあるのだろう。


「なあなあ女王さま! 3回目! 3回目の勝負!」


 ラルドはすっかりポーカーに夢中だ。今の自分たちにノゾムのために出来ることは確かにないのだが、だからといって、気にかけなさすぎではなかろうか。


「……わかりましたわ。さくっと終わらせて、また観察に戻りますわ!」


 女王も女王で、『歓迎する』と言っていたことを忘れているようだ。


 オスカーは静かにため息をついた。

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