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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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隠しエリアの探索

「これを見てくれる?」


 ナナミがそう言って取り出したのは羊皮紙の束だ。紙にはビッシリと地図が描かれている。


「このダンジョンで作った地図なんだけど」

「いっぱいあるな〜」

「まあ、20階分はあるからね」


 20階。

 ノゾムとラルドは目をひん剥いた。


「1人で地下20階まで行ったのか!?」

「え? ……いやまさか。仲間と一緒よ」


 ナナミにはちゃんと仲間がいるらしい。1人で行けるわけないでしょ、とナナミはあっけらかんと言った。


「今回は浅い階層で採集をするのが目的だったから1人だったけど……。ていうか、そんなことはどうでもいいのよ。これを見て。地下5階の地図なんだけど、他の階に比べて、ここだけとっても狭いでしょう?」

「本当だ」


 並べられた地図を見ていると、地下5階の狭さがやけに目立つ。


「隠しエリアがあるんじゃないかなーって、前から思っていたんだけど、いくら調べても入口が見つからなかったの」

「ふうん? つまりオレたちが落っこちてきた落とし穴が、その入口だったってことか」

「そういうこと」


 スライムは地下4〜5階あたりによく出てくるモンスターなのらしい。つまり、現在いるこの場所は、地下5階の隠しエリアなのではないかとナナミは言った。


 ラルドは納得したように頷き、ノゾムは渋面を作る。


「それじゃあ、どうやって出たらいいの?」


 入口がないということは、出口もないということなんじゃないのか。


「たぶんだけど、こっち側からじゃないと開けられない道があるのよ」

「いざとなれば『アリアドネの糸』を使えばいいしな!」


 大丈夫だろ、とラルドは楽観的に言う。

 ノゾムはいっそう苦い顔をした。


 『アリアドネの糸』で脱出してしまった場合、また『Ko-ichi』探しのためにこのダンジョンに潜らなければならなくなる。

 それはとっても面倒くさい。


 ノゾムは頑張って出口を探そうと思った。



 このエリアにはスライムの他に、巨大なナメクジや、水晶が尻にくっついたアリのようなやつ、コウモリのようなモンスターが出現した。


 スライム以外には物理攻撃が効く。 


 ラルドの剣がアリを砕き、ナナミの短剣がコウモリを斬り裂いた。


「おおーいノゾム、弓の練習をするチャンスだぜー?」

「ナメクジキモい、アリこわい、コウモリ気味悪すぎる!」

「……よく見りゃ可愛くね?」

「どこがだよ!?」


 ラルドは感性がおかしいんだと思う。というか『可愛い』それらをよく容赦なく倒せるな。モンスターだから当然、とでも考えているんだろうか。


 ノゾムは渋々矢を取り出した。放った矢はナメクジのわずか右に落ちた。


「あー、惜しい!」

「でも狙ったほうには飛んでいるみたいじゃない。威嚇や誘導には使えるんじゃない?」

「威嚇や誘導?」


 ノゾムは首をかしげてナナミを見る。

 ナナミは頷いた。


「モンスターはこっちの攻撃に怯んだり、避けようとしたりするのよ。それを利用して味方のいるほうへ誘導したり、意識をそらしたりするの。もちろん当てられるならそれに越したことはないけどね。弓は攻撃力が高いし。でも動く相手に当てるには、相手の動きを読む洞察力も必要だから、簡単じゃないのよ」


 ノゾムは「へぇ」と呟く。


「詳しいんだね?」

「弓バカの受け売りだけどね」

「弓バカ?」


 ナナミの仲間には弓を扱う人がいるらしい。それはぜひとも会ってみたいものだ。


 巨大ナメクジの足元を狙って矢を放つ。ナナミの言っていたとおり、ナメクジは矢を避けようとして右側へ動いた。ラルドがそこへ大剣を叩きつける。


 ナメクジは青白い光となって消えた。


「イエーイ! いい感じだな!」

「【狩人】のセカンドスキル『罠作成』を覚えたら、やれることはもっと増えるはずよ。頑張ってね」


 にこりと微笑むナナミに、ノゾムは思わず顔をそむける。頬が熱い気がするのは、きっと気のせいだ。


 ナナミは確かに可愛い顔をしている。だけどそれはアバターだからだし、リアルじゃおばさん……いや、おじさんだという可能性だってあるわけで。

 見た目だけで判断するわけにはいかないのだ。


 ナナミの目がすぅっと細くなった。


「なんか、失礼なこと考えてない?」

「……」


 なぜバレたし。


 ノゾムはだらだらと冷や汗を流して、必死に目をそらし続けた。


「しっかし見つからねぇなぁ、出口。そろそろキツくなってきたぞ?」


 MP回復用のポーションを飲みながら、ラルドは愚痴をこぼす。さっきまではMP回復用のチョコレートをかじっていたのだが、それも尽きたらしい。


 スライムには魔法しか効かないが、もともと【戦士】であるラルドはMPが少ない。そろそろ回復薬も現界が近かった。


 ナナミは難しい顔をして地図を眺める。


「地図はだいぶ埋まってきたんだけどね。どこかに隠れたスイッチとかないかしら?」

「スイッチかー」


 ノゾムは手元のレーダーを見る。表示されているのは、この場にいる3人だけだ。


 せめて『Ko-ichi』とだけは会っておきたいんだけどな、と思いつつ、レーダーを眺めながらウロウロする。


 光る水晶に足を引っ掛けた。


「何してるのよ、ノゾム」

「うーん……。あれ?」


 ピコンと、レーダー上に新たに光る点が現れる。誰かがこの隠しエリアにやって来たらしい。


「ねぇ、2人とも……」


 レーダーを2人にも見せようと振り返る。

 その時壁に手をついていたことに、深い意味はない。


 しいて言えば、そこに壁があったからだ。



 ――カチッ



 変な音がした。と思ったら、足元の床が消えた。ノゾムの身体は重力に従って、穴の中に吸い込まれた。


「またかよォォォォォ!!?」

「お手柄だぜノゾムー!!」


 落っこちたノゾムの後にラルドが続く。呆然としていたナナミも、やがて意を決して穴の中へ飛び込んだ。


 3人を飲み込んでしばらくすると、床はもとのように姿を変える。


 そこに現れた青年は、訝しげに眉間にしわを刻んで周囲を見回した。


「おかしいな。この辺りから声が聞こえたと思ったんだけど……」




 ***




 落ちる。落ちる。落ちる。

 急勾配のやけに滑る坂を、ひたすらに滑り落ちていく。


「入口が落とし穴なら、出口も落とし穴かよ! ハハハ、すっげぇー!!」

「なに笑ってんだよラルド! これどこまで落ちてくの!?」

「最深部かな!?」

「絶対いやだ!!」


 いやっふー!! というラルドの叫び声が狭い空間に響き渡る。


 やがて穴の終わりが見えてきた。放り出されたのは、やけに広い空間だった。正面には豪奢な両開きの扉があって、扉の向かい側の壁には下り階段がある。


 ナナミがさっと顔色を変えた。



「嘘でしょう!? ここって……」



 その瞬間、天井から巨大な何かが降ってきた。


 鋭く硬い脚が、ラルドの胸を貫く。


 倒れるラルド。

 ノゾムは腰が抜けた。


 目の前に現れたそれは、8つの大きな目でノゾムの情けない顔を映している。


「……最悪っ」


 ナナミは舌を打った。



「地下10階のフロアボス、クリスタル・タランチュラ!!」



 直訳すると『水晶蜘蛛』。


 確かに水晶みたいな身体だなぁと、ノゾムはうまく動かない頭でぼんやりと思った。

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