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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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遺跡都市ムタルド

 そこにはかつて、城郭都市があったのだろう。

 山のふもと。都市をぐるりと囲む、ところどころ風化した壁と、街のあちこちにある古い建物。

 そして太陽が描かれた、古い石版。


 石版にはやはり『スフィンクスのなぞなぞ』が刻まれており、裏側には例の言葉も彫られている。



“欲しがるばかりの者に道は示されず。

 与えよ。さすれば与えられん”



 この都市遺跡が一度は放棄され、とても長い間誰も住んでいなかったことは、きっと事実。

 だけど今は、人が住み、古い建造物と共に小綺麗な建物も並んでいる。


 都市遺跡のリノベーション。古さと新しさが融合する街。新しい建物はいずれも遺跡の雰囲気を壊さぬよう、景観を損なわぬよう、計算して作られたことが見て取れる。


「壮観だな」


 オスカーが上空を見上げながら呟いた。

 ノゾムも頷く。


 古さと新しさが融合する街。その上空には、どういう原理なんだかさっぱり分からないが、巨大な水で出来た球体がいくつも浮かんでいた。


 球体の周りには、淡く輝く魔法陣がある。魔法の力で浮いている……という設定だろうか。太陽の光が水面に反射して、キラキラと煌めいている。


「バザールの東にあった遺跡のように、この都市も水源の枯渇が原因で一度放棄されたのかもな。それを、あの魔法陣のおかげで復活させることが出来た……といったところか」

「相変わらず設定が細けえなぁ」


 うん、細かい。

 だけど、すごい街だ。


 剣と魔法とモンスター。そういったファンタジー要素は今までもあったけど、こんなにもファンタジー色の強い街に来たのは初めてじゃなかろうか。


 店には強力な杖や、“属性”付きの武具が売られている。

 以前ナナミがダンジョンで使っていた『魔法玉』や、自動マッピングが出来る羽根ペン、羊皮紙なども売られていた。


「魔法に関するものが多いのね」

「さすが『グリモワール』がある街だなぁ」


 ナナミの呟きにジャックが答える。

 その内容に、ノゾムは首をひねった。


「グリモワールって、何ですか?」


 ジャックはニタリと笑った。

 よくぞ聞いてくれたと、言わんばかりに。


「気になる? ノゾムくん、気になっちゃう?」

「あ、やっぱいいで――」

「それなら仕方ないなぁ。すっごくレアな情報なんだけど、教えてあげよう!」


 聞いちゃいねぇ。


 というか、そんなにレアな情報だというならもっと声を抑えたらいいのに。

 オスカーとラルドも「なんだなんだ」とこちらを振り返っている。


 困惑するノゾムをジャックはまるっと無視した。

 ナナミはなんだか呆れた目でジャックを見ている。

 ジャックは人差し指を立てて、「実はな」と言った。


「この街の図書館に、超レアな職業に転職できる条件があるんだよ」

「超……レアな職業?」

「お前たちもバトルアリーナで見ただろう? 魔法を圧縮させて放つ『収縮』っていうスキル。【学者】のスキルだ」


 ああ、とノゾムは思い出す。

 エシュという名の少年魔道士が使っていたスキルだ。


「学者……?」


 そんな職業もあるのかと、オスカーは目をしばたかせた。


「えっと、魔法の範囲を極端に狭めて、威力を上げるスキルです」

「ふうん? 便利そうだな」

「そうだろう、そうだろう。そう思うだろ、オスカーくん」


 ジャックはうんうん頷いた。


「その【学者】に転職する条件がな、『グリモワール』を見つけることなんだ」

「ほう」

「そしてその『グリモワール』は、『迷宮図書館』の中にある」

「マジかよ。なんでそれをもっと早く言わねぇんだよ!」


 キラキラと目を輝かせるラルド。

 ノゾムは「なるほど」と思った。ジャックが同行した理由は、それだったのか、と。


 興味津々といった顔をするラルドをちらりと見て、ジャックは「レアな情報だって言っただろ」と返す。


「本当は教えたくなかったのさ」

「ならどうして、今になって話したんだ?」

「いや〜、それがさ、ここの図書館の蔵書量が半端ないらしくてな。ひとりで探すのは大変そうだな、と」

「……ようは人手が欲しかったのか」


 オスカーの指摘にジャックは「そういうこと」と笑顔を見せる。

 教えてあげた代わりに手を貸して欲しいということらしい。


「ジャックさんって、けっこうズルい人……?」

「今さら気付いたの?」


 ノゾムの呟きにナナミはため息混じりに返した。


「本当に腹立つやつだな〜。でもまあ、利用されるのは癪だけど、オレも『収縮』は欲しいし、手を貸してやるか!」


 いかにも仕方ないと言わんばかりに、ラルドはジャックの協力を請け負う。


「助かるよ」


 ジャックはにこりと笑った。


「言質は取ったからな」

「え?」




 ***




 『迷宮図書館』は街の上のほうにあった。もともとは王宮だったのだろう、高い塀に囲まれた立派な城だ。

 エントランスを抜けて広間に入れば、そこには天井近くまで敷き詰められた本棚がずらりと並んでいる。


 もともと城だっただけあって、部屋数は多いし、隠し通路や隠し部屋も複数存在するらしい。


 『迷宮図書館』の名のとおり、内部は迷路のように複雑に入り組んでいる。


「すっ……げぇな。これ、全部で何冊あるんだよ?」


 あっけにとられたラルドは呆然と呟く。


「うーん。何十億とか、何百億とか」

「なんじゅう……おくぅ!?」

「手伝ってくれるんだろ?」


 ジャックはニヤニヤ笑ってラルドを見る。

 ラルドは魚のように口をパクパクさせて、ぐるりとナナミを振り返った。


「お前の兄ちゃん性格悪いぞ!!」

「今さら気付いたの?」


 ナナミはやっぱりため息混じりに返した。

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