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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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砂漠のカジノ

 ノゾムはどこにでもいる普通の中学生なので、もちろん生まれてこのかた、カジノになんぞ足を踏み入れたことはない。


 広々としたホールはたくさんの照明で明るく照らされていて、長いウサ耳をつけたバニーガールや、スーツ姿の男性がホールの中を行ったり来たりしている。


 雄叫びみたいな歓声を上げている人もいれば、嘆き喚いている人もいたり、静かにゲームを楽しんでいる人もいたり。

 ルーレットが回る音が聞こえたり、スロットマシーンのピコピコとした音が響いたり……なんというか、とても騒がしくて、熱気に溢れた空間だ。


 ホールの端にはバーカウンターがあって、酔いつぶれている人もいる。……このゲームではお酒で酔うことはないはずなので(仮想空間だし)たぶんあの人は、空気に酔っているとか、そんな感じなのだと思う。



「さーて、稼ぐわよ!!」



 ナナミの目はメラメラと燃えていた。

 ちなみにノゾムが『解体』を習得したおかげで、お金にはだいぶ余裕が出来ている。


「この金を、そのまま渡しゃあいいのに……」


 ぼそりと呟いたラルドにノゾムは首をかしげた。ナナミは稼いだお金を誰かに渡すつもりなのだろうか。

 ジャックは難しそうに眉をひそめた。


「ここまで来てしまったものは仕方ない。いいかナナミ、堅実に行けよ。大穴を狙おうだなんて考えるな。どうせ外れるんだから」

「うるさい!!」


 ナナミはぷんすかと頬を膨らませて、さっそく受付へ向かった。

 カジノで遊ぶには、まずはお金をコインに交換する必要がある。


「せっかくだからオレも遊ぼっと」


 ラルドがそう言ってナナミの後に続く。ナナミを待っている間はきっと暇だろうから、ノゾムもそうしたいけど、残念ながらカジノの遊び方が分からない。


 リオンはバニーガールに見とれている。


「ラルドは遊び方知ってるの?」

「まあ、ルーレットとかスロットとかなら、なんとなくな。カードゲームはブラックジャックくらいしか分かんねぇけど」

「ブラックジャックって医者では?」

「それ漫画だろ」


 作中にカジノが登場するゲームは、けっこうある。ラルドはそういうゲームもプレイしたことがあるので、カジノの遊び方もなんとなく知っているそうだ。


 そういえばノゾムが父親にやらされていたゲームの中も、ミニゲームの一環としてカジノはあった。ノゾムは当然それをスルーした。


 自分に賭け事が向いていないことくらい、ノゾムにも分かっている。


「初心者がカジノで遊ぶなら、オススメはスロットじゃねぇかな? 絵柄を揃えるだけだし」

「ふうん?」


 それならスロットをやってみよう。どうせ暇なのだから。




 ***




 コインを投入してバーを倒す。すると3つのスロットが回りだすので、ボタンを押して、ひとつずつタイミングよくスロットを止める。


 横1列に同じ絵柄が揃うと当たり、揃わなければ外れ。絵柄の種類によって増えるコインの数は変わる。実にシンプルで、なるほど初心者にオススメなわけである。


 ラルドはブラックジャックをしている。ブラックジャックというのは医者のことではなく、トランプを使ったゲームらしい。


 2〜9はそのままの数字として、10、J、Q、Kは“10”として、引いたカードの合計の数字を“21”に近付けるというゲームだ。

 Aは“1”にも“11”にもなれる特殊なカードで、Aと“10”のカードが揃うと“21”ぴったりで『ブラックジャック』になる。

 ちなみに“21”を超えると失格だ。


 リオンはバーカウンターで酔いつぶれている男に声をかけ、何故か一緒にバニーガールを口説いている。


 嫌な顔ひとつ見せず笑顔で対応しているバニーガールは、さすがはプロというべきか。いや、それとも彼女はNPCなのか。

 何にせよ口説かれている当人が迷惑そうではなさそうなので、ノゾムは無視することにした。


 そして、ナナミが勝負に選んだのが、カジノの目玉とも言えるゲーム、『ルーレット』だ。


 数字が書かれたルーレットを回し、ディーラーがその中にボールを投入する。プレイヤーはボールがどの数字に落ちるのかを予測して、チップをテーブル上の賭け枠に置いて賭ける。

 配当の倍率は賭け方によって異なっているらしく、ナナミの隣にいるお目付け役のジャックがさっきからずっと「インサイドベットはやめろ! 堅実に行けって言っただろ!!」と叫んでいる。


 インサイドベットって何だろう……ナナミは「ジャックうるさい!」と叫んで、テーブルの上の賭け枠にチップを置いていた。

 どの数字に置いたのかは……ノゾムの位置からは、ちょっと見えない。


 ノゾムはスロットを回す。絵柄を揃えるって、けっこう難しい。『視力補正』で動体視力は上がっているはずなのだけど、ここではそれが効かないようになっているのかもしれない。


(まあ、暇つぶしにはなるか)


 ノゾムは自分がわりと不運なほうの人間であるという自覚があるので、一気に大金を稼ぐなどという夢は見ていない。


 『解体』を手に入れた以上、普通にモンスター退治しているほうが確実にお金持ちになれるだろうし。


 だがナナミには図書館まで付き合ってもらったので、今度は自分が付き合う番だ、と思っている。

 ナナミがどうしてカジノでお金を稼ぎたいのかは、分からないままだけど。



 そんなことを徒然と考えながらひたすらに絵柄を回していると、ふいに会場内にいるスタッフたちが慌ただしく動き出した。一斉にカジノの入口へ集まって、一列に並んでいく。


「ようこそいらっしゃいました、ミエル様!」


 要人の出迎えだろうか。深々と頭を下げるスタッフたちの前に現れた人物を見て、ノゾムはぱちくりと目を瞬いた。


 まず見えたのは、キラキラと輝く金の髪。波打つそれを後頭部でひとつにまとめている。スーツの男性たちよりも頭ひとつ分抜き出るほど背が高いが、体にピッタリと合った白いドレスが、間違いなく女性であることを示していた。


 顔立ちからして、たぶん美人なのだろうけれど、顔の上半分を何故かマスクで隠していて、そのかんばせを拝むことは出来ない。


 女性は隠れていない口をわずかに緩ませると、広げた扇子で口元を覆った。



「今日は、どんなお客さんが来ているのかしら?」



 優しい声。上品な口調。優雅な物腰は、どこの貴族が現れたんだ? と思うほど。……なのにノゾムは何故か、鳥肌が立った。


 マスクの向こうに見える金色の瞳は愉しげに細められていた。

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