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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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迷宮図書館Ⅷ

 再び中庭を横切って、大広間へ戻る。


 すぐそばを通っても、ナナミはやっぱり気付かなかった。

 この集中力は、ある意味とんでもない才能だと思う。


 大広間に到着したオスカーたちは、さっそく窓のカーテンを外し始めた。

 オスカーとラルド、ジャックが協力し合いながらカーテンを取り外す様子を、ノゾムとロウはぼんやりと眺める。


(『光る石』もそうだけど、これ、勝手に外しちゃっていいのかな……)


 しかし許可を得ようにも、この図書館の責任者が誰か分からない。


 あの秘書だか司書だか言っていた三つ子たちがそうなのかもしれないが、あの子たちがどこに行ったのかも、分からないし。


「うーん……」

「どうしたんだ、ノゾムくん?」

「いえ……。俺、もう本を読んでいていいですか?」

「もちろん。ありがとうな、おかげで助かったよ」


 にっこりと爽やかに笑うジャックにペコリと会釈して、ノゾムは踵を返した。


(まあいっか)


 面倒くさくなったノゾムは、思考を放棄することに決めた。




 ***




 回り道に見えても無駄ではなかったと、オスカーは心底から思う。


 『魔法の羽根ペン』で作られた城の地図には、空白部分がほとんどない。

 これは、三つ子たちを追いかけ回しているうちに、勝手に埋まっていったからだ。


 すべての隠し通路・隠し部屋を見つけ出せてはいないだろうけど、そのおおよその位置は推察できるくらいに、地図はほぼ出来上がっている。


「すいません、ちょっと失礼します」

「お邪魔しまーす」

「ごめんな〜」


 図書館の利用者たちに侘びながら、オスカーたちは本棚をカーテンで覆う。

 光る本がないことを確認すると、今度は『光る石』を本にかざしてみて、反応がないか確認していく。

 無駄なくテンポよく、ひとつひとつに時間をかけないように。


 左腕のリングに目を向けてみれば、ゲームのプレイ時間はもうすぐ終わることを示している。

 受験勉強をしなければならないオスカーは、ここでログアウトしたら、おそらくまたしばらくはログインできない。


 まあここへ来る前の兄の様子を思えば、ログインできない間に兄にめちゃくちゃにされる心配は、たぶんないのだろうけど。




 やがて到着したのは、城の最上階にある、おそらく王の寝室だと思われる部屋だ。


 その部屋にも本棚がたくさん並んでいる。大きなベッドを取り囲むように、みっちりと。


 本棚に詰まっているのは、世界各地のミステリー小説だ。


「『シャーロック・ホームズ』だ! さすがにオレでも知ってるぜ!」

「世界で一番有名な名探偵だもんな」

「コナンくんによく出てくる!」

「漫画の知識だった」


 珍しくラルドが嬉々として本を指差したかと思ったら、理由はそんなものだった。


 ジャックは「うーん」と難しそうな顔をする。


「なんで寝室にミステリーなんだ? 普通、寝室っつったらさ、大人の本じゃねぇの?」

「ここで殺人事件でもあったんじゃないのか?」

「え、王様殺されちゃってるの?」


 ジャックはドン引きした。そんなことはもちろん、オスカーは知らない。


 3人で協力して、本棚にカーテンをかける。

 隙間から中を覗いて、オスカーは目を見開いた。


「あったぞ!」


 びっしりと詰め込まれた本の中に、星のように淡く輝く本が1冊だけあった。

 カーテンを取り払い、その1冊を手に取る。


 すると、オスカーたち3人の目の前に文字が浮かんだ。




《【学者】に転職できるようになりました》




 これが『グリモワール』であるという証拠だった。


「よっしゃああああああああああああああああああああッ!!」


 両の拳を突き上げて、歓声を上げるラルド。

 『グリモワール』はパッと姿を消した。


 中身を見ることは叶わなかったが、プレイ時間内に無事に見つけ出せて、オスカーはホッと安堵の息を吐いた。


「これで『収縮』が使えるんだな!」

「ああ」


 興奮が収まらない様子のラルドに、ジャックは頷く。


「熟練度を上げなきゃいけないけどな」

「なーんだ。ファーストスキルじゃないのかよ」

「おう。サードスキルだそうだ」

「サー……」


 ラルドはあんぐりと口を開けた。

 オレンジ色の目がまん丸に見開かれ、ぱくぱくと口を開閉する。


 サードスキル。

 つまり、三番目に覚えるスキル。


「さっきの『職業図鑑』に書いてあったんだよ。【学者】のファーストスキルは『しらべる』。セカンドスキルが『拡散』。そして最後に覚えるのが『収縮』だ」


 『拡散』というのは『収縮』とは反対で、魔法の威力を下げる代わりに効果範囲を広げるスキルらしい。

 そして『しらべる』は、かけた対象のステータスと、持っているスキルを表示するスキル。


 いかにも【学者】らしいスキルだ。


「マジかよ!? サードスキルって、習得すんのめっちゃ大変なんだぞ!!」

「そうなんだよなぁ。とにかく、スキルを使いまくらないとな」


 熟練度はその職業のスキルを使用した時に、少しずつ増えていく。

 しばらくはモンスター、プレイヤーを問わず、とにかく『しらべ』まくらないといけない。


「まあ何にせよ、目的は達成できたんだ。ラルド、オスカー、手伝ってくれてありがとな」


 にっこりと笑って礼を言うジャックに、オスカーは「おや?」と思った。


 ジャックの雰囲気が、なんだか今までと違って見えたからだ。


「もう絶対にあんたを手伝ったりしねぇ!!」


 ジャックの変化になどまったく気付かないラルドは、びしりとジャックを指差して、そう宣言する。


 ジャックはそれに気を悪くした様子はなく、クツクツと喉を鳴らして笑った。

『シャーロック・ホームズ』

 アーサー・コナン・ドイルが19世紀後半から20世紀にかけて書いたミステリー小説の主人公。

 依頼人を一目見ただけで職業や生活環境などを言い当てる鋭い推理力を持っており、名探偵の代名詞とされる。

 ホームズの熱狂的なファンは「シャーロキアン」と呼ばれており、日本で一番有名なシャーロキアンは、おそらく江戸川コナンくんである。


『名探偵コナン』

 青山剛昌 作

 1994年から週刊少年サンデーで連載が始まった推理漫画。

 1996年にはアニメ化され、翌年1997年からは毎年劇場版映画が上映されている。(ただし2020年に公開予定だった『緋色の弾丸』は2021年に延期された)

 既刊99巻(2021年8月現在)

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