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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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逃げるは恥だが

 ムタルドに来た時と同様にヒッポスベックに乗って移動したかったのだが、初めてヒッポスベックを見たリオンが悲鳴を上げて縮み上がってしまったので、ノゾムたちは仕方なく徒歩で移動することになった。


 魔法具の店主の話によると、『ジャスマン』は山を越えさえすればすぐに着くとのこと。徒歩で移動しても、そんなに時間はかからないらしい。


 それにヒッポスベックに乗っているとバトルが出来ない。道中のモンスターを、強靭な脚で蹴り飛ばしていくからだ。

 バトルが出来ないとなるとスキルを習得するための熟練度を上げる機会もなくなるということなので、まあ、経験値を上げるためにも、歩いて移動するのもいいだろう。

 ヒッポスベックのほうが快適なのだけれども。


 ナナミのそばにはグラシオがいて、リオンはそんなグラシオからかなり離れてついて来ている。

「5メートル以内に近寄らないで」とナナミは言っていたけど、そんなことを言う必要はないくらい、リオンの位置はめちゃくちゃ遠い。


 あまりに離れすぎていて、一緒に冒険していると言えるのか? とちょっと疑問に思うくらいだ。



「リオン、ちょっと遠すぎないか?」



 さすがに気になったらしいジャックが声をかける。ちなみにナナミとリオンの距離は、10メートル以上ある。

 リオンはぶんぶんと首を横に振った。


「こうして女神について行かせてもらっているだけで、十分です!」

「うーん。いろいろとツッコミたい部分はあるけど……」


 女神とか、女神とか、女神とか。

「ナナミは女神って柄じゃないよ?」とつぶやくジャック。


 ナナミはそんなジャックのことも、リオンのことも、ガン無視している。


「あんまり離れすぎるとさ、モンスターに襲われたり……」

「ほんぎゃあああああああっ!!」

「ああ、言わんこっちゃない」


 どこからともなく現れた3匹の大ネズミ。人間でいうと5歳児くらいの大きさで服を着ていて、二足歩行。手には原始的な石の斧を持っている。


 岩山の陰にでも隠れていたのだろうか。

 ネズミたちがノゾムたちとリオンのちょうど中間地点に登場したことで、リオンは分断されてしまった。


 リオンはネズミたちを見てガクガク震えている。ネズミたちはノゾムたちとリオンを交互に見て、リオンに狙いを定めた。

 あっちはひとりなのだから、それは当然の判断だと言えるだろう。


 リオンは逃げた。脱兎のごとく逃げた。

 ネズミたちはリオンを追う。逃げた獲物を追いかけるのは、野生の本能というべきか。


「いやあああああああああああああああああ!! 助けてえええええええええええええええええ!!」

「あーあ……」


 リオンが逃げて、ネズミたちがそれを追うものだから、ノゾムたちとの距離は離れる一方である。ノゾムは弓を構えた。急がなければ、どんどん距離が開いていく。


 ノゾムが矢を放つのと同時に、ジャックとラルドは駆け出した。ジャックのほうがラルドより速い。


 矢は3匹のネズミのうち、1匹の脚を貫く。そこへジャックが飛び込んで、トドメを刺した。


 このネズミ、それほど強くはない。


「っと、忘れるところだった。『しらべる』!」

「あ、オレも!」


 ネズミたちを倒し終える前にジャックとラルドは習得したばかりの【学者】のスキルを使う。この機会に少しでも熟練度を稼ごうというのだろう。


 『しらべる』を使い終えたあとは、サクッと倒してしまう。

 リオンは「ひええええ」と情けない声を上げて、尻もちをついた。


「…………まあ、こんな感じでさ、モンスターに襲われるかもしれないから、あんまり離れすぎるなよ」

「わわわわ、わか、わかったぁぁぁぁ!!」


 リオンは泣きべそを掻きながら、四つん這いで駆け寄ってきた。これでリオンが孤立することはない。ナナミとの距離は、相変わらず開いているけど。


 ナナミとの約束を守っているというよりは、あれはきっと、グラシオが怖いんだろうな。


「ありがとう、助けてくれて……」

「気にすんなって」


 ぐすんと鼻を鳴らして感謝の言葉を述べるリオンに、ジャックはクールに口角を上げる。「とーぜんだろ!」とラルドも親指を立てた。ナナミはガン無視だ。


「ノゾムくんも、ありがとう……」

「え? いや、別に大したことじゃ」

「オレ、君には嫌われていると思ってた」

「なんでですか?」

「なんか冷たいし、モンスターをけしかけてくるし」

「ロウは可愛いです」

「はわあ!! そそそそそそうですねお願いだから近付けないでぇぇぇぇ!!」


 ロウを抱きかかえて近付けると、リオンは奇声を上げて後退した。せっかく縮まった距離が、また開いてしまう。


「そうですね」って、絶対に「そう」思っていないだろう。

 ノゾムは唇を尖らせた。


「別に嫌ってはないですよ。嫌いになるほど関わってないですし。好きでもないですけど」

「うんオレ頑張るね!!」


 リオンは涙目で宣言する。何を頑張るつもりかは知らないが、ノゾムはまあいいかと肩をすくめた。


「しっかし、見事な逃げっぷりだなぁ。『恐怖に立ち向かえ』ってのが、お前んちの教えなんじゃねぇの?」

「なぜ我が父の教えを知っている!?」

「オスカーに聞いた」


 さらりと答えたラルドに、リオンは「なるほど」と頷いた。


 恐怖に呑まれるな。

 よく調べ、知り、乗り越えろ。


 これがオスカーたちの父親の教えらしい。


「父さんのことは尊敬しているし、愛しているけどさ。オレはその『教え』が嫌いなんだよ。よく調べた上で『やっぱ無理!』って思ったら、そこは逃げるべきだって思う!!」

「それはまあ……確かにな」

「だからオレは逃げるのです!!」

「自信満々に言うな」


 拳を握りしめて力説するリオンに、ジャックたちは呆れた顔をする。


 ノゾムはなんだかモヤモヤした。

 リオンのことは好きでも嫌いでもないが、見ていると、なんかこう……胸にモヤモヤしたものが集まってくる。


(なんだろ……)


 胸に手を当てて首をかしげるが、答えは出ない。そうこうしていると再びモンスターが現れた。今度は二足歩行の巨大なトカゲだ。リザードマンというやつだ。


 リオンは再び「ほんぎゃああああああああああ!!」と悲鳴を上げて逃げていった。


 ノゾムはちょっとだけ、イラッとした。

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