迷宮図書館Ⅱ
「ここは……食堂か?」
オスカーたちは、木製のテーブルがいくつも並ぶ、だだっ広い部屋に到着した。壁際にはこれまたたくさんの本棚が並んでいて、本がたくさん詰まっている。
部屋の奥にあるもう一つの扉を開けてみれば、大きな石窯のあるキッチンがあった。
「使用人用の大食堂ってところかな。偉い人が使うにしては、ずいぶんと質素だし」
「ここにあるのは料理の本ばっかだな」
ラルドが本棚を眺めながら言う。確かに、棚に詰め込まれているのは世界中の料理に関連する本ばかりだ。
食堂だからだろうか?
ジャンルは、部屋によって分けられているのかもしれない。
オスカーは口元に手を当てて考えた。
(大広間にあったのは児童書だったな……。もしかして、これがヒントになるのか? いやでも、『グリモワール』は発見されると保管場所が変わってしまうという話だったし……)
そもそもグリモワールをジャンル分けすると、何になるだろう?
『グリモワール』は『魔導書』という意味だ。
「食堂やキッチンといえば、ゲームじゃ王様の部屋とつながっていたりもするよな」
ジャックがふと思い出したように呟く。
ラルドが大きく頷いた。
「おう。王様が夜な夜なこっそりつまみ食いしてたりしてな」
「つまみ食い用じゃなくて、いざという時の逃走用の通路だろうけどな……」
隠し通路というものは、だいたいが有事に備えて存在している。
王様とか偉い人たちが逃走するためだったり、敵に侵入された時に先回りして敵を挟み撃ちにしたり。
「ここには食材を運び入れるための扉があるし……隠し通路がないか、調べてみよう」
「おう!」
そんなわけで、オスカーたちは手分けをして、キッチンと食堂を捜索することにした。
***
城の部屋の多さは、住み込みで働いていた使用人が多かったことを表している。
人数が多ければ、作る料理の量ももちろん多いわけで。その分、キッチンも食堂も、なかなかの広さがあった。
「キッチンには本がないんだな」
「本に、湿気と火気は厳禁だからな」
食器棚の後ろ、地下のワインセラー、食料庫など、いかにも怪しげなところを調べていく。
石窯なんて大きすぎて、大人でも余裕で入れそうだ。こういう場所にこそ、隠し通路は存在していそうだけど……。
オスカーはそんなことを思いながら石窯の中を覗き込んだ。
3対の目がそこにあった。
「うわああああああああああああっ!!?」
オスカーは派手にひっくり返る。
離れたところを調べていたジャックとラルドは、その悲鳴を聞いてギョッとした。
「どうした、オスカーくん!?」
「魔物か!? ユーレイか!?」
「幽霊なんかいてたまるか!!」
「いるかもしれないじゃん、ゲームの中なんだし!」
石窯の中の影が、もぞもぞと動く。固唾を飲む3人の目の前に姿を現したのは、黄色の髪、黄色の目を持った、まったく同じ顔をした3人の子供たちだった。
オスカーたちは拍子抜けした。
「三つ子……か?」
「三つ子じゃないよ!」
「三つ子だよ!」
「コイツらとは赤の他人さ!」
「どっちだよ」
よく分からない返事をする子供たちに、ラルドが思わずといった様子でツッコミを入れる。
オスカーは眉をひそめ、子供たちと石窯を交互に見た。
「こんなところから出てくるなんて……この中はどこかに繋がっているのか?」
「どこにも繋がってないよ!」
「隠し通路があるよ!」
「煤だらけになるだけさ!」
「どっちだよ」
再びバラバラな返事をする3人に、ラルドはまたツッコミを入れる。
「煤だらけに、ねぇ……」
ジャックはジロジロと子供たちを見た。石窯から出てきた子供たちは、とても綺麗な身なりをしている。
同じ形の白いシャツ、紺色のベスト、それに灰色の短パン。
良い所のお坊ちゃん、といった恰好だ。
子供たちは「ふふふっ」と楽しそうに微笑んで、キッチンから出ていった。
「なんなんだ、あいつら」
ラルドは頭上に疑問符を浮かべた。
ジャックはにやりと口角を上げる。
「少なくとも、『煤だらけ』は嘘だな」
「ああ。石窯から出てきたあいつら自身が、汚れていなかったからな」
オスカーは改めて石窯の中へ入る。
窯の中は、綺麗に掃除されてあって、埃ひとつ落ちていない。
そして、
「梯子がある」
窯の側面には、鉄で出来た梯子が取り付けられていた。
上のほうへ続いている。
「よし、行ってみよう」
「それにしてもオリバー、すげぇ悲鳴だったな」
「オスカーだ」