カルディナルの洋食店Ⅱ
「お腹は空いていますか? 私、なんでも作りますよ!」
フライパンを片手に、レイナは活き活きと言う。料理好きの血が騒いでいるらしい。
何も注文しないままテーブルを占拠するというのもいかがなものなので、せっかくなのでメニューを見せてもらうことにした。
初めて来たときよりも、種類が増えている。
「料理か〜。全然やってないな〜」
メニュー表を眺めながらラルドが思案顔で言った。
「焼き魚、作ってなかったっけ?」
ノゾムがクルヴェットで弓の練習をしていたとき、ラルドは毎日のように焼き魚を持って訪ねて来ていたはずだ。
「『釣り人』入手のために大量に魚を釣ってたからな。ただ焼いただけだし、あれは料理とは言わねぇだろ〜」
「うーん。確かに、せめて塩をふってほしいとは思ってた」
ラルドが持ってきた焼き魚は、正直に言って美味しくなかった。内臓の処理はちゃんとされていたし、生臭くもなかったけど、味が全く良くなかった。
聞けば、内臓の処理とかは焼いている間にいつの間にかされているらしい。ラルドはただ、釣った魚に枝を突き刺して焚き火に当てただけなんだとか。
素人には難しいことは自動でしてくれるシステムらしい。もちろん、自分で処理することも出来るけど。
「料理レシピを10種類以上集めると『料理人』になれるんだっけ? ファーストスキルは?」
「『調理速度上昇』ですねぇ〜」
「……戦闘の役には立ちそうにねぇな〜」
そう言いつつもラルドは、「でもそろそろチョコレートばっかなのも飽きてきたし、覚えてみるか」と前向きに付け加えた。
料理には一時的に攻撃力が上昇したりなど、さまざまな効果がつくものもある。
手の込んだ料理であればあるほど、体力の回復量も多いそうだ。
「あんまり回復量が多いと、食うのがもったいなくなっちまうんだよな。いざというときのためにとっておきたくなるというか」
「あはは。ラルドくんはエリクサーを最後まで残しちゃうタイプなんですね〜」
「そうそう。わかる?」
ラルドとレイナはあっという間に打ち解けてしまっている。初対面とは思えない。ナナミはいまだにグラシオたちに囲まれて、警戒しているというのに。
ラルドは「肉が食いたいな」と言ってハンバーグを注文した。ノゾムはこの世界の何の肉かも分からないようなものを食べる気にはなれないので(だってモンスターが落とすし)、無難に野菜たっぷりのキッシュを頼む。
「レイナちゃん! オレはナポリタンね!」
「は〜い。オスカーさん、遠くないですか?」
「察して! あとオレ、弟と区別するためにノゾムくんたちからは『リオン』って呼ばれてるの!」
「あら。それじゃあ私も、リオンさんって呼びますね」
奥のテーブル席に座るノゾムたちからかなり離れて、リオンは入口に近いカウンター席に座っている。
端っこから端っこに向かって大声で話しかけるなんて他にお客さんがいたら大迷惑だっただろう。今は誰もいないので、助かった。
「ナナミちゃんはどうします?」
「…………」
「私、スイーツも作るんですよ」
「……甘いの……」
「ええ、甘いのです! 甘くてふわふわな食べ物でトロットロになって、嫌なことなんて忘れちゃいましょう!」
拳をつくって力説するレイナに、ナナミのエメラルドの瞳が輝く。
そうしてナナミは、フルーツがたっぷり載ったパンケーキを注文した。
凄まじいスピードで調理を始めるレイナを横目に見ながら、ノゾムは水を口にする。
さてさて、次はどうしよう?
「で。何があったんだ?」
ラルドがぶっ込んだ。ノゾムは飲んでいた水を噴き出しそうになった。
「ちょ、ラルド、それはいきなりすぎじゃ……」
「言いたくねぇならいいんだけどよ。気になるだろ? オレ、余計なことしたのかもしれないし……」
もちろんノゾムだって気にはなっている。話してくれるなら聞きたい。ナナミとジャックの行動はあまりにも謎だ。気にするなというほうが無理だろう。
ナナミはロウとフェニッチャモスケを抱きしめて、その整った細い眉をぎゅっと寄せた。
「ええ、ラルド。あんたは思いっきり余計なことをしてくれたわ」
「ええーっ! やっぱり? そうじゃないかって気はしてた!」
「私がちゃんと話さなかったせいだけどね……」
ナナミは深くため息をつく。
「いいわ、聞いて。今、ものすごく誰かに愚痴を聞いてもらいたい気分」
「おお、せめてもの償いだ。いくらでも聞くぜ!」
ラルドは任せろとばかりに胸を叩く。
ナナミは口を開いた。
「ジャックがシスカを追い出した」
「何がどうしてそうなった」