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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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カルディナルの洋食店

 ギルド街へ向かう途中で、道の向こう側から走ってくるナナミの姿を発見した。


 ホッとしたノゾムたちだったが、すぐにナナミの顔が涙で濡れていることに気付いてギョッとする。


 ナナミもまたノゾムたちに気付いて、立ち止まり、慌てて手の甲で涙を拭った。


「ナナミさん、大丈夫……!?」

「……なんでいるの」

「なんでって、そりゃあ……」


 ナナミの周囲にジャックの姿はない。ジャックはどうしたのか、いったい何があったのか、いろいろ聞きたいところだけど、うつむくナナミに聞いてもいいことなのか、ちょっと迷う。


 ノゾムはラルドとリオンを振り返った。ラルドも何と声をかけたらいいのか分からないといった顔をしているし、リオンはあわあわと狼狽するばかりで役に立ちそうにない。


 ノゾムはしばらく逡巡し、やがて「あ!」と思いついた。


「出ておいで、ロウ!」

「うひゃあっ!?」


 アイテムボックスからロウが飛び出してくる。

 リオンが悲鳴を上げたが、無視だ無視。


「ラルドもチャモスケを出して」

「お、おう?」

「ナナミさんも、グラシオを」


 訝しげな顔をしつつ、ラルドとナナミは言われたとおりに相棒をアイテムボックスから出した。リオンが10メートルほど後退したが、それも無視だ無視。


 ノゾムはナナミにロウとフェニッチャモスケを抱っこさせて、グラシオに寄りかからせた。


 ラルドが頭上に疑問符を浮かべる。


「何してんだ、ノゾム?」

「……アニマルセラピー的な」

「モンスターじゃないかぁぁぁぁぁぁ!!」


 リオンが遠くからツッコミを入れてきたが、ノゾムはまたまたそれを無視した。

 確かにそのとおりだが、ロウもチャモスケもグラシオもほぼほぼ動物みたいなものだから、アニマルセラピーで合っていると思う。


 何よりロウは可愛い。

 癒やし効果はバッチリだ。


「…………」


 3匹に囲まれたナナミはぱちくりと目をしばたかせて、それからポツリと呟いた。


「あったかい……」


 そうだろう、そうだろう。ノゾムは満足げに頷く。ラルドも笑っていた。「理解できない」と震えているのは、やっぱりリオンだけだ。


「泣いている女の子を落ち着かせたいっていうのは分かるけどさ、普通はその、喫茶店とかに連れていくものじゃない? モンスターじゃなくてさ」

「リオンのそれはナンパじゃね?」

「否定はしないけど」

「喫茶店か〜……」


 喫茶店ではないけれど、落ち着いた雰囲気のお店なら、ノゾムに心当たりがある。


 ここからそう遠くないはずだ。


「ナナミさん、大丈夫? 歩ける? この近くに知ってるお店があるんだ。とりあえずそこに移動しよう?」

「ノゾムがナンパ!?」

「違うよ!?」


 変なことを口走るラルドにツッコミを入れて、ノゾムはナナミが小さく頷いたことを確認する。


 先導するノゾムに、ナナミはロウとチャモスケを抱いたまま、グラシオにぴたりと寄り添って、ついて来た。


 リオンはその遥か後方にいる。いくらモンスターが苦手だといっても、こんなに可愛いのに……やはり解せぬ。





 ギルド街を抜けて、王城前の光が降り注ぐ中央広場に一度出る。そこから西側へ向かうと『食品街』だ。


 東の職人街の反対側に位置するこの区画は、肉や魚や野菜といった食品を売る店や、居酒屋やレストランといった飲食店が並ぶ通りになっている。


 ノゾムが足を踏み入れたのは、その通りの中にあるこぢんまりとした洋食屋さん。


 ガラス張りのドアを開けると、カランコロンと、軽やかな鐘の音が鳴った。


「いらっしゃいませー! ……って、あら!」


 カウンターの向こうに立つ若葉色の髪の女の子は、入ってきたノゾムを見て満面の笑みを向けた。


「ノゾムさんじゃないですか! お久しぶりですー!」

「こ、こんにちは……覚えていてくれたんですね」

「それはもう! お父さまは見つかりました?」

「それはもういいんです……」


 この洋食屋さんの店主。おしゃべり大好きな料理人のレイナは、ノゾムは返事にきょとんとしたあと、「そうなんですかー」と軽く流してくれた。


 レイナは、ノゾムがこのゲームを始めたばかりの時に出会ったプレイヤーだ。


 最初は冒険者としてフィールドに出ていたそうなのだが、料理の楽しさに目覚めて、こうして首都で店を開くに至ったらしい。


「あ! そちらにいるのはオスカーさん!」

「やあ、レイナちゃん。相変わらず可愛いね」

「そういうことを言うのはお兄さんのほうですね。弟さんは元気ですか?」

「うん、元気元気! 今日も塾に行ってるよ」

「なんでそんなに遠いんですか?」

「察してくれたらありがたいなー!」


 リオンとレイナは知り合いだったらしい。ノゾムが最初にオスカーと会ったのもこの店だったので、別におかしなことではない。


 レイナの目は、続いてナナミに向く。


「あなたは、ナナミさんですね。ジャックさんの妹さんの」

「なんで知って……」

「ジャックさんもたまにここに来るんですよ〜。懲りずにね」


 懲りずに、とはどういう意味だろう?

 ふふふ、と微笑むレイナの背後は、どこか黒い。


「そちらの彼は……はじめましてですね」

「おお。オレはラルド・ネイ・ヴォルクテットだ」

「私はレイナです」


 さあどうぞ、空いている席へ。レイナはそう言って、ノゾムたちを中へ招き入れた。ちょうどいいことに、お客さんは今はいないらしい。


 これならナナミも、落ち着くことが出来るかもしれない。

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