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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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カルディナルの洋食店Ⅳ

「モンスターの肉……でも旨い……」とブツブツ言いながらハンバーグを完食したラルドは、偉いと思う。キッシュはたいそう美味しかった。

 ナナミは最後の一口を名残惜しそうに見つめている。食後のコーヒーを飲むリオンの皿の上には、ソーセージが残ったままだ。


 満腹ゲージも満タンになったところで、次に考えるべきは、「次に何をするか」である。


「とりあえず、いったんジャックとは距離を置くわ」

「いったんなのか」

「ええ。ジャックの生存確認が出来る程度には近くにいたいのよ」

「どゆこと?」

「ジャックが引きこもりだってことは知ってるでしょ?」


 ナナミはロウの首を撫でながら言った。フェニッチャモスケはピィピィ言いながらテーブルの上に飛び乗って、ラルドが残したニンジンをくちばしで突いている。


「ああ……動画配信とかしてるんだろ? それが?」

「ジャックって今、家を出て一人暮らしをしているのよ」

「ほう」

「一人暮らしで、引きこもってるのよ」

「ふむ」

「今は宅配サービスも充実してるし、お金もちゃんと稼いでいるから、引きこもって生活するのは全然問題ないんだけどさ。ジャックって、何日も徹夜してゲームをすることもあるのよ」

「廃人だな」

「生存確認はちゃんとしていないとヤバそうでしょ?」

「たしかに」


 部屋の中で倒れていたりするかもしれない。それは心配である。

 レイナが「それなら」と口を挟んだ。


「それなら私が、ジャックさんのことを定期的に報告しますよ。シスカさんがいなくなったなら、ジャックさんもしばらくはこの街にいるでしょうしね」

「いいの? レイナ」

「お安い御用なのですよ。ナナミちゃんはあの人と距離を取ったほうがいいと思います」

「それ、シスカにも言われたわー……」


 とりあえず、カルディナルから離れることは決定した。


「カジノに『転送陣』のミニステッカー貼ってきたんだよな。またカジノに行かね?」

「私はもううんざりだわ」

「オレはまたテキサスホールデムやりたい」

「テキサス……?」

「それはもっと練習してからのほうが良くないかな、ラルド?」


 練習相手もいることだし、とノゾムはリオンを見ながら言う。リオンはぱちくりと目をしばたかせて、「俺でいいなら」と頷いた。


「そういうノゾムはどうなんだよ?」

「俺?」

「行きたいとことかねぇの?」

「俺は……実はちょっと、ヴェールが気になってる」

「おお、モノ作りがしたいのか?」

「いや、それは……。俺、モノ作りのセンスないし。ただあのモアイ像とか塔とかが気になってて」

「あー、アレな」


 アレは確かに気になるわ、とラルドは頷いた。

 ナナミは口元に手を当てる。


「モノ作りの国か……。珍しいアイテムや素材が手に入るかもしれないわね。いいわよ、ヴェールに行きましょう」

「リオンさんは?」

「オレはもちろん、どこへでもついて行くよ〜」


 これで決まりだ。

 次の目的地は、モノ作りの国ヴェール。


 ヴェールへは確か、オランジュの首都ノワゼットから定期船が出ていたはず。


「ジョーヌのカジノへ転送するのであれば、ジョーヌの首都へ向かったほうが近いんじゃないですかね〜? 首都イヴォワールから、飛行船が飛んでいるはずですよ」

「飛行船!?」

「マジかよ乗りたい!!」


 レイナいわく、ジョーヌの首都は、カジノの街よりずっと南にあるらしい。地図がないので詳しい場所は分からないが、とにかく海岸沿いのどこかにあるとのことだ。


「詳しいね、レイナさん」

「お店をやっているとですね、いろんなお客さんとお話する機会があるのですよ〜」


 そのぶん情報が多く入ってくるのだと、レイナは言う。


「それじゃあ、さっそく向かおうぜ!」

「うんっ。レイナさん、ごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした〜」

「え、ちょ、ちょっと待って……。ごちそうさま! またね、レイナちゃん!」

「はいは〜い」


 バタバタと出て行くノゾム、ラルド、ナナミのあとを、呑気にコーヒーを飲んでいたリオンは慌てて飲み干し、追いかけていく。


 カランコロンと音を奏でながら閉まる扉を見て、レイナはおもむろに左腕のリングを弄った。


「今、出て行かれましたよ〜。行き先は秘密です〜。シスコンのストーカーさんに、そうお伝えください〜」




 ***




「だってさ、ジャック」


 ハンスはにんまりと笑ってジャックを振り返った。ジャックはソファーの上でぐったりとしている。


 ハンスにやる気を出させるために褒めて褒めて褒め尽くしたあと、シスカの件を知って抗議をしに来たメンバーと幾度も問答をするはめになったからだ。


 予想していたことだが、シスカが抜けるならと、ギルドを離脱したメンバーも多くいる。それは、それだけシスカの人望が厚かったことの証左だ。


 ジャックだってシスカにはだいぶ助けられたし、出来ることなら辞めてほしくなどなかったが……。先ほどナナミにも言ったように、これは優先順位の問題なのである。


 ジャックが一番大切なのは、ナナミ。


 シスコンと言われても仕方がないと、自分でも思う。

 しかしこれだけは譲れないのだ。


「レイナのやつ……。それじゃあもう、行方を追うのは無理じゃないか?」

「大丈夫だって。俺のフレンドは、オランジュにもジョーヌにもいるからね。ヴェールにだって今はケイ姐さんがいるし」

「おお……さすがコミュ力おばけ」

「おばけって何なんだよ」


 失礼だなぁとぷっくり頬を膨らませながらも、ハンスはキーボードを叩く手を止めない。どれだけ広い人脈を持っているんだか。探偵業とか、意外と向いていそうだ。


 依頼したのはジャックだが、あまりの有能さにちょっぴり慄いてしまう。


「それにしても、ノゾムくんたちが追いかけてきてくれていたのは、助かったな」

「あ〜、例の見習い狩人ね。俺、まだ顔を見たことないんだよな。そういや彼の父親の件でちょっと進展があったんだけど、父親捜しって今どーなってんの?」

「父親のことなんか無視してゲームを楽しもうぜって流れになってるけど」

「やっぱな! そんな気はしてた! 真面目に捜してるのやっぱり俺だけじゃん!」


 でもこのまま中途半端にするの嫌だから見つけてやるけど! というハンスは、やっぱり探偵とか向いていると思う。


「進展って?」

「ノゾムの父親、『ミズキコウイチ』な。ゲームの開発メンバーの中に名前があったんだよ」

「マジか」


 運営の一員かも、という話はあったが、まさか開発に関わっているとは思いもしなかった。


 開発メンバーは、そのまま運営に携わっていると聞く。特に各国の『王様』は開発の中心メンバー。「自分たちが遊びたいゲームを作った」と言っていて、運営そっちのけでゲームを満喫している者もいる。ルージュの王、アガトがまさにそのタイプだ。


「ノゾムくんのお父さん、もしかして『王様』だったりして……」

「その可能性もなくはないな」

「父親ってのは、どいつもこいつも勝手だよなぁ……」


 ぽつりと呟くジャックに、ハンスは訝しげに眉を寄せる。が、ジャックの目が思いのほか昏かったので、あえて聞こえてないふりをした。

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