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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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謎解きの迷路Ⅱ

 『川渡りのクイズ』

 古くからあるクイズの1つだ。


 キツネが狼だったり、ウサギがニワトリだったり、ニンジンが穀物だったり。あるいは1匹ずつではなく3匹ずつだったりと、形式はさまざまあるけど、共通していることは2つ。


『1度にすべてを運ぶことは出来ない』

そして、『組み合わせ次第では片方が食べられてしまう』


 全員を“無事に”対岸まで運ぶというのが、このクイズの目的であり、難しいところだ。


「えーっと、このクイズ、どっかで見た気がするんだよね……順番は……」


 とはいえ、古いクイズだ。小説や漫画などでこれを知っている者は少なくないだろう。ノゾムだってそうだ。

 ノゾムは「うーん」と唸りながら、記憶を掘り起こした。


「たしか、最初はウサギを運ぶんだよね。キツネはウサギを食べるし、ウサギはニンジンを食べる……だけどキツネはニンジンを食べないから、残すならこの2つ……いや待って。食べないんだっけ? キツネ。お腹が空いてたら食べるんじゃ?」


 キツネは肉食寄りの雑食動物だ。普段はウサギやネズミ、昆虫などを食べているが、空腹時には人間の残飯を食べることもある。


 ニンジンだって普通に食べるかもしれない。


「いや、そんなこと言ってたら、クイズにならないか」


 ノゾムは無理やり自分を納得させた。

 キツネはニンジンを食べない。少なくとも、このクイズの中ではそうなのだ。


 門に描かれた絵は、川などの背景は動かせないが、そこにいる登場人物たちは動かせるように出来ている。


 舟は村人が乗らなければ動かせない。

 そして荷物は、1つだけしか載せられない。


 試しにウサギを舟に載せて川を横断する。対岸にウサギを置くと、門の中からカチリと音が聞こえた。何かが作動したらしい。鍵かな?


「全部運び終えたら、門が開くのかな」


 状況を考えるなら、そうなる。


 ノゾムはウサギを対岸に残して、村人が乗る舟を、もとの岸へと戻した。


「次は……あれ? どうするんだっけ?」


 キツネを運んだら、ニンジンを迎えに行っている間にウサギが食べられてしまう。

 ニンジンを運んだら、キツネを迎えに行っている間にウサギがニンジンを食べてしまう。


「え? 詰んだ?」


 ウサギを対岸に残したまま、ノゾムは呆然と呟いた。




 ***




「だぁーかぁーらぁー! 言ってんじゃん! このチビが、ノゾムを嵌めやがったんだって!」


 一方その頃、王宮の入口では、門兵とラルドたちが睨み合っていた。ラルドに首根っこを掴まれている金髪の男の子は、わんわんと大声で泣きわめいている。


「うえええええんっ! こわいよー!!」

「やかましい! そもそも、お前のせいでこうなっちゃったんだろ!」

「うえええええんっ!」


 王宮の門を守る兵士の2人は、困ったように顔を見合わせる。


 険しい顔で睨みつけてくる黄色い箒頭の男と、大泣きする子供……兵士たちの目には、どう見ても子供がイジメられているようにしか見えなかった。


「いいから落ち着け! そんなに怖い顔で睨んでいては、可哀相だろう」

「可哀相じゃないんだって! これ絶対に嘘泣きなんだって!」

「うえええええんっ!」

「いい加減にしないと、お前を牢にぶち込むぞ!」

「上等だコノヤロー! ノゾムと一緒に脱獄してやんよ!」

「ちょっとラルド!」


 とんでもないことを言い出すラルドに、ナナミは思わず声を上げる。


 兵士たちのラルドを見る目がいっそう厳しくなった。

 『脱獄』というワードが引っかかったのだろう。


「なにバカなこと言ってるの。相手は運営よ? 本当に投獄されるかもしれないし、下手すると『(あか)バン』されるかもしれないわよ」


 『垢バン』とは、アカウントをバン(BAN)されるの略。BANは英語で『禁止』という意味で、アカウントを停止される、消されてしまうといった意味を持つネットスラングである。


 ラルドは「ぐぬぬぬ」と唸り声を漏らした。子供は相変わらずわんわん泣いているが……ちらりとこちらを見上げた目は、明らかに笑っていた。


 許すまじ。ラルドは子供をグルグル振り回した。


 兵士たちは慌てて止めようとしたが、子供は「うわー」と悲鳴? 超棒読みな悲鳴を上げるだけである。


 ぜんぜん怖がっていないどころか、面白がっているようですらあるので、まあいいか、と兵士たちは止めに入るのをやめた。


 ラルドはグルグル、グルグルと回って、やがてバタリと倒れ込む。

 目が回ったらしい。アホである。


 ナナミは頭が痛いとばかりにコメカミに手を当てて、後ろにいるオスカーを振り返った。


「どうしたらいいのかしら?」

「……とにかく、この子供の真意が分からないことにはな……」


 子供は、倒れたラルドの背中に座ってニコニコしている。

 何を企んでいるのか、その表情から窺うことは出来ない。


「……この子供、図書館にいた三つ子の1人だよな」


 金色の髪に、黄色の目。白いシャツに、灰色の短パンをサスペンダーで留めた子供の外見は、あの三つ子とそっくり同じ。


 3人のうちの1人がここに来ているのか。はたまた、本当は三つ子ではなく四つ子だったのか。


 ここはゲームの中なので、たまたま同じ見た目なだけとも考えられるが……実際のところはどうなのか、分からない。


「あっ」


 子供がふいに声を上げた。


「パパ!」


 ――パパ?


 子供の視線を追う。そこにいたのは、王宮の立派な庭の片隅で、植木に頭を突っ込んでいる、スーツ姿の男だった。


「パパぁ〜!」

「誰がパパだッ!!」


 がばりと顔を上げたその男。葉っぱと土にまみれた金の髪のその男の顔には、見覚えがあった。


 たしか、街の外で会った、ラルドたちいわく『カジノのオーナー』である男である。


 男は子供の姿を見咎めると、黄色の瞳をまん丸に見開いた。


「なっ! なんでお前がここにいる!?」

「パパ〜!」

「パパじゃない!」


 子供とオーナーはどうやら知り合いのようである。

 門兵の1人が、訝しげにオーナーを見た。


「なんだトト。お前の子供か?」


 オーナーの名前はトトというらしい。

 トトは心底嫌そうな顔をして答えた。


「違うっての! コイツは陛下が作ったAIだよ。陛下が何故か俺のことを『パパ』と呼ばせているんだ。いい迷惑だよ……」

「ああ、なるほど。陛下がねぇ……。ん?」


 納得したように頷く門兵が、はたと動きを止める。


 頭についた葉っぱを払うトト。そんなトトのそばでニコニコ笑う子供。オスカーとナナミ、そして地面に突っ伏すラルド……。


 それらを順に見て、門兵は徐々に顔色を悪くさせた。


「あれ? あなたたちは、たしか……」


 ラルドたちにようやく気付いたトトが、首をかしげる。

 顔面蒼白の門兵は今にも気を失いそうだ。


 オスカーはトトに向き合った。


 ようやく、話を聞いてもらえそうだ。

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