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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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『解体』習得

 リオンは、オスカーから『しらべる』と『踊り』を使うよう言われているはずである。


 これはつまり、モンスターと戦わなくてもいいから、後方支援だけはちゃんとしておけよ、というオスカーなりの優しさを含んだアドバイスだ。


 だが、


「後方支援って、命がけなんだな……!!」

「そうかな?」


 真顔で力説するリオンにラルドは首をかしげる。


 モンスターから逃げ回るリオンは、いまだに一度も『しらべる』と『踊り』を使っていない。ラルドとジャックは、すでに10回以上は『しらべる』を使っているというのに、である。


 ジャックはクククッと喉を鳴らして笑った。


「それにしても、想像以上だな。ここまで見事に逃げていると、逆に笑えてくる」

「うううぅ、ごめんよぉ……」

「気にすんなって。分かっていて仲間にしたんだ。それに、得意不得意は誰にでもある。お前の得意な分野で協力してくれたらいいよ」


 ジャックの大人な対応にリオンは涙目で震えた。感動しているらしい。

 ジャックの言い分は一理あるけど、それでもなんかモヤモヤするなぁと、ノゾムは仕掛けた罠を解除しながら思った。


「あ」


 ふいにノゾムの目の前に文字が現れる。




《新たなスキルを習得しました》




「うわ、やった!」


 ようやく。本当にようやく、狩人のサードスキルの習得である。


「どうしたんだ、ノゾムくん?」

「『解体』を習得しました!!」

「おお、マジか」


 『解体』はモンスターを倒した時に必ずアイテムを落とすようになるスキルだ。


 このゲームのモンスターはなかなかアイテムを落としてくれないが、その分一度に手に入るアイテムの量は多い。『解体』でそれらが必ず手に入るとなれば、あっという間にお金持ちだ。


「『解体』はスキル保有者がトドメを刺すのが発動条件だったはず。これからは、ノゾムくんがトドメ役だな」

「くーっ! 美味しい役回り! オレも早くサードスキルを覚えたいぜ!」

「ラルドは一意専心って言葉を覚えたほうが良さそうだ」

「一位潜水?」


 淡々としたジャックのツッコミにラルドはクエスチョンマークを浮かべる。潜水ではない。


 1つの職業につき、スキルは3つまで。

 狩人のスキルはこれで全て覚えたことになるので、ノゾムはこれから違うスキルを目指すことになる。


 ノゾムが現在転職できる職業は、戦士、魔道士、盗賊、テイマー、忍者、踊り子の6つだ。


 ジャックは顎に手を添えて「ふむ」と呟いた。


「戦士に転職して物理を鍛えてもいいし、盗賊に転職して素早さを強化してもいいけど……。俺のオススメは【忍者】かな」

「忍者ですか」

「たしか『分身』を覚えるはず」

「なるほど忍者」


 自分の体を増やすスキル。

 確かに便利そうではある。


「スキルってこうやって覚えるんだな〜」


 リオンがのほほんと言った。

 ノゾムたちは目をまん丸にしてリオンを見る。


「……知らなかったんですか?」

「うん。オレ、モンスターから逃げまくってるから、レベルも熟練度も上がんないんだよね」


 そういえば、オスカーのレベルはジョーヌに足を踏み入れた時点で、10にも達していなかった。

 片割れがレベル上げをしていなかったからだ。


「レベルと熟練度は、バトル以外でも上げられるぞ? 生産をするとか、スポーツで試合に勝つとか……。まあ、バトルのほうが得られる経験値は多いんだけど」

「そうなのか? 生産もスポーツもしたことないや」

「……お前、このゲームで今まで何をしてたんだ?」

「もちろん交流さ! MMOの醍醐味っていったら、やっぱりそれだろ! 可愛い女の子と遊べたらオレは満足です!!」

「ああ、うん、そう……」


 握り拳をつくるリオンに、さすがのジャックも口を引きつらせている。

 ナナミはドン引きした顔をして、リオンとさらに距離を取った。


 しかし次の瞬間には、リオンは拳を下ろして、しょぼんと肩を落とす。


「なのに何故か、いっつも相手を怒らせて、別れるはめになるんだ。気付いた時には連絡も取れなくなってて……。なんでだろう?」

「モンスターから逃げてるからじゃないか?」

「でもオレは、いつも最初に言ってるんだよ。『モンスターに遭遇したらそっこーで逃げるよ』って。なのに笑って許してくれたのは、サスケたちと、君たちくらいだ。なんでだろう?」


 リオンは首をかしげる。本当に、なんで怒られていたのか分からないという顔だ。

 ジャックは乾いた声で笑って、「なんでだろうな〜」と返した。


 ナナミはリオンの同行を許可したことを、早くも後悔している。




 道中でプレイ時間が終了してしまったので続きは明日にすることにした。

 現在は日本時間で、夜の9時半である。


「まだ9時半だぜ? あと1時間はやれるだろ?」とジャックは言うが、ノゾムは毎日、10時には寝るのである。

 夏休みだからといって、生活リズムを崩すのはよくない。


「いや真面目か。ちょっとくらい夜ふかししても、罰は当たらねぇって。一度くらい徹夜を経験してみようぜ! 朝日が目に染みるっていうのを、体験してみようぜ!」

「うちの母親みたいなことを言わないでくださいよ」


 ノゾムの母親は、おそらく一般的な母親とズレている。息子に夜ふかしを勧める親なんて聞いたことがない。

 夜ふかしして怒られた、という話なら聞いたことあるけど。


 ノゾムたちがいない間にロウが間違って他のプレイヤーから攻撃されてしまわないように、アイテムボックスに収納する。

 今まではカルディナルにある家までわざわざ運んでいたけど、アイテムボックスの中が思いのほか快適なら、その必要はもうないだろう。


 ジャックと、それに便乗したラルドとリオンがブーブー言うけれど、ノゾムは無視してログアウトの準備をした。


「私はノゾムに賛成〜。睡眠時間って大事よね。8時間は確実に寝たいわ」

「健康か!」

「アルベルトが聞いたら羨ましがるぜ!」


 睡眠不足が極まって迷惑なPKと化したアルベルトのことなど、どうでもいい。


 ノゾムとナナミは3人を放置して、さっさとゲームをログアウトした。




 翌日。ゲームの中の世界は、真っ暗な闇に包まれている。

 次に昼夜が変わるのは現実世界で夜中の1時くらい。なので今日は1日、この世界は夜である。


 夜の砂漠は昼よりも少し冷える。現実の砂漠の夜は“少し冷える”なんてものじゃないはずだから、プレイヤーが活動しやすいように、製作側が温度を調節しているのだろう。


 空には満天の星。今まで見たことがないくらい、たくさん星が浮いている。それに感動している暇もなく、モンスターが襲いかかってくる。夜のモンスターは、昼より強い。


 リオンは相変わらず悲鳴を上げて逃げ回り、「夜こわい夜むり」と嘆いているが、ノゾムはむしろ、夜に到着して良かったと思った。


 空に浮かぶ星々に負けないくらい、まばゆく煌めく巨大な建造物群。

 ムタルドの魔法具の店主が「行けばすぐに分かる」と言っていた意味が、よく分かった。


 夜でも明るく騒がしい街。

 それがカジノの街、『ジャスマン』だ。

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