表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
160/291

謎解きの迷路Ⅳ

 四角の枠の中にある、大小さまざまな形をしたブロック。中に1つだけ赤い玉があり、ブロックを少しずつ動かしていくことで、玉を外に出すことが出来る。


 出てきた玉を割ると、中から鍵が出てきた。

 門を開くための鍵である。


「ふふん。やっぱオレって天才だな!」


 エレンは得意げに鼻をこする。


 しばらくスタート地点で文句を言っていたエレンだったが、いくら経っても返事はないし、結局この迷路を攻略する以外に脱出する手段はないのだと悟って、先に進むことにしたのだ。


 ノゾムが川渡りのクイズに首を捻っている間に、エレンは2つのクイズを解いた。


 天才かどうかはともかくとして、ひらめきの能力に関しては、ノゾムより上であることは確かなようである。


「いきなりこんなとこに入れられたのは腹立ったけど、よくよく考えたら、牢屋の中で閉じ込められているよりも全然楽しいかもな。ゴールできたら、罪を清算したことにしてくれるとも言ってたし」


 こうなったら、ちゃちゃっとクリアして、ちゃちゃっと外に出て、フレデリカたちを追いかけよう。

 エレンはまだ、フレデリカのことを諦めてはいない。


 門の先に広がる迷路は、今までよりもさらに複雑さを増しているようである。次へ進むためのクイズより、迷路を踏破することのほうが面倒くさい。


「ま、オレなら楽勝だな!」


 ふふんと得意げに鼻を鳴らすエレンは、まだ気付いていなかった。


 女王ミエルの、性格の悪さに。




 ***




 どうしても手が離せない者を除いて、ほとんどの兵士が捜索に当たったが、ミエルは見つからない。脱獄したと思われる囚人たちもだ。


 ミエルが誰の目にも触れないように隠し通路を使っていたのなら、現在いる場所も、誰も知らない隠し部屋か何かだろうか。


「なあなあ、オレたちも探しに行ったほうがいいんじゃないかな?」


 忙しそうに走り回る兵士たちを横目に見ながら、ラルドがそわそわと体を揺らして言った。


 オスカーは難しい顔をして、首を横に振る。


「王宮の外ならともかく、中をウロウロするのはやめたほうがいいと思う」

「なんで?」

「俺たちは一般のプレイヤーだ。そしてここは、運営の、ゲームを管理する側の人たちの職場だ。勝手に見てはいけないものや、触ってはいけないものもあるだろう」


 オスカーたちに今できることは、待つことだけだ。

 街の捜索なら協力できるだろうが……。オスカーは、ミエルやノゾムたちは王宮の『中』にいるのではないかと考えている。


 唯一、ミエルの居場所を知っていそうな子供はといえば、トトに頬を引っ張られているのにヘラヘラ笑っていた。


「お気遣いありがとうございます。皆さまには、捜索よりもコイツの口を割らせるのを手伝ってほしいです……」

「……だいぶ苦戦しているな」

「嘘ばかりつくので、コイツ」


 トトはイライラしているようだ。仕方がないかもしれない。

 ほっぺたを解放された子供は、ヘラヘラしたまま、赤くなった頬をなでなでした。


「うそなんか、つかないもん」

「それがすでに嘘だろ!」

「子供を疑うの? パパ」

「パパっていうな!」


 完全に、子供のペースだ。

 オスカーは口元に手を当てて、うーんと唸った。


「この子供……AIだって言ってたな。ムタルドの図書館にいた三つ子と、何か関係あるのか?」

「三つ子って?」


 ナナミが首をかしげる。ナナミはあの時、中庭で弓矢作りをしていたので、三つ子には会っていないのだ。


「あの図書館にある隠し部屋や隠し通路に精通した、謎の三つ子だ。この子供にそっくりなんだ。『学者』になるために必要なグリモワールの探し方を教えてもらったんだが、3人のうち2人が嘘をつくから、苦労させられたよ」

「あいつらか……」


 トトは思い出したように言った。


「なんと言いますか……。あいつらとコイツは、同一の個体なんです」

「同一の……個体?」

「ええ。もともとは女王が作った、1体のAIです。なんでわざわざ3体に分裂していたのかは判りませんが……コイツには女王の性格がかなり影響されているので、おそらく、図書館を訪れた人たちを混乱させるためではないかと」

「……なるほど」


 女王ミエルは、本当にクセの強い人物のようだ。

 だが、それなら解決の糸口になりそうだ。


 オスカーは、ニコニコと笑う子供に向き合った。


「お前の名前は?」

「『トトジュニア』だよ!」

「ジュニア」

「女王がつけたんです……人の名前を勝手につけるなんて、ひどいと思いませんか?」

「お前は気付いているのか気付かないふりをしているのか、どっちなんだ?」


 本当に気付いていないなら、この男は鈍感を通り越して罪深いと思う。


 訝しげな顔をするトトに、オスカーは深々とため息をついた。


「一応な、ムタルドの三つ子もしてくれたんだよな……。女王ミエルの居場所を教えてくれ。代わりに、『お前の出す問題に答えよう』」


 この国の基本は、ギブアンドテイク。問いに答えて欲しければ、こちらもまた相手の出す問いに答えなければならない。


 そしてこの国の住民……NPCたちは謎掛けが好きだ。毎回、輝かく笑顔で問題を出してくる。きっと、彼らを生み出した女王が謎掛けが好きだからだろう。


 子供はきょとーんとした顔でオスカーを見上げ、にんまりと笑みを浮かべた。今まで見た中で、最高の笑顔だ。


「うん、いいよ!」


 快諾を得られてホッとする。が、それと同時に不安が胸によぎった。


 ムタルドの三つ子は1人だけが本当のことを言い、2人が嘘をつく。何度か質問を繰り返すことで、誰が本当のことを言っているのか、誰が嘘をついているのか、調べることが可能だった。


 しかし今、目の前にいるのは『嘘をつく』子供が1人だけ。


 問題にうまく答えられたとしても、『本当の情報』をちゃんと与えてくれるだろうか?


 子供が両手を広げた。ぶんぶんと上下に振るう。


 何をしているのかと思ったら、



「ええええええええっ!!?」



 同じ顔の子供が5人になった。

 三つ子ならぬ、五つ子だ。


「さあ、謎掛けいってみよー!」

「いかないよ!」

「すでに終わったよ!」

「終わってないよ!」

「パパ、お腹すいたー!」


「パパっていうな!!」というトトの叫び声が、ひときわ大きく響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ