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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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迷宮図書館Ⅶ

 中庭を横切って、(うまや)へ向かう。ベンチに座っているナナミは深く集中しているようで、目の前を通るノゾムたちには気付いていないようだった。


 ノゾムたちはそんなナナミの集中を邪魔しないように気をつけて、城の裏手へ回る。そこに、厩舎はあった。


 厩舎の中に、本来いるはずの馬の姿はない。がらんとした広々とした厩舎には、空っぽの餌箱が置いてあるだけだ。


 餌箱をどけると、地面に鉄の扉が出てくる。取っ手を引っ張ると、中には階段。ここが地下への入口だ。


「こんなところ、よく見つけたなぁ」

「俺も教えてもらったんだよ。うっかり地下通路に落ちちゃってね」

「さすがノゾムだぜ」


 ラルドは感心したように言うが、ノゾムはなぜ褒められたのか分からない。


 オスカーが中を覗き込んだ。


「中は暗そうだな」

「そうですね、灯りがないので……。道も入り組んでいて、迷路みたいになっているんです」

「小部屋までの道は覚えているのか?」

「大丈夫です」


 ノゾムは自信満々に答えた。


「ロウがいるので」

「アン!」


 尻尾をふりふりするロウを見て、なぜかオスカーは無言になった。




 ***




「あったぜ! 光る石!」


 小さなテーブルの上に置かれていたそれを、ラルドは高々と持ち上げる。


 大きさは野球のボールくらい。大広間を照らしていた石よりも、ずっと小さい。持ち運びに便利なサイズだ。


 これなら本を棚から出さずに、光を当てることができる。


「でも……今更だけどさ、勝手に持って行っちゃってもいいのかな?」


 この石のことを教えたのはノゾムだが、今になって急に不安になってきた。


 秘書だか司書だかヒツジだかの三つ子たちは、この部屋のことを“自らの意思で探求する者のみが見られるヒント”だと言った。


 ラルドは自分たちこそ“探求する者”だと言ったが、きっと他にも“探求する者”はいるはずで……。その人たちが運良くこの部屋に辿り着いたとき、灯りがなかったらすごく困るんじゃなかろうか。


「大丈夫だって。終わったらすぐに戻せばいいんだよ」

「そうかなぁ」

「そうだよ」


 そうなんだろうか。楽観的なラルドの様子に、ノゾムの不安はちっとも消えなかった。


「ここにあるのは、みんな作中作か」

「あ、はい。そうみたいです」


 オスカーは小部屋にある本棚を見ている。モンスター図鑑やアイテム図鑑などを見て、「大広間に置けばいいのに」と呟いていた。


 この本棚に入っているのは、どれも冒険の役に立ちそうなものばかりだ。オスカーがそう思うのも無理はない。

 ノゾムも、こんな隠された部屋の中ではなく、もっと人目につく場所に置けばいいのにと思った。


 けれどもあの三つ子たちいわく、それではダメらしい。

 これは“自らの意思で探求する者のみが見られるヒント”なのだ。

 誰でも見られるものではないのである。


 ジャックは「ふーん」と本棚を眺めた。


「ここに『グリモワール』があったりして……」

「あ、なかったです」

「確認済みか〜」


 即答したノゾムに、ジャックは残念そうに肩を落とす。

 そうしている間にも、オスカーは本棚に並ぶタイトルを指でなぞっていった。


「毒草と薬草の見分け方……職業図鑑……分厚いな。職業ってこんなにあるのか」

「習得スキルと転職条件が書いてありました。といっても、スキルは名前だけでどういう効果があるのか分からないものが多かったし、転職条件は本当に条件だけで、具体的な方法は書いていなかったです」


 たとえば【テイマー】への転職条件は『愛』だったし、【学者】への転職条件は『グリモワールを見つけること』だった。


 どうやってそれを成し遂げたらいいのか、一番重要な部分は分からないままだ。


 オスカーはぱらりと本をめくる。


「……確かに。【精霊術士】の転職条件は『精霊と仲良くなること』……だがそもそもどこに精霊がいるのかという話だしな」

「え、精霊術士なんてあんの? カッケェな!」

「俺、これメモ取っておこう」


 ジャックはメニュー画面からメモのページを出して、オスカーから職業図鑑を受け取った。


 すごく分厚い本だから、写すのは時間がかかるだろう……ノゾムはそう思ったが、ジャックのキーボードを打つスピードはめちゃくちゃ速い。


 そういえば動画投稿をしているという話だったし、編集作業などでタイピングには慣れているのかもしれない。


「他には……魔法の本があるな」

「グリモワールではなかったです。魔法を系統別にまとめたもののようでした」

「……お前、けっこうしっかり読んでいるんだな」

「しっかりとは読んでないですよ。ざっくりとだけです。一応、ここにある本は一通り目を通しましたけど」

「内容をざっくりと覚えているだけで、十分だ」


 オスカーはそう言って、本をめくる。

 その手が突然、ビクッと跳ねた。


「し、『死霊術』なんてのもあるのか……」

「死霊術? ネクロマンサーか!?」

「なんで目を輝かせるの……」


 夕日色の瞳をキラキラさせるラルドにノゾムはドン引きした。


 オスカーはいったん息を吐いて、何事もなかったように次のページをめくる。


 『死霊術』という単語は、見なかったことにしたらしい。


「物体に魔法をかけることも可能なのか。外に浮いている水球は、これを応用したものかな……。魔法がかかったものを見分ける方法……」


 オスカーは口元に手を当てた。

 眉間にしわを刻み、ジャックを振り返る。


「ジャック。『グリモワール』は、発見されると保管場所が変わるという話だったな」

「ああ。ダンジョンの宝箱と同じだ」


 ジャックはキーボードを叩く手を止めないまま、淡々と答えた。


 ダンジョン内の宝箱は、誰かが中身を取ると、ダンジョンの別の場所に復活する。

 これは、最初にダンジョンに入ったプレイヤーしかアイテムを手に入れられない、ということを防ぐためのシステムなんだそうだ。

 アイテムを入手する機会は、すべてのプレイヤーに、平等に、ということなのだろう。


「そういう魔法がかかっている、とか?」

「んー? 魔法? プログラムだろ?」

「……場所が変わるのが魔法なら、『星を探す』の意味が分かったかもしれない」


 キーボードを叩くジャックの手がぴたりと止まる。

 ジャックの目がオスカーへ向いた。


 オスカーは無言のまま、手にした本を差し出した。


「魔法がかかっている物体は、淡く光っているらしい」

「それが何……いや、あー、そういうことか」


「なるほど」と頷くジャック。

 ノゾムには、何が「なるほど」なのかさっぱり分からない。


 見れば、ラルドも怪訝な顔をしている。


「どういうことだ?」


 眉を寄せて問いかけるラルドに、オスカーは目を向けた。


「星は光っているだろう?」

「そうだな」

「どうして昼間は見えないんだと思う?」

「昼間だからだろ?」


 何を当たり前のことを、と首をひねるラルド。

 オスカーは「そういうことじゃない」と呆れた顔をする。


 ノゾムはそんなラルドとオスカーを交互に見て、しばし逡巡した。


 オスカーが持っているあの本。あの本には、何と書いてあったっけ?


「……光の中で、光は見えない?」

「そうだ。昼間に星が見えないのは、外が明るいからだ。では『星を探す』にはどうすればいいのか」

「辺りを暗くする……あ、そっか」


 もしも、もしもオスカーが言ったとおり、グリモワールに『発見されると保管場所が変わる』という魔法がかかっているとしたら。


 魔法がかかっているために、その本は明るい部屋の中では見つけられない程度に淡く、光を放っているとしたら。


 周囲を暗くするだけで、簡単に見つけることが出来る。


「それじゃあ、この石はいらねぇの?」

「『魔法がかかっていたら』が前提だからな……。これが正解だとは限らないし、一応持っていこう」

「持っていくんですね……」

「待って待って、もう少しでメモ終えるから……!」

「もう終わんの? タイピング速すぎねぇ?」

「全部写しているわけじゃないからな!!」


 知っているところは飛ばしてるんだよ、と凄まじいスピードで打ち込みながらジャックは言う。


 そうして間もなく職業図鑑をメモし終え、一同は『光る石』を持って小部屋を出た。


「『暗闇』は遮光カーテンでも使って作るか。大広間の窓にでかいのがあったはず」

「ここまで大変だったなぁ。普通に本棚を巡ってるほうが、実は早かったんじゃねぇの?」

「運が良ければそうだろうな。何しろ蔵書量が半端ないから、運が悪ければ、何週間もこの城に篭もらなければならなくなるだろう」


 淡々と答えるオスカーの言葉に、ラルドは「うへぇ〜」と顔を歪める。

 オスカーは『光る石』に照らされた通路の先を見据えた。


「回り道に見えても、これまでのことは決して無駄じゃないはずだ」

 グリモワール探しも間もなく決着。

 明日も更新します。

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