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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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謎解きの迷路Ⅶ

 五つ子の出す論理クイズは5回続いた。オスカーはすごく疲れた。クイズというものにはいろいろな種類があるけど、論理クイズが一番、脳を酷使すると思う。


 五つ子たちの返答をまとめると、女王は王宮の南東にある塔の最上階にいるそうだ。


 五つ子たちはもとの1人に戻った。クイズを出している最中でも子供たちは頻繁にもとに戻るわ、立ち位置を入れ替わるわで、それもまたオスカーの疲労に大いに貢献してくれた。


 立ち位置が入れ替わらなければ、『本当のことを言う子供』だけの意見に耳を傾けることができたのに。


「南東の塔、ですね。ご協力ありがとうございました、オスカーどの」

「ああ……」


 ぺこりと頭を下げるトトに、オスカーは疲れたまま返事をする。トトは即座に他の兵士たちに連絡した。女王が確保されるのも、時間の問題だろう。


「なあ、オレたちも行こうぜ!」


 ラルドが素っ頓狂なことを言い出す。こいつはさっきのオスカーの話を聞いていなかったのだろうか。


 この王宮は、ゲームを運営する彼らの職場である。牢屋までは連れてきてもらえたけど、一般プレイヤーがふらふらと歩き回っていい場所ではない。


「王宮の中を歩き回るのがダメなんだろ? 塔は外にあるって話じゃん。それに塔にも、女王様が仕掛けたクイズがあるかもよ?」

「……それもそうですね」


 ラルドの言葉にトトは神妙にうなずく。オスカーは口元を引きつらせた。疲れているというのに……。そしてラルドの予感は、見事に的中したのであった。




『次の英字に1から9までの数字を入れて、計算が成り立つようにしなさい。

 ただし、同じ英字には同じ数字、異なる英字には異なる数字が入ります。


 ABC+AC=BCA』




「くっそおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

「お、オスカーどの! 我々も一緒に考えますので!」


 塔の入口に設置された問題を見て頭を抱えるオスカーに、トトは慌てて声をかける。


 ラルドは「おれ、すうがく、だめ」と片言で呟いた。


 ナナミはといえば、金髪の子供と一緒にグラシオの背中を撫で回すのに夢中だ。こっちもすでに考えることを放棄している。


 オスカーは脳みそをフル回転させた。


「1の位の桁は、C+C=A……つまり2C=A。さらに100の位に桁が上がっているから、A+1=Bの関係が成り立って……えーっと……」

「がんばれオリバー!」

「オスカーだし、今はちょっと黙っていてくれないかな!?」


 2C=Aということは、Aは偶数だ。たとえCが奇数だろうと、2倍にすると偶数になる。ということは、Aは2、4、6、8のいずれかということだ。


 また、10の位のB+Aが桁上がりするためには、AとBは5以上の数字でなければならない。


 AはBより1だけ小さく、かつB+Aで桁が上がるAとBの組み合わせは、6と7、8と9の2種類のみ。


 あとはそれぞれを計算式に入れてみて、Cの値が一致するものは……。


「673+63=736だ!」


 扉に数字を打ち込むと、ロックが解除される。周りからは歓声が上がった。


 ラルドは「さすがだな!」と言うが、オスカーはもう、ベッドに飛び込んで明日の朝まで寝ていたい気分だった。




 塔の中には螺旋状の階段。階段には手すりなどはなく、足を踏み外せば地面へ真っ逆さまに落ちてしまう。


 勇ましく駆け上がっていく兵士たちの後ろを、オスカーは恐る恐るついていった。どうして女王はわざわざこんな場所にいるのだろう。オスカーには理解できない。


 この塔は見張りのために作られたそうだ。とはいえ平和なゲームの世界で侵略してくる敵などいるはずもないので、ただ城を飾るためだけに作られたと言っても過言ではないらしい。


 階段を上がりきると、吹き抜けの屋上に到着した。石で作られた柱と、柱に支えられた平たい屋根があるだけの、何にもない空間だった。


「誰もいねーじゃん」


 ラルドが辺りを見渡しながら言う。塔の上からは城下の町並みと、その向こうにある海、海の先にある大陸、そして大陸間を移動する飛行船がよく見えた。


 牢からいなくなった囚人たちはもちろん、女王ミエルの姿も、どこにもない。


「オリバーでも間違うことはあるんだな」

「……オスカーだし、間違えることもあるというのは間違っちゃいないが、人が必死に考えて出した答えを簡単に『間違い』だと言われるのは腹が立つな」

「なんかめっちゃ震えてるけど、大丈夫?」

「聞くな」


 じろりと睨みつけてやると、ラルドは首をすくませた。兵士たちは手すりから身を乗り出して、どこかに女王が隠れてやいないかと目をこらしている。


「どこかに仕掛けがあるのかも」


 ナナミはそう言って、石畳の床や、天井を見回した。

 床や柱には、模様が刻まれている。


 ナナミは柱に触れた。


「これは……向日葵(ひまわり)かしら? ここだけ動くようになっているわね」

「向日葵……」

「床に描いてあるのは……ピラミッドとスフィンクス……ヤシの木がたくさん……太陽……」

「向日葵は太陽に向かって咲くな」


 オスカーたちは互いに頷き合い、手分けをして屋根を支える6本の柱に刻まれた『向日葵』を床の『太陽』のほうに向くように動かした。


 すると、何やらカチッという音が鳴って、上のほうから、ゴゴゴ……と重たい何かが動く音が響いた。


 天井がぱかりと開く。出てきたのは階段だ。屋根裏へと伸びている。


「いや待てよ。屋根裏って、この屋根、ぺたんこじゃん!」


 ラルドが指摘するとおり、この見張り塔の屋根は平たい屋根である。王宮の本館のほうの屋根は、栗のように先端が尖った丸みを帯びた形なのに、こっちのほうの屋根は飾り気がないにもほどがある。


 だからこそ、なのかもしれない。


 恐る恐ると階段をのぼって、屋根裏を覗き込んでみると、そこには外観を完全に無視した広い空間が広がっていた。


 部屋の奥にはモニターがあり、モニターの前にはソファーがある。


 ソファーに座っているのは、波打つ金の髪を持つ女だ。


 女はこちらを振り返ると、にっこりと慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


「ようこそ、わたくしの秘密基地へ」

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