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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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弓使いの戦い方

「で、どう戦う?」

「……あんたねぇ、策も無いのに挑もうとしてるわけぇ?」


 ナナミの胡乱な目がラルドに向く。ノゾムはウンウン頷いた。つくづくナナミとは、よく気が合う。


 だけど普段のラルドを知っていれば、"尋ねる"だけでも驚きだ。それだけ今回は慎重になっているのだろう。相手が明らかに格上なのだから、それも当然かもしれない。


 ナナミは口元に手を当てて「ふむ」と呟いた。


「そうね。可能性があるとしたら、ノゾムかしら」

「へ?」


 唐突に出てきた自分の名前に、ノゾムは間抜けな声を出す。ラルドは目だけをナナミに向けた。ナナミは眉間にしわを刻んだまま続ける。


「『弓』は間違いなく不遇な武器よ。いくらリアルを追求しているからと言っても、もう少しバランスを考えなさいって言いたいくらいにね。だけど不遇な分、優遇されているところもあるのよ」

「遠距離攻撃が可能ってところ?」


 真っ先に思いつく弓の特徴はそれだ。クルヴェットの訓練所でも言われた。


 弓の最も優れたところは、他の武器にはない圧倒的な射程距離だと。


 だが、それを活かせるだけの射撃能力をノゾムは持っていない。


「それもあるけど、攻撃力が単純に高いのよ」

「そういやそんなこと言ってたね」


 攻撃には『斬撃』『打撃』『刺突攻撃』がある。その中でも『刺突攻撃』は攻撃範囲が狭い代わりに、与えるダメージが大きい。


 当たれば大きいのだ。

 当たらないけど。


 それに――


「あの蜘蛛、矢なんて刺さるの?」


 身体を水晶で覆った、クリスタル・タランチュラ。先ほど背中に当たった矢は、あっさりと弾かれて地面に落ちた。


 あ、でも、ラルドが『ブースト』を使った一撃は脚を砕いたな。クリスタル・タランチュラの身体には、硬い箇所と脆い箇所があるのかもしれない。


「目や関節になら刺さるわよ」

「目!? 関節!?」


 初心者であるノゾムに、そんな箇所をピンポイントで狙えというのか。無理があるにも程がある。


 しかしナナミはあっけらかんと言った。


「至近距離なら当たるでしょ」

「えええええ!?」

「ラルド、まずは私たちでクリスタル・タランチュラを引き付けるわよ!」


 ナナミはそう言って走り出す。ラルドは「おう!」と返事をして、それに続いた。「おう!」じゃねぇよと、ノゾムは全力でツッコミたかった。


「ナナミさんまで無茶苦茶だよ!!」


 ノゾムは叫ぶが、二人は振り向きもしない。ナナミは常識人だと思ってたのに、なんてこった。

 ノゾムは思わず頭を抱えた。



「いや〜、それほど無茶苦茶でもないと思うけどね」



 ふいに横から、聞き覚えのない声が聞こえた。低い、男の人の声だ。


 ノゾムは目を丸めて振り返る。いつの間にか隣に、茶髪の男が立っていた。


 すっと通った鼻筋に、涼やかな切れ長の目。薄い唇に、尖った顎。長い茶髪は後ろでひとつにまとめられ、首には赤い布を巻いている。


 西部劇に出てきそうな格好をしているけど、腰には長い刀。そしてイケメン。俳優か何かかな? と考えて、ノゾムはすぐに首を振る。


(いやこれアバターだし。この人の美的感覚の高さが生み出したイケメンなんだろうな。……俺ももっとカッコよく作れば良かったかなぁ……普通の顔にしちゃったからなぁ……あ、でも背は俺のほうが高)


「おーい、戻ってこーい」


 思考の海にダイブして、なかなか戻ってこないノゾムにイケメンは声をかける。


 ノゾムはハッとした。謎のイケメンは苦笑いを浮かべた。


「俺はジャック。あそこにいるナナミの仲間だ」

「ナナミさんの……?」

「まあ、詳しい話は後で。今はあの蜘蛛を討伐しよう」


 ジャックはびっくりするほど軽い調子で言う。あの水晶蜘蛛を、まるで恐れていないようだ。


「君、名前は?」

「の、ノゾムです」

「ノゾムくん。君も弓を極めようとしているのか?」

「れ、練習中、で……」

「ふうん? ユズルが喜びそうだな」


 何やら含み笑いをするジャック。ユズルって誰だろう。訝しげな顔をするノゾムから目を離して、ジャックはナナミを見た。


「おーい、ナナミー!」


 呼ばれたナナミは振り返ってギョッとする。蜘蛛に向かって走っていた足が、ピタリと止まった。


「ジャック! なんでいるの!?」


 二人が知り合いであるのは、確かなようだ。ジャックは両手を持ち上げて「まあまあ」と返した。


「それは後でな。そいつの足止めをしてくれるんだろう? よろしく〜」

「ジャックも戦ってよ! そしたら楽勝だし!」


 どうやらジャックは、相当に強いようだ。

 彼は再び「まあまあ」と返して、へらりと笑った。


「俺はサポートに回るから」

「はあああああ!!?」

「大丈夫だ、いけるいける」


 適当な感じで告げるジャックに、ナナミの眉間には渓谷のようなしわが出来た。


 ジャックはノゾムを振り返る。


「さあ、行くぞ」


 ……どこに?




 ***




「こいつ、急所はないのか? ここを狙えば即死するってところ」

「あるわよ。首を切り落とすの」

「首だな。……『ブースト』ォォォォ!!!」

「あ」


 ガキィンと甲高い音が響く。水晶蜘蛛の首を目掛けて振り下ろされたラルドの大剣は、蜘蛛に傷ひとつ付けなかった。


 ナナミは可哀想なものを見る目でラルドを見た。


「一定以上の攻撃力がないと、無理なのよ」

「ブーストかけてるのに!?」

「ブーストは攻撃力を2倍にするスキルでしょ? あんたの今のレベルだったら……せめて5倍はないと」

「マジかよ、ブースト無駄にした!」


 【戦士】のファーストスキル『ブースト』。これは一時的に物理攻撃力を上昇させるスキルだ。


 その上昇率は常時の2倍。一度攻撃すると元に戻る。再びスキルを使うには、2分間のクールタイムが必要だ。


「せっかく便利なスキルなんだから、もっと考えて使ったら?」

「オレはブーストが好きだ!」

「ああそう」


 せっかくの忠告をラルドはあっさりと跳ね返す。勝手にしたらいいと、ナナミは早々に説得を諦めた。


「胴体や頭は硬いけど、手足は幾分か脆いわ。それから、目や関節を攻撃すれば、時間はかかるけど倒せる」

「時間はかかるのか」

「HPが多いからね。ノゾムの矢が当たれば、たぶん、そんなにはかからないと思うけど」


 ナナミはちらりと背後を見る。

 ジャックに連れられたノゾムが岩陰に隠れるところだった。


 弓は姿を隠して射つことが大切なのだと、弓バカが切々と話しているのを聞いたことがある。ジャックはそれに従って、まずはノゾムを隠れさせようとしているのだろう。


(ジャックが首を落としてくれたら、すぐに終わるのに)


 ナナミはぷっくりと頬を膨らませて、襲い来る牙をかわした。




 ***




「『オランジュ』って国に忍者がいるんだ。普段は隠れているんだけど、見つけ出せたら【忍者】に転職できるようになる。覚えるスキルに『隠密』ってのがあってさ、それを使うと姿を消すことができるんだよ。弓と相性がいいから、オススメだ」

「はぁ……」

「正面からだとまず避けられるからな。弓は隠れて射つ、これ大事」

「へぇ……」


 たしかに、扉の陰に隠れて放った矢は水晶蜘蛛の背中に当たった。見られながら放った矢は、たいていが避けられた。走りながら射った矢はあさっての方角に飛んでいったが、それは別として。


「隠れるところがなかったら、仲間に注意を引いてもらうのも手だな。あとはジャンプしている途中とか、『避けられないタイミング』を狙うのも有りだ」

「なるほど……」

「ま、弓バカの受け売りだけどな」


 また『弓バカ』だ。

 誰なんだろう、それ。


「ほら、弓を構えて。すぐには射つなよ。蜘蛛の動きと、仲間たちの動きを観察するんだ」


 言われるままに弓を構える。ぐぐっと引いて、そのまま待機。狙いは水晶蜘蛛の目。


「もうちょい上……右……うん、その辺かな? フォロースルーはしっかりな」


 ナナミの短剣が関節を裂き、蜘蛛が悲鳴を上げる。ラルドの『ブースト』で底上げされた大剣が、蜘蛛の脚を砕く。


「よし……放て」


 ジャックの静かな合図と共に、ノゾムは矢を引き絞る手を離した。

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