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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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砂漠のカジノⅡ

 カジノというものは、だいたい2つの種類に分けられると思う。


 ひとつは、いわゆる『セレブ』と呼ばれる人たちが嗜みのひとつとして訪れる、高級感のあふれるカジノ。

 そしてもうひとつが、庶民が集まってお酒でも飲みながら賭け事を楽しむ、市民のためのカジノ。


 雄叫びを上げている人がいたり、泣き叫ぶ人がいたり、酔いつぶれている人がいたりする時点で察せられるが、ノゾムたちが訪れたカジノは明らかに後者の『庶民が楽しむカジノ』である。


 この街、ジャスマンには大小さまざまなカジノがあり、中には高級なカジノもあるそうだが……ノゾムたちは街に入ってすぐのところにあった、この店を選んだ。たくさんの電飾によって建物全体がキラキラと輝いていて、一番目立つ店だったからだ。


 突然現れた金髪のきらびやかな女性は、場違い感がすさまじい。

 シンプルながらも高そうなドレスといい、ふさふさの羽根のついた扇子といい、上品な物腰といい。どう見ても彼女が行くべきカジノは、高級カジノのほうだろうと思う。


 ホールにいる誰もが彼女に注目し、「あれは誰だ」とささやき合っている。

 女性の登場に気付いていないのは、くるくる回るルーレットに夢中になっているナナミくらいのものだ。


 ルーレットの上を回る小さなボールは、ルーレットが止まると勢いよく盤上を回転し、何度か跳ねて、それから動きを止めた。

 ボールが入ったのは、ナナミが選んだ数字とは別の数字。ナナミは膝から崩れ落ちた。



「また外れた……ッ!!」

「だから言っただろうが! ひとつの数字だけに賭けるなって! 確かにそのほうが当たった時の倍率は高いけど、その分当たる確率は低いんだって!」

「だからこそ当たった時の快感がたまらないんじゃない」

「うん、そうだな。普通に賭けを楽しみたいんならそれでもいいんだけどな。お前は金が稼ぎたいんじゃなかったのか?」



「そもそもカジノは金稼ぎには向いてないんだよ!!」と叫ぶジャックを、ナナミはさらりと無視する。なおもひとつの数字にチップを置くナナミは、まったく懲りた様子がない。


 ジャックの言い分のほうがとても理解できるし、ナナミが何をしたいのか、ノゾムにはちょっと分からない。あの調子じゃあ、あっという間に資金が底を尽きるだろう。


 しかしナナミの言動は、あのきらびやかな女性の興味を引いたらしい。


 「ミエル様」と呼ばれていた女性はマスクに隠れていない口元を綻ばせると、ゆったりとした歩調でナナミのもとへと向かった。



「え、ちょ……っ」



 ノゾムは慌てて、スロットを放り出してルーレット台へ向かう。

 ミエルという女性がまだ何かをしたわけではないが、とにかく嫌な予感がした。


 あの笑い方のせいだ。あの、愉快そうな笑みは、どこかノゾムの父親を彷彿とさせる。


 そう、新しいゲームを勧めてくる時の父親と、そっくりだった。



「あなた、大胆な賭け方をなさるのね」



 ミエルがナナミに声をかけた。ノゾムは焦ったが、ナナミはガン無視だ。いや、あれはルーレットの上を転がるボールに夢中になりすぎて、聞こえていないだけか。


 無視したナナミの頭にジャックはチョップを落とす。ナナミはギロリとジャックを睨んで、だけどすぐに視線をルーレットに戻した。


 ミエルは黄金の瞳をぱちくりさせている。


「すみません、コイツ、失礼な奴で……」

「あらあら。人見知りなのかしら?」

「いや……まあ、そうですね」


 ジャックは曖昧に返す。ミエルは扇子を広げて口元を隠した。

 ノゾムは少し離れたところから様子を見守る。ラルドもやって来た。ラルドもゲームを切り上げてきたらしい。


「キレイな人だな〜」


 ノゾムとは違う意味で、ミエルに興味を引かれたみたいだけど。

 ノゾムはずっこけそうになりながら、ラルドに小声で話しかけた。


「本気で言ってる? なんか怪しいな〜とか、思わないの?」

「え? いやまったく。なんで?」

「あの人の笑い方、親父に似てる気がする……」

「マジで? じゃあノゾムの親父なんじゃね?」

「えええええええええ」


 さらりと言うラルドに驚いて、ノゾムは再びミエルを見る。ミエルはどう見ても女だ。だが……ここはゲームの中なので、アバターと現実のプレイヤーの性別が必ず一致するとは限らない。


 あの人が父親である可能性は、確かにある。


「どうしよう……。アバターだとしても、女の人は殴れない……」

「そこはちゃんと確認してからにしような?」


 そういえば、ノゾムは結局オランジュの王フォイーユモルトにも確認を取らずに来てしまった。


 誰が父親なのか、見つけたらぶん殴ってやりたい、という気持ちはあるものの、それ以上に『自分から探してやるものか』という変に凝り固まった意地がある。


 ――俺と一緒に遊びたいなら、親父が俺を探せばいい。


 我ながら拗らせているなとは思うけど、拗らせた原因は絶対に父親にあるとノゾムは思っている。



 ナナミはまたしても予想を外した。がっくりと項垂れるナナミを見て、ミエルは笑みを深くする。


「それではわたくしも、お嬢さんのやり方に倣おうかしら」


 ミエルは扇子で口元を隠しながらそう呟くと、テーブルの上にチップを積んだ。


 ひとつの数字の上に、(うずたか)く。




 ルーレットの賭け方には、いくつか種類がある。

 数字を彩る赤か黒かのカラーや、偶数か奇数かといった『グループ』で賭けたり、いくつか(・・・・)の数字に散らして賭けたり。


 たったひとつの数字に賭けた場合、当選した時の倍率は36倍。赤か黒かで賭けた場合は当たってもチップは2倍にしかならないので、確かに“当たれば大きい”と言える。


 だが、そもそも“当たる確率が低い”からこそ、その倍率なわけで……だからジャックは、ナナミを口うるさく止めようとしていたわけで。


(本気か、この人……?)


 どうしてミエルがわざわざナナミと同じ賭け方をするのか、ノゾムにはさっぱり理解できなかった。

 ルーレットのルールに関しては、一般的なものを参考にしています。

 なんかいろんなタイプがあるみたいだけど、調べてもよう分からんかった(´・ω・`)


 赤と黒、偶数か奇数、1〜12、13〜24、25〜36など『数字のグループに賭ける』ものを“アウトサイドベット”、『数字そのものに賭ける』ことを“インサイドベット”というそうです。へぇ。

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